共鳴
大した理由も無いのに他人を殴る奴を許せないと憤るのが自分であった筈なのに、わけも解らず他人から"無い。無い。"と繰り返されて苛ついているのも自分である。自分というものを冷静に落ち着かせるのは難しい。それが出来たら大人だとか立派だとか、世の中から評価されるようになるのだろうか。では俺が冷静ではないことは悪いことなのか?落ち着くというのは収まるとか型に嵌まるのと同じことではないのか?つまり大人しく収まって型に嵌まるのが立派な大人であるということになる。…まぁ正しいし、そんなもんかなぁ…。なんとなくだけど大人には大人の表現の仕方というものがあるのだろうとは思っている。
先程から大人達がコソコソと動き回っているのだけど、ジェスチャーも多くて状況が解らない。海塚さんはアロハシャツのポケットから眼鏡を取り出してスマホを操作し、何か読んでいるようだ。木根さんと六堂は入り口のドアに近い椅子に腰掛けて見学している。まるで他人事だ。珍しく六堂がスマホを触っていないなと思いながら見ていたら、能勢さんと八角さんがそのドアを開けて部屋に入って来た。そういえば今まで部屋の中には居なかった。技能者だからかと思ったが、蓬莱さんは海塚さんの隣に立っている。
あ…でも蓬莱さんは観測者か?
俺が蓬莱さんについて知っていることは、陰陽師の先生について陰陽道を勉強中だという話くらいだ。技能者ではない可能性もある。よく考えたら以前に聞いた情報が全部嘘だったのだとしたら、俺は蓬莱さんについて、全くと言っていい程に何も知らない。連盟の関係者の中では一番付き合いが長くて身近な存在の筈なのに、まだ六堂や能勢さんの方が情報を出してくれている。二人とも技能者で連盟の関係する私立高校に通っている、とか。六堂なんかは中学の同級生だったのだから、近寄りがたい信仰があったり、あんなグダグダと面倒臭い性格をしていなかったら、もっと仲良くやっていてもおかしくないのだ。
「立ってるの疲れたなら座ったら?」
「あ…はい。」
梅村さんだけが俺に対して色んな質問をしたり話をしてくれている。音量を抑えて淡々と話す姿は駅でリラックスしていた時とそんなに変わらない。一貫して淡白な印象だ。見た目のせいか何処を見て何を考えているのか解らない独特の空気を纏っている。観測するべき事は済んだのだろうか。
部屋を見渡す俺にはまるでバラバラに見える大人達の行動にも多分それぞれ何かの意味があるのだろう。勧められるままに展示ケースの近くにあったパイプ椅子に腰掛けてみたら一気に力が抜けて大きな溜め息が出た。なんだかんだで緊張していた事に気付く。
「今、周りの人達、何してるか解る?」
「や…解らないです。」
「変化が無い。おかしなことじゃないけど、
この地域に神寄せと伝わるものが、
松尾君の引き継いだ神様との関係とは、
関連がない可能性が高くなってきた。」
「??」
「fs関係者では俗に共鳴と呼んでる現象がある。
拡散されたものが、離れていても影響する。
俺は呪いに詳しくて…丑の刻参りとかそう。
藁人形に髪の毛刺して、
その持ち主にダメージ与える呪い。
聞いたことある?」
「!はい。…あ〜〜…共鳴…。
なんとなくイメージ出来ます。」
元々一つだったものが、離れた場所にあっても繋がっている感じ…だと思う。
「形跡は馬鹿に出来ない。
だったら神寄せに何かが働き掛けた時に、
形跡には変化がある可能性がある。
これだけ近いから…、
同じものなら何か見えてもいいくらいなのに。」
「…それが無い?…視覚観測者…ですか?」
「あ、俺?そうだね~。一応そうなるかな。」
「俺の見えるもの、言った方がいいですか?」
「ああ、いや、今日はいいよ。観測される側。」
「…そうか…。」
「俺はね、色が見えるんだけど…何ていうか、
一帯をうっすら塗り潰したみたいに、
ぼ〜んやり見えるから…。
…なんだろうなぁ…。悪いけど木根がさ、
少し操作したんだ。さっき。」
「?」
「俺の近くに居た時に。松尾君に。直接。」
「……?」
「分からないんだと思う。神寄せは。
そもそも反応が無いみたいだし。
これは、おかしいと思うんだけど…。」
「??なんか俺、鈍いんだそうです。」
梅村さんが話している内容と意味が合っているのか分からないが、確か前に小羽田さんに言われたことがある。
「あ〜、そういう表現もあるか…。
エフを動かすってね、
人体表面には…虫が這いずるって例えられる。
凄く嫌な感じがするもんなんだけど…。」
「?何も…。表面?内部も出来るんですか?」
「!?…怖い事言うね。
内部って…それが出来たら大変だよ?」
「??え??」
「重紀君はまだあまり詳しく知らないから。」
混乱する俺を見かねた蓬莱さんが横から話を引き継いで解説してくれた。素知らぬ顔でしっかり聞いていたらしい。




