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拍子抜け


 まだそうと決まった訳じゃない。

その感覚が正しいのかどうかももう解らない。そうと決まった訳では無いから次からも同じ考え方で良いとは到底思えない。何が間違いだったのか、何を俺は間違えていたのか。思い当たる事を言葉にするのが難しい。簡潔に言うとそれは、俺が俺以外の人間を何一つ不自由なく生きていると想定していたのではないかということだ。自分だけが苦労しているという思い込みだ。

 …なんでだろう…。森川の事は知ってるのに。

こんな明らかな矛盾に気付かない訳がない。自分可愛さに有耶無耶にしていたのだ。正当化する理由もあった。俺はベースとして他人は傷一つ無い存在だと、そう考えなければならないのだと思っている。何となく、そうでなければ失礼だと考えている。相手もそう思われたい筈だから、それが正しいのだと。

 …何処から来たんだ?この感覚…。

自分自身も困惑したまま記憶と心から湧いて出る価値観や感情の中から可能性のありそうなものを挙げるなら、田舎の狭い社会では度々話にのぼる、相手の面子というやつだ。そんなものなんだろうなと思って何となく理解していたのだけど、それがこんな弊害を生むのなら話は変わる。常にその前提では不味い。

 …というか、単純にヤバイ…。

俺は無力だと自分では思いながら、森川を助けたつもりになり、水池は完璧…?いや、のんびりと自由に呑気に暮らしているのだと思っていた。

俺はただ、森川に傷は無い。暴力も難無く乗り越えたと思いたいのだ。しかし結局それは森川の努力を過小評価している。俺にそんな風に決めつける権利が有るはずも無い。友人を気取っていただけの傲慢な阿呆だ。

余りにも残念な現実の自分に気付いてしまい、言葉も無く頭も働かない。本気でちょっと休ませて欲しいのだけど、それも無理だ。自分からそんな懇願は出来ない。気が小さいのかプライドが高いのか、今も自分自身の性格の判断で迷っている。取り敢えず優柔不断なのは間違いないのだろうと、また諦めが総括する。もう嫌だ。


 ぐるぐると同じ所を廻っている俺を全く無視して時間は進み会話は展開する。状況に取り残されて気付いた時には自分は何も出来なくなっている。いい加減、いつものことでは済ませたくない。


「私の方からもう少し違う見方を言うとね、

 弱いものに向かうのではなく、

 次世代を担うものに向かうという考えもある。

 女の子は母体だから…。」


周囲の話に気持ちが戻った時には蓬莱さんが意見を述べていた。梅村さんには少しだけど明るさが戻っている。


「ああ…ありますね。多分その通りなんです。

 でもそれは…所謂禁句みたいな扱いで、

 恐ろし過ぎて口に出来ない事。

 こういうのも昔ながらの伝統です。」


「基本的には思わぬ事故だから、

 恨みや憎しみを煽る表現は避けられます。

 そういう詳しい仕組みは避けてぼかす。

 弱いもの、とか。呪いとはそういうもの、とか。

 昔ながらのコミュニティでは、

 不幸を何かのせいにしがちでしたから、

 周りの人間から守る意味もある。」


「……?」

木根さんの言っていることがイメージ出来ない。守るとは、何から何を?


「解る?」


梅村さんが俺に問い掛ける。どうもこの人は人をよく観察している。俺が神寄せだからだろうけど、張り付かれているように感じるくらいだ。

「…あまり…。」


「嫌悪感や責任追及、穢れのイメージ。

 そういうのから遺族を守る。」


「!?遺族!?」


「そう。そこまで有り得る。それが呪い。

 けど、遺された人達には未来がある。

 偶々巡り合ってしまった悪いもののせいで、

 "可哀想なことになった"で済むように、

 悪意を警戒して何となくそれを逸らす。

 …ウチのような呪い師でなくても、

 蛇の呪いを知ってる人は多い。

 異常に有名なのは、因果関係が解りづらくて、

 こう言うとアレだけど、良くも使えるから。

 子供を亡くしてしまった家を慰める為に。

 だから広く伝えられてる。昔の人達は賢い。」


待ってくれ。人の生死に関わるような恐ろしい事を放置するなんて許されるのか!?

「あの…同級生は…?」


「??…大丈夫。普通に仕事として受ける。

 …ああ、心配だよな。そりゃ。

 誰も説明してないし。」


拍子抜けした梅村さんの表情が強く印象に残る。それを同じく拍子抜けした俺が、ぼけっと口を開けて凝視していた。


「…あ!ごめんなさい。松尾君。

 私が紛らわしいこと言ったから!」


ずっと静かに話を聞いていた八角さんが慌てて謝ってきた。


「連盟とアヤシヤは動けないけど、

 僕達は家業で動けるから。

 ちゃんと助けるつもりでいる。

 人身事故になりかねないし……あ。そうか!

 事件と事故は違うから。呪いは神様。

 能力者の仕業には能力者。それが事件。

 これは僕達には常識なんだけど、

 動物は神様の関わるものにしか反応しない。

 …何処で区別してるんだろと思う。本当に。」


可笑しそうに木根さんが言った。

 …つまり、八角さんが言ったのは、

 連盟に対する皮肉だったのか…。

大人達はザワついている。そういえばまだ具体的に話をしていないとか流れが分かる訳ないよなとか、口々に話している。蓬莱さんは、運が良いと言ったのはそういう意味だと説明してくれた。専門家に繋ぐのは職務であり見過ごす選択肢は無いと珍しく興奮気味だ。どうやら人間に直接的な被害がある時は能力者ではなく専門家に頼むようである。確かに、人体内部に技能者の力は無効ということだし、出来ることは無いのかもしれない。

そういえば曾祖父ちゃんも連盟とは距離を置いていたが英雄と呼ばれていた。やっと理由が解った。蓬莱さんの言葉通りなら、それがマニュアルらしいのだが、環境保全局と連盟は地元住民個人の為にはなかなか動いてくれなかったのだ。印象として。曾祖父ちゃんが登録もされていないのなら、直接頼みに行く人が多かっただろう。敢えてフリーのスタイルだったとも考えられる。

…なんだか一気に気が抜けた。

梅村さんを見ると、やっぱり明るく笑っていた。

「あの…呪い師って、

 呪い殺す…仕事ではないですよね?」


「ハハッ。当たり前だよ。

 確かに名前の通りに考えると、そうだけどね。

 対策を講じるのが仕事だから。」


「…御祓いとは、どう違うんですか?」


「そんなに変わらない。方法が違うだけ。」


俺のとんでもない質問にも真面目に応えてくれた梅村さんの説明に、いやいや、と否定する調子で木根さんが横から割り込んでくる。


「基本的には、祓えないものを除ける。

 人間に祓えるものは限られるから、

 本当に不味いことをやらかした時は、

 祈祷師より呪い師の出番。」


「逆だって。そっちのが凄い。

 …押し付けようとしてないか?」


「……。や、そんなことないよ。」


木根さんは顔を逸らして分かりやすく惚けていた。

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