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ガラスケース


 二階は一部屋が在るだけの簡素な造りだった。廊下の窓からは駐輪場と隣の家の庭木が見える。艷のある植物の葉には太陽光が反射して白く光っていた。


「お疲れ様です。」


「お疲れさん。暑いなぁ。」


ゆっくりと前進のペースを落として不自然に後ろに下がって来たので何だろうと思っていたら、小羽田さんと話をする為だったらしい。気になって振り返る俺に能勢さんは先に行くようにと促した。そう言われても気にはなるのでしっかりと聞き耳を立てる。


「話を聞く機会を作って貰えたのは、

 有難いんだけど…大学生…だよね?」


「多分。…院生やったかな?まぁ後で聞いて。

 学生でも一端の後継者さんやから。」


「御礼言っとこうと思って。」


「あぁ〜、それなら蓬莱さんに言った方が良いよ。

  俺は伝えただけやから。」


「そうなんだ…。てか、てっきり、

 小羽田さんが調べてくれるんだと思ってた。」


「やらんて。ようやらん。無理は無理。

 これからの子に、ニワカな事教えられへん。」


「勉強したら?」


「……。出来る限りはやっとるわ。これでも。」


「………。」


「や、怒ったわけではなくて。」


「別にいいけど。」


 ……そういうことか。

以前に能勢さんが疑問に思ったことについての議論を小羽田さんが専門外だからと断った事がきっかけで、ちょっとした口論になった。ニワカな事は教えられないというのが信念なのか断る為の言い訳なのかは怪しいところだけど、取り敢えず小羽田さんは能勢さんが希望している事を蓬莱さんに相談したのだろう。…確かあの時は居なかったから。

それにしても公民館を借り切ってまで時間を取り、わざわざ他の団体の人を連れてこの場所に来なければいけない程の資料が此処にあるのだろうか。とてもそんな凄い所には見えないのだけど。



 資料館の資料を扱うからには坂島市の職員でなければならないのではないかと考えていたのは完全に勘違いだった。資料館は資料を展示しているだけで特にそれに触れてみるとか古文書を読んでみるとか、そういった事は最初から予定されていなかったようだ。

二階の資料館にはガラス張りの展示コーナーに幾つかの古い農具や錆びた家具の装飾?の様な金属片、読めない文字が書いてある木製の札等が飾られていた。見る限り数点、小さな飾りを含めても十点もない展示数である。ガラスケースは学校や役所で見る賞状やトロフィーを飾るものと同じくらいの大きさだ。これを見るだけの為にわざわざ時間をかけてこんな場所まで来たのであれば相当がっかりする。資料館というより資料室だ。しかもその資料とやらは僅かに数点あるだけで貴重なものとして扱われている訳でもない。この場所に来ることに一体何の意味があったのか解らない。

部屋を見渡してみても資料館と名乗る由縁があるとすればそのガラスケースくらいで、残りのスペースは長机とパイプ椅子の置かれたごく普通の会議室である。勉強会と言うからには目的は展示品の鑑賞ではなく、何かしら俺達には学ぶべき事を教えて貰える機会があるはずだ。しかしそれくらいなら何処でも出来る。ではどうしてこんな場所にわざわざ足を運ぶ必要があったのか。


「松尾君はこういうの、見たことない?」


「?」

梅村さんは俺に話しながら何処か遠くを見ている。

 …これは多分…観測者の人だな。

特有の行動、というと決めつけだけれど自らの感覚を頼りに観測する観測者は、集中すると動きが周りから浮いて見える。重要だと考えるポイントが違うからだ。普通ならば何の断りもなくあからさまに観測するのは失礼だろう。しかし俺はこういう事が有り得ると最初に聞かされている。測定を試みるというのは、そういう意味も含まれている。正直全く解っていなかったから許諾もほぼ親任せだったものが、ようやく自分でも理解出来るようになってきた。

「こういうのって、どれですか?」


「どれでも。全部。」


「?…何ですか?コレ?」

ガラスケースに展示された物には何一つ思い当たることが無い。分かることといえば、農具は鎌だと思う。昔使われていた物を見て、それが何かは推理出来ても展示される理由などさっぱり解らない。貴重だからか?鎌が??

ぼんやりとケースの中を見る俺に海塚さんが説明を入れてくれた。


「知らんか。そうやわな。…これはね、

 大昔の神寄せが身に付けていたらしいもの。

 一部で金属を打ち鳴らして悪いものを祓った、

 ていう話が伝わる地域があって、

 その際に使われたという金属。…あとは、

 現代でいうfs暴走事故と考えられる記録。」


「見たことないです。…全部。」

知っていないといけないことなのだろうかと不安になって蓬莱さんを目で探した。


「普通はそう。知られてないから。」


 あ…そうなんだ。

少しホッとして周りを見て気付いた。いつの間にか小羽田さんが万全に録画と録音のセッティングを済ませている。

 ああ〜〜、そういうことなの?これ…。

資料館にわざわざ来た理由の答えは、神寄せに縁のある品とされる物に対する俺の、というか、エフの反応?を見る必要があったから。言われてみれば、だからこそ蓬莱さんが企画したのだろうし、小羽田さんが大荷物を抱えて来ているのだ。そういえば言われていた。ゼロから始めることが出来るかと。いままでの神寄せには信用出来る資料が殆ど無い。

 …俺が、引き継いだからだ。神寄せを。

 土地神様と親しくなる……何かの条件を。

いきなり放り込まれたのは事実だが、バイトを引き受けているのも事実だ。俺が自主的に連盟に協力して、情報の提供を許している。大した事だとは考えたことも無かったけれど、連盟にとっては今まで無かったレアな資料になるのだ。

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