ド素人
ある程度は情報が出揃ったところで本題に入るのが会議の進め方だと、昔見た映画やドラマでパターンを学んでいた。あくまでもフィクションだと思っていたから様子を見ていたつもりが、段々と深い話になると今度は素人には質問し辛い空気になる。今の時点で正直少し焦っている。今日は新人であり未熟な学生である自分も参加している勉強会だ。六堂の発言を聞く限りは単純に素直に分からない事を質問していけば良いらしい。会議とは違って決めなければならない事柄があるわけではない。しかしどうやら勉強会というものは情報共有の場としても機能しているらしいので、そこに割り込んで邪魔をするのもまた気が引ける。
「重紀君本人は、
次郎右衛門さんの家で見たものをどう思った?」
まるで俺の焦りを見抜いたかのように蓬莱さんが真っ直ぐに此方を見た。単に分かりやすく顔に出ていただけだとすれば、ド素人なのに気を遣って貰うのは図々しい気もするなと一瞬迷った。これが本来の関係とはいえ丁寧な標準語で話しかけられると他人行儀に思えて変な感じだ。
「どうと言われても…意味が分からないから、
ただ、綺麗なものだとしか思いませんでした。」
小羽田さんにも同じ事を話していたと思う。あの後、直ぐに感想を聞かれて答えた記憶がある。蓬莱さんには伝えていなかったのだろうか。
「…エフの動きって綺麗なんだ…。」
「そんなにはっきり動いているのに視覚だけ?
肌感覚みたいな…変な感じは無いの?」
梅村さんと木根さんは興味津々の様子である。もしかしたらこの二人は神寄せという能力に関心があって勉強会に来たのかもしれない。そういえば、アカザワさんなんか神寄せに数分会う為に、こんな辺鄙な場所まで来ていたみたいだった。まぁ、何かの用事のついでという可能性もあるけれど。
「無かったです。視覚と聴覚だけで。」
「それもう少し詳しく…どう見える?」
木根さんは腕を伸ばして机に置いたスマホの向きを変え、此方に近付けて移動させていた。その動きで気付いた。多分録音しているのだ。
「…凄く小さい光の粒みたいな…、
埃が舞ってるのに似てます。凄い速さで。」
「埃…へぇ〜…面白い。」
「見てみたいなぁ。」
二人が口々に感想を言い合い、ゆっくりした時間が流れる。…言うなら今だ。
「あの…昨日のことなんですけど…、
曾祖父ちゃんの家で見た猫を、庭で見ました。」
「…お家の庭で?」
「…逃げた猫?」
蓬莱さんと小羽田さんが殆ど同時に話しかけてきた。どちらに答えるべきか二人の顔を交互に見てキョロキョロしてしまい、それがまた分かりやすかったらしく、小羽田さんが蓬莱さんに先を譲った。
「どうぞ。話、続けて貰っていい?」
「ウチの家の庭で、白と黒のぶち猫を見て、
…なんか、何処かから走って来たみたいで、
近所の飼い猫に追いかけられてたらしいです。」
「らしい?…どういう意味?」
「知り合いの…同級生が光る球を見て、
飼い猫がそれを追いかけたって言ってました。
…道路の真ん中を走ったから、危なくて、
そいつは飼い猫を追いかけて来たそうです。
…僕は偶々庭に居て、居るのが見えたから、
何か用かと思って、話を聞きました。」
「光る球を見た…。つまり、
重紀君はそれがぶち猫だと思ったのね?」
「?…はい。」
……あれ?そうか、よく考えたら……。
俺はぶち猫と光の球を同時に見たわけではない。光の球を見たのは水池だけだ。ぶち猫とは別のものである可能性も……ある。
…ということは…。
表象?が二つ?居た?ってこと??
「庭で見たのは間違いなく、あの時のぶち猫?」
「間違いないかと言われると自信無いですけど、
…そうだと思います。」
「運がいい。呪いと御祓いの専門家が居る時に。」
??何か関係あるのソレ??
蓬莱さんがアヤシヤの二人に話を振った。何処となく姿勢を正している。梅村さんは余裕のある笑みが消えて慎重な表情なのに対して、木根さんは薄っすらと微笑みながら机の上で組んだ手の人差し指をゆっくり動かしている。
梅村さんが重々しく手を挙げた。
「ぶち猫っていうのは、
神寄せと関係の深い表象ですか?
例えば、土地神様の眷属とか…。」
「そうなると思います。古来の考え方だと。」
「なら分かり易い。ぶち猫に助けを求めたか、
ぶち猫からじゃれついたか。」
木根さんがスラスラと読み上げる様に答える。
「同類?」
「近いだけじゃない?そうそう居ないでしょ。」
「猫が追い掛けるのは大体が蛇か鼠か…。
その同級生、女の子?」
「え??…あ、はい。」
梅村さんの質問の意味がサッパリ解らない。
「同級生、十五歳だよね。…蛇かな。」
「??え??」
「蛇だと思う。俺も。」
木根さんがうっかりして一人称を間違えた。俺はもう何が何やら、他に着目出来る点が無いくらいに話の流れも解らない。




