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水池の情報を話さなければならない。それだけは避けられないだろうと思っていた。どれだけ正当な理由があったとしても同級生の身辺を探るような真似は出来れば避けたいのが本音だ。だいたい連盟にそんな事をして良い権限が本当にあるのだろうかとずっと疑問に思っている。環境保全局の通常業務の範囲だと言い張れるだけの強硬手段だという可能性もある。悪いけど今の段階では俺はそこまで連盟を信用しているわけではない。
しかし不思議な事に誰も俺に情報提供を求めなかった。坂島市の公民館から再び我が西校の最寄り駅までバスに乗って戻ってきたものの、ただついて来るように言われただけで行き先も何も告げられない。雰囲気から察するに、何が現れたかという情報を得た時に既に出来る事と出来ない事が決まってしまうようだった。方向を定めたらまずは一直線に進むというやり方なのだと思う。そう見える。その方向で出来ることの範囲を自由に動くのが大人の仕事というものなのかなと何となく理解した。別の視点が否定される訳では無いだろうから俺は何時も通りに自分に見えるものを見えると正直に言えば良いのだろう。ド素人には何処まで動いて良いのかも分からないから意見も出来ないし役に立てるものでもない。その都度質問して線引きするしかないんだろうな…。
蓬莱さんの運転する黒の軽自動車はどうやら順調に文吾町内に向かって走っていた。別に文句があるわけではないのだけど、何故か不自然な程に俺の存在が消えている。最初に水池の件を報せ、一番状況を知っているはずの人間が車に乗せれられているだけなのはやっぱりおかしい気がする。もしかしたら、俺が無駄に喋っては何か不味いのだろうか。遠くからでも訓練した観測者には異常が解ると言っていたのは、まさか自動車に乗った状態でも可能だという意味なのだろうか。梅村さんは観測者だと話していたから、そうだとすれば梅村さんの訓練の成果が発揮されるのを黙って見ていればいいのかもしれない。
…いや、そんなの解らない。
後で必要な情報を出さずにいた事を知っても遅い。俺には何が重要かも判断出来ないのだから自分自身が関係している事について確認出来る事は最大限で知っておきたい。質問するなら蓬莱さんに、と思ったが運転中なので後部座席に座るアヤシヤの二人に話してみようと、多少行儀が悪いが首を捻って助手席から見返った。
「ウチの家に行ったら、何か解るんですか?」
水池の情報無しで俺達が向かう場所があるとすればぶち猫を見たウチの庭。自宅だ。他に心当たりが無い。俺の動きを気にしてか、隣で運転する蓬莱さんが此方をチラチラと横目で見ている。運転手は前見てて下さい。わざわざ後ろに話し掛けた意味が無いし、怖いから。
「う〜ん…確認作業になると思う。」
「新しく何かが解るっていうより、
神寄せに用があるだけ。よろしく。」
梅村さんと木根さんはそれぞれの考えを答えてくれたのだが、やっぱり俺には言葉の意味が解らず何をしようとしているのかイメージが出来ない。見かねた様子の蓬莱さんが、結局は運転しながら詳しく説明してくれた。
「多分ね、蛇はもう居ない。
ぶち猫が把握して、
重紀君が悪いものだと認識した時点で、
力を失っていってる筈だから。
表象を持ったものだったらワンチャン現れる。
但し、重紀君が居ないと無理だと思う。」
「??」
説明されてもまだ解らない。アヤシヤの二人と仕事に関する話をするのは俺にはまだまだ早かったようだ。
「ぶち猫に生かされてるのだとすれば、
蛇ではなかったと考えた方がいいかな。」
「…??どういう意味?」
生かされている??
…そんな凄い存在なのか?あのぶち猫が??
「眷属も敵か味方かは知ってて、
基本的に敵を生かす理由は無いの。
…良いものと悪いもの、って、
例える方が抽象的だけど正確かもしれない。
ぶち猫が姿を見せた事だけど、あれは、
重紀君に…神寄せに従属を表す行為だと思う。
生きてるなら味方の可能性が高くなる。
…悪いものでは無かったってことね。」
「ああ…まだその可能性もあるのか。」
運転しながら話しているからか、いつもよりピリピリして話にも纏まりが無い。それでも十分伝わるから蓬莱さんの会話スキルは見習いたいものだ。
「それだと家猫の手癖が悪いってことになる。
本当にそうならその猫が普通じゃないから、
重紀君に普通の猫に見えたなら違うと思う。
……多分。…まず重紀君が見たのが、
本当にただの猫なら、だけど、
同級生も自分の家の猫だって言ったんだよね?」
「うん。それは間違い無い。」
「其処だけはね…その前提で進めてるから。」
「大丈夫。本物。………あ、ごめん。敬語…。」
「いい、いい。私も運転中に構ってらんない。」
久々に蓬莱さんが親戚の叔母さんみたいな顔で笑った。




