暴走状態
蛇と呼ばれる心霊現象?を何とかする為に行動すると言う梅村さんと木根さんについて行くと予定を立てたのはいいのだが、勉強会が終わった頃にはもうお昼時も過ぎようとしていた。そもそも俺は始まる前から腹が減っている。最初に勉強会の連絡があった時から解散が昼過ぎになるのは分かっていたので、親には話してあるし昼食代くらいは持っている。帰宅の時間を計算するならば家に帰る迄に買い食いしたくなるに決まっているのだから、コンビニでパンでも買って食べるつもりでいたのだ。
この状況で奢ってもらえると聞けば断る理由はない。あまり知らない大人達に囲まれるのは苦手だった俺にも、今回の事で少し耐性がついてきたと思う。興味深く話を聞ける大人達というのは居るものなのだ。ウチの家族会議の様に、何方もよく理解出来ない考え方で一方的な論調を押し付けるか跳ね除けるかしかない一本調子の攻防戦だけではない。まるで話し合いが成り立たず主導権を取るか取られるかを争っているわけだ。そんな光景を目の前で見せられていると、会議は意見をきちんと交換出来る場所でなければと強く思う。ウチの大人達に至っては子供の前だからか、はっきりした意図を表に出さないから何度聞いても意味不明である。真意が読めないのはイライラする。ついつい、腹を探られると何か不味いのかと勘繰ってしまうのだ。話の性質が今回の様な勉強会とは全く違うせいだとは思うけれど、それにしても何となく嫌な感じがする。落ち着いて第三者の視点で見てみると、薄っすら汚い。
外食するのも蓬莱さんが一緒なら気も楽だと考えていた。色々と不思議に思うところはあるけれど、叔母さんではなかったとしても突然手のひらを返して裏切る様な人でもないと信頼はしている。自分でもソワソワしているのが分かるくらいには慣れない態度ではあったものの、無事にそこそこ腹は膨れた。梅村さん、木根さん、蓬莱さんと俺の四人で近くのハンバーガーショップに行ったのだが、遠慮なくとメニューを勧められたのでビッグサイズのハンバーガーセットに追加で単品のバーガーを注文し、ひたすら黙々と食べていた。他の三人は以前から面識があったらしく、蓬莱さんの顔の広さに驚いた。どうやら二人とも、そんなに遠くない処に住んでいるらしい。
六堂と能勢さんは勉強会の解散後、直ぐにバスで来た道を帰って行った。改めて、六堂と組むと言われたのは何だったのだろうと思うのだけど、こういう要所で何度か姿を見ると、確かに一緒に歩みを進めている感じはある。六堂が神寄せの信者だったとしても連盟が関わらなければ恐らく話す機会など無く、学校も知らなかった。もしかしたら大人達は俺が思っているよりもかなり先の話をしているのかもしれない。
あの後の勉強会は、八角さんから時間もそろそろという話が出て、最後の質疑応答は一つだけで終了してしまった。質問をしたのは能勢さんだ。アヤシヤの二人の様な伝統的霊能者にはfs暴走状態になった人の対処は出来るのかというものだった。二人からの答えは簡潔に出来ないの一言で、それを祈祷師や呪い師が何とかしようというのは伝説に語られる古代の英雄のやった事を再現しろと言うのに等しいそうだ。俺はもう何を言っているのか解らない。彼等にはそういう感覚の話だそうだ、としか解らない。
またもや蓬莱さんからの解説が入り、fs暴走というのは人間が力を制御出来ないというイメージのものではなく、何かに巻き込まれたり、強い操作を身近に感じたりして自らが内外のfsの反応やその反応の差に耐えられない時に様々な異常を来たすものであって、fs暴走が一人の人間に由来していると考えるのは誤りであると教えて貰った。これは俺もスマホのメモを使って入力し、覚えておいた。一度聞いただけではよく解らないからだ。聞いたことをそのままメモしたのだが、今も実はよく解っていない。時間のある時に考えてみようと思う。
兎に角、fsというものは決して人間の意志を強く反映するものではないとは強めに念を押された。超能力系の創作物に多い設定と間違える子供が結構いるらしい。確かに暴走と呼ぶと強い力を人間が生んでいる様に思えてしまうが、実際は一方的に人間がその強い力に振り回されているだけの状態だそうだ。それ故に責任が問われない。神様の領域に偶々人間が関係してしまった時に起こる。蓬莱さんの言葉で語るならば、fs暴走は神様の起こした人身事故なのだそうだ。
技能者は特性として周囲の反応に強く影響しがちだから、存在自体が事故の危険を高めるのだが、直感的な部分がよく働くので事前に打ち消し合う事が可能だという。これは自然現象と言っていい程に自動的に起こなわれているらしいのだが、技能者には意識して行っていると話す人も多い。しかし無自覚は申告出来ないし微弱な流れは観測しても区別が難しいので厳密には説明しきれないそうだ。逆に、技能者からその機会を遠ざけると単純な増幅器になり得る為に、危険が増すという。人間を対象として暴走状態と呼ぶ時は主にこの状態を指す。……人間を対象とするってよく考えたら何だろう。また解らなくなってきた…。取り敢えず技能者は群れでの行動が向いていると考えられているそうだ。結局、なんでかそうなる、以外に上手く説明出来ない事が山程あるのが、fsであり、この世界であるということらしい。
どうやらまだはっきりと解っていない事も多い現象のようだなということは俺にも解った。初めて詳しく説明を受けたのだけど理解が追いついていない。曖昧なままに虚空を見つめていたら本当に直ぐに環境保全局からメールの返事が届いたと海塚さんから報告があり、内容を確認したところで皆が解散ムードになってサッサと勉強会はお開きになってしまった。勉強熱心な能勢さんには折角のチャンスだったのかもしれないのに何だか申し訳ない。まさかこんな流れになるものだとは、俺には想像もつかなかったのだ。




