表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/115

路線バス


 大自然を感じる絶景バスツアー。とか、のんびりとした時間を楽しむローカル線電車旅。とかいうキャッチコピーを何処かのテレビ番組で目にした事がある。テレビ番組は都会に暮らす人達が作っているのだから仕方がないのだけれど、田舎暮らしが非日常ではないガチ田舎民には、そののんびりと見える大自然の中こそが戦場である。田舎と都会の旅の価値観はどちらが主戦場であるかの違いでしかないように思う。ド田舎民に言わせれば、ただ広いだけでも時間と体力(或いは車のガソリン代と維持費)を奪うという発想が生まれない時点で移動に不便の無い街育ちは違う。都会は都会で家賃や物価が高いとは聞いたことがあるけれど、時間を無駄使いする贅沢を味わうとかで、わざわざ不便を体験に来る人達もいるのだから凄い。都会にはお金があり余っているのだろうか。

嫌味を言って牽制したい訳ではなく、夢や幻想と現実の境界を曖昧にする行為はどこまで許されているのかを考えていた。デメリットに勝るメリットがあればいいのか。それは何処を基準にするのか。バランスの計算は難しくはないか。一方的に押し付ける事が成立するのならば許されるということなのか。確かにド田舎民から見た都会も同じく、便利で何をするにも容易く楽であり、存分に人生を謳歌出来るに違いない桃源郷である。…まぁこれは綺麗なところだけ切り抜いている自覚はあるけれど、だいたいの田舎育ちの子供はそう考えるものだと思う。汚いところや危険は避けられるのだと夢見ている。俺もそうだったのだけど、昨今のニュース等を見ていると綺麗なだけの夢もジワジワと現実に侵食されて形無しだ。大人になるとはこういうことなのかと思うと嫌になるほどつまらない。前衛的で利便性に優れた大都会の幻想を勝手に押し付けたところで、やっぱり都会に裏切られるだけなのだろうか。そうであれば田舎体験にも同じことが起こるのではないかと気付いてしまい、心配になる。

自分の周りはともかく、一般的には田舎は不便だが悪い所ではない。住む人間がどうとかも、一概には言えない。イメージの一言で片付けられるものには実は沢山の情報が隠れていて、共感を得られるかどうかでもその評価は変わる。一人の人間がどこまで自由に語って良いのかを考えてみたところで、俺には結論が出ない。結局は真実を語ることが最も誠実なのかもしれないが、俺の家も環境も置かれた立場も、ちょっと普通や一般ではないから迷う。

 …………。

ゆらゆらと揺れる路線バスの窓の外は緑の田畑と青い空。背の高い建物は見当たらず、空は雲と鳥だけの優雅で伸び伸びとした世界だ。電柱すらも目立つくらいに何も無い道路を自動車と自転車は忙しく走り、歩く人影は滅多にない。

 …不味かったかな…。

俺が嘘をついたことに、水池は気付いていたのだろうか。特にどうということでもないけれど、何故嘘をつくのかと疑問を持ったとしたら…。実際に経験した事だから解るが、自分が見たものが他人には見えていないと言われたら衝撃を受ける。アイツは一人でどうやって納得したのだろう…。直ぐに忘れて気にしないタイプならいいのだけど。



「…なんだ。喫茶店にいただけか。」


何処からか能勢さんの声が聴こえる。


「あんな住宅地に、

 喫茶店なんてよく見つけましたね。」


梅村さんだ。後ろだからよく分からないが、どうやら近くに蓬莱さんも座っているらしい。標準語の言葉遣いが大人っぽいなと思った。


「偶々よさそうな店があって良かったわ。

 早く来すぎちゃったから、

 どうしようかと思って。」


車で来ていたらしい蓬莱さんは、何処かに自分の車を駐車してきたことになる。俺が利用した自転車預かり所は自動車の駐車場も近くに持っていて、同じお婆さんが受け付けをしている。あの辺りに他に駐車場はないだろうから、蓬莱さんも俺が行く前にあの婆さんの洗礼を受けたのだろうか。…どうでもいいけど。


 日曜日の路線バスはそれなりに混んでいた。お客さんは年配の人が多い。全員がそれぞれ好きな場所に座り、会話を楽しむ中で俺は黙って外の景色を見ていた。通路を挟んで隣の席に座った小羽田さんは既に自分の荷物にもたれかかって目を閉じている。流石にまだ眠ってはいないとは思う。六堂はその前の席でスマホを操作していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ