節操なし
「人体の内部に干渉は不可能。
梅村さんの言う通り、
それが出来たら陰陽道は必要無い。
生物は全て同様のルールで組み込まれてる、
というのが通説だけど…、
勿論全ての生き物で確かめた訳じゃない。」
「…へぇ〜。」
なんとなく聞き覚えのある内容だ。何かで読んだか、陰陽道の話の時に触れていたか…?
「通説が絶対とは限らない。
この間ひっくり返されたばかりだし、
あんまり気にしないで。」
「!あ…すみません。」
梅村さんがハッとして謝ったのが不思議に映る俺には恐らく大事な何かが理解出来ていない。…なんだろう…。
「いえ。…重紀君はこれで良いんです。
スローペースで正解でした。」
「?そういうもんなんですか?」
「前列はありません。ご家族の希望に沿っただけ。
でも理解が無くては余計な混乱を招いた。
そう思います。」
「…結果的に、とは言うべきじゃないか…。
難しかったんですね…。
勉強会は参加する?松尾君。」
「え?あ、はい。」
ニコニコしている割に、どうも梅村さんはマイペースで油断出来ない。急に話を振るあたりは蓬莱さんに似ている。
「さっきの話、
丁度今日話そうと思っていたんです。
良いきっかけになりました。」
にっこりと微笑む蓬莱さんは俺を見上げると、"此処からが大変。"と呟いてゆったりと大きく息をした。
記録する目的で話をする時間は三十分も経たずに終わった。それをどこで判断したのかと言うと、大人達が椅子に座り始めたからだ。四角く囲うように並べられた長机には、一つにつき三人分の椅子が用意されていた。俺は変わらず展示用ケース前の同じ椅子に座ったままだった。六堂と木根さんもドアの近くに居る。その隣に梅村さんが加わっていた。能勢さんと八角さんは既に何か話を始めていて、能勢さんは鞄に入れていたらしい小さめのノートに何かメモしている。まだ機械類を触っている小羽田さん以外が着席したのを確認して、海塚さんが話を始めた。
「無いね。テリトリーの考え方をしても、
土地神様に反応が無いなら無いな。
此処の資料は信仰としての祈祷師のもの。」
大人達が頷くところに能勢さんが手を挙げた。こういう会議みたいな場に経験があるのか、要領を得ている感じだ。
「…あの、無いって…何を基準にしてるんですか?」
「単純に、回路が有るか無いか。
循環している状態が無い。
例え本物の能力者の遺した物だとしても、
土地神様とは関連しないから神寄せではない。
定義としてね、広く神々に通じた方ではない。
…神寄せは兎に角、異常に広くて、
節操なしみたいなもんなんだけど、
ここの資料は繋がりが観測されない。」
??セッソウなし…セッソウ梨…??
…あ、節操無しか!?
なぜだか唐突に悪口を言われた。多分、神寄せという能力のことを言っていて、俺の性格には全く関係ないのだろうけど。
「繋がりがあると、どうなるんですか?」
「何かが起こる。戻って来る反応とかね。
エフが動くかな。普通なら。
松尾君に刺激があっても反応は無い。
ただね、本人も気付かないのは、なんで?」
本当に解らないと言いたげな、きょとんとした顔で海塚さんが蓬莱さんに質問した。
「重紀君は観測者ですが技能者ではありません。」
「操作されてる事を観測出来ないのは?」
「私にも分かりません。
技能者同士はエフの動きに敏感ですけど…、
例えば抑制作用とされているのは、
その鋭敏な察知能力を利用して見張る様な、
あくまでも意識的な行動です。
…彼の観測能力は無意識で…、
その違いに関係しているかもしれません。」
「う〜ん…。簡単に言うと、
まだ鍛える前で無意識に観測してるから?
つまり鈍感だから見えないだけ?」
「そんなわけない。
ケースの中だからじゃないですか?」
六堂が横槍を入れる。びっくりした。大人にも遠慮が無いのは知っていたけれど、ちょっと無作法じゃないのか、この場合。
「いやいや。ケースは後から入れたんだもの。
エフというのは、間仕切りの中で回路を作り、
密な反応を繰り返すことがあるけどね、
一旦間仕切りを出たら自由。
それは逆に言うと、一度外に出てしまえば、
ケースなんて意味を成さないということ。」
「…あ〜、そっか…。」
六堂は何処までもタメ口だ。…もう凄いなコイツ。
「神寄せは基本的に部屋の中で行う神事だから。
間仕切りの中で何かを発生させて、
それを連れて出ることで、
依頼主の近くに良いものか悪いものを放つ。
そういう種類の仕事もしていたらしい。」
「へぇ〜…、まぁ呪いも神様ですしね。」
やっぱり、その専門家なんだろうか。腕組みして一人呟く梅村さんの隣で木根さんが手を挙げた。
「あの、僕の力が弱いだけじゃないですか?」
「…ああ…成程。」
「普段の使い方が癖になってるんです。
いつも通りにやったから相当弱いですよ。
積極的に観測しないと分からなかっただけ、
ていうオチは十分有ると思う。」
木根さんは喋り始めると少し早口になった。




