個性の範囲
「蓬莱さんの家って近くなの?」
声を掛けられて振り返るとウメムラさんが不思議そうな顔をして此方を見ていた。
「分からないです。…何も知らないんで。」
嘘ではない。俺の叔母さんは同じ県内の市街地に住んでいるはずだったのだけど、最早そんな情報が本当かどうかは分からない。聞かされていた話では蓬莱家の住所は坂島市ではなかったのだが、意外と近くに住んでいたというオチは十分に有り得る。
「今日の予定は聞いてる?」
「…何となくは。僕等の勉強会、ですよね。」
「あれ?違うのかな…。」
「?」
「知りたがってるのは技能者って聞いた。
神寄せとは別の子なんじゃないの?」
疑問に応えたキネさんの声は男性にしては細くて優しい。シックなファッションによく似合っていた。さっぱりとした造形の中で色の濃い瞳が際立って強く、意志の強さを感じさせる。顔の印象がアカザワさんと似ているような気がした。自分と似た顔の人間には親しみを覚えるという話は聞いたことはあるけれど実感したことは無いから本当かどうかは分からない。
ウメムラさんと話している内容には思い当たる事があった。勉強会…。何かを知りたがっている技能者…。
「まぁ、直接聞くのが早いか。」
「いつも思うけど、大変だよな。荷物多くて。」
駅の改札前でフラフラしている自分達の所に一人だけ大荷物を抱えた小羽田さんが到着した。また何かの機材が入っているのだろう旅行用バッグはガシャガシャと音がしているのだけど内部は大丈夫なのだろうか。
「おはようございます〜。」
あちこちに頭を下げて挨拶すると、一息ついてから小羽田さんは集まった人数と数メートル先から会釈をする蓬莱さんの姿を確認した。腕時計の時間を読み上げた後でズボンのポケットから取り出したスマホを見ながら参加者の苗字を呼んでゆき、最後に六堂に話し掛ける。
「六堂君、講習扱いやけど、いいかな?」
「聞いてます。」
「なら良かった。宜しくな。」
「小羽田さん、髪切ったんスね。」
「ん?ああ…えらい髪の毛気にするなぁ。
…こだわりある?」
「あるからこの髪型してる。」
「あ〜そらそうやな。似合ってるよ。」
本気でどうでもいい雑談をしている様子を横目で見ていると何だか気が抜けて緊張が解れてきた。仲が良いのか悪いのかよく分からないやり取りだ。…というか前々から気になっていたのだが、六堂はどうも小羽田さんに変に構って貰いたがる。かといって好意的とも限らず何がしたいのかよく解らない。
…俺は他人に対する理解力がないのかな…。
大門は行動がよく解らないが、六堂は感情がよく解らない。個性の範囲で特に珍しくもないタイプだとしても最近になって急に周りに増え過ぎている。明らかにfs関係者に多い。能力者は一癖ある奴が多い傾向でもあるのだろうか。
個性の範囲には違いないんだけど…。
fs能力者が変わっているというよりは、多分それは知らない人と知っている人の違いだ。俺は少し前まで何も知らなかった。だから自分を普通だと思えた。普通の人が何も知らないのではなくて、何かを知ったり気付いてしまうと普通でいることを諦めなくてはいけなくなるのだ。知らないふりで生きていくなんて俺には難しい。だいたいその路線で考えてゆくと物事が些細な事なら自意識過剰で済むけれど大事ならサイコパスである。
「おはようございます。
重紀君、どうしたの?ぼーっとして。」
いつの間にか蓬莱さんがすぐ近くまで来ていた。
「あ、いえ…おはようございます。
…遠くを見ると視力の回復に良いって聞いて。」
「視力落ちた?」
「や、左右で違うんです。
…部活がバドミントンで、見辛いんで。」
「斜視なら病院行かないと。」
「そこまでではないから。大丈夫です。」
「ならいいけど、目には気を付けてね。」
「あ。…わかりました。」
確かにそうだ。視覚観測者なのだから。
…?視力って…関係あるのかな…?
丁度よく今日は勉強会という名の講習であるらしい。いい機会だから色々と聞いてみようと思う。




