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公民館


 目的地は鉄筋二階建ての時代を感じる建物で、薄いクリーム色をした壁と平らな茶色の屋根にはあちこちにヒビが入って修復された跡があった。周辺に在る民家の中に埋もれてしまいそうなくらいに普通の家のような顔をして建っている。ぱっと見る限りでは確かに駐車場と呼べるスペースは無く、代わりに自転車の駐輪場が広く設けられていた。建物の見た目の割に新しく小綺麗な「公民館・資料館」と書かれた表札が左右に別れたコンクリート製の壁の片側に取り付けられている。正面のスライド式の柵を開けて敷地に入ると直ぐ脇には植樹されたのだろう緑の木々と資源ごみの回収ボックスが幾つか並んでいた。周囲を金網フェンスで囲まれていることに気付けば公共の建物らしいと分かるのだけど、初見では見過ごしそうだ。

公民館前のバス停で下車した時間は既に十一時に近く、勉強するよりも空腹が気になる。下手すると腹が鳴る。食べる物など持っていないから水筒のお茶でも飲んで誤魔化すしかない。仕方なく道中で立ち止まり、水筒を傾けて中身を飲んでいると自分を追い越して行く人達は殆ど手ぶらである。荷物を持っているのは俺と能勢さんくらいで、他の人達は飲み物を手にしているだけだった。事前の連絡事項の持ち物を真面目に揃えて来たのは俺と能勢さんだけだったようだ。(小羽田さんは除く。)

 蓬莱さんを先頭に梅村さんと木根さんが続き、玄関の扉を開けて中に入ると、先に来ていたらしい資料館の人?が待っていた。長い黒髪の女性だ。年齢は二十代…三十代?…正直よく分からない。蓬莱さんと挨拶を交わすと、玄関からも見える位置にある階段を数段登って上の階に向けて声を掛けた。


「皆さんいらっしゃいました〜。」


は〜い。だか、お〜い。と聴こえる籠った声が階段の上から響き、暫くして恰幅の良い眼鏡の男性がパタパタとスリッパの音を鳴らして降りてきた。白髪混じりの髪を掻き分け、額と首周りの汗をハンドタオルで拭いている。蓬莱さんより少し歳上だろうか。そうやって比較して考えてみると、女性は小羽田さんと同じくらいの歳にも見える。

男性は海塚(かいづか)さん、女性は八角(やつの)さんと名乗った。

 …あ、この人達が…。

聞き覚えのある名前だ。氏神様の神社の神職さんから教えて貰ったたはずだから連盟の人だろう。坂島市の職員さんではなさそうだ。

気付いてはいたのだが、二人共さっき新しく貰ったものとは種類の違う名札を首から下げている。大きく印字された苗字の上に指導員という肩書きだけが読み取れた。しかし連盟の名前が入っていないので何処の所属なのかも分からない。名札作るの下手くそか。連盟は。


「今日は宜しくお願いします。」


「お願いします〜。」


八角さんの挨拶はイントネーションが関西だ。小羽田さん程ではないが、薄味の関西人の気配がする。ノリというか、独特のテンションが底に流れているのを感じる。海塚さんも恐らくこの辺りの人ではない。あまり馴染みのない、何処かの訛りが入っていた。


「資料館は二階になります。ご案内します。」


アロハシャツとスラックス姿の海塚さんは礼儀正しく軽い一礼をした。合わせて俺達も会釈をした。

アロハシャツは立派な正装だ。夏には公務員のデスクワークでも認められているわけで、変な事など何も無くむしろ固いくらいの服装なのだけど、やっぱり背景が公民館では妙に陽気に見える。明るい気持ちになれるアイテムとしては凄く優秀なのに、単純な自分は見るだけで浮かれてニヤニヤと笑いそうになる。気を付けないと失礼だ。刺激の少ないド田舎に生まれると刺激に弱くてなかなか慣れない。


「いや、今日は暑いですね。

 二階は今エアコン入れましたから、

 そろそろ冷えてますよ。

 さっさと上に行きましょうか。」


言われるままに先導する海塚さんに従って順番についていく。八角さんはどうぞどうぞと階段を手で示して先に自分達を通してくれた。つい背の順のクセで、なんとなく後の方に回ろうと幅の狭い階段待ちをしていたら、荷物があるせいで最後尾につけていた小羽田さんに八角さんが話し掛けていた。本当に知り合いだったらしい。


「小羽田さん、お久しぶりです。」


「御無沙汰してます。」


「どの子が例の…?」


「あ、その、目の前の。」


「え!?十五歳って…。」


「松尾重紀君。十五歳です。」


「…最近の子は大きいって言うけど…。」


口を半開きにして見上げる八角さんに、一応自分から名乗っておいた。それにしても、関西人はデカい人間を見ると口を開けるルールでもあるのだろうか…。

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