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聴覚観測者


 能勢さんと六堂は技能者として登録されていると聞いている。観測者の能力があるというのは自己申告しているだけでバイト中にそれが生かされることは殆ど無い。能勢さんはきちんと連盟に伝えて観測者としてもスキルアップを目指しているらしいけれど、六堂は留奈さんと会話したことを誰にも話していないようだった。曾祖父ちゃんの家で猫の鳴き声を聞いたことは特例の扱いになっているらしく、連盟の人達は六堂が観測者だとは考えていない。もしかしたら留奈さんの存在もまた特例に入るのかもしれない。

個人的には留奈さんの言葉を聴き取る六堂を見ているので観測者の能力があると思っているし、今回こうしてアカザワさんという観測者を知ると六堂と似ていると思う。アカザワさんの話した事を俺なりに考えてみると、何も聴こえないのは俺が技能者ではないことが原因なのではないかと思う。観測者が技能者になるのはよくあることだが、技能者が観測者になることは難しい。ある意味全ての生き物は生きているだけでちょっとした技能者である。周りに影響するほどのエフの流れを作れるか、意図的に動かせるかどうかが能力者と認められるポイントになる。俺はアカザワさんは技能者を聴き分けていると推理した。

以前にもこの業界では技能から観測の順番で能力を得てゆく人が多いという話を聞いた。まず俺のような逆のケースが珍しく、観測能力として神寄せはどうやら"誰よりも見える"と言われるような最高クラスらしいから違和感が増すのではないだろうか。多分アカザワさんは普通ならこれだけ見えればエフを動かせるのは当たり前だと考えていて、それが"変過ぎる"事態に感じられるのだ。俺はエフを動かせる力が異常な程に無いのだということになる。じっくりと考えてゆくと能力者の挨拶は流儀とはいえ気を付けないと失礼になることもあるのではないだろうか。下手に披露しない方が自分の為にも良い気がしてきた…。

 聴覚の観測者は実は最も多く、そのうちの半数以上は積極的な観測が不可能だという。神様の様な大きな存在が近くに在る場合は、それだけで何かが聴こえるという人は多いらしいのだけど、単なる耳鳴りの可能性も高いのだそうだ。強大な存在から人体が何らかの影響を受ける可能性はあるものの、それは能力とは呼べないと区切りを付けている。このような例は勿論、他の感覚を持つ能力者にも言える。

能力者の判定にはちょっとしたジレンマがあって、例えば聴覚観測者が神様の言葉を聴くことは完全に能力の証明になるのに、神様の様な存在が人間に語り掛ける事なんてそうそう無い。再現が出来ない為に能力の確認が取れないのだ。そのせいで仕事をする為には積極的に観測出来ること、という条件が付いてしまうのである。つまり、微細なモノにも感応出来なければならないのだ。実は難しい。

小羽田さんがやっていた面談というのは想像以上に大切なことで、能力がどの程度信頼出来るものかを見るテストでもある。本来は副業でやるような事ではないと思うが、人手不足は本当のようだから能力者の人材も足りていないのだろう。


 三人と話す俺からは少し離れて立っていた能勢さんはスマホを見ながら六堂と会話している。六堂の方もスマホを手に持っているが此方を気にしているようにも見えた。


「もう帰るの?」


余所見をしている間に三人組に動きがあった。キネさんの声に俺も驚いて様子を伺うと、アカザワさんは往復で買った帰りの切符を探しているという。


「一度会ってみたくて来ただけだし。

 梅さん、佑一朗(ゆういちろう)のこと宜しく。

 お酒飲ませちゃ駄目だからね。」


「…オカンやん。」


「マコが知らないだけ。

 鷹男(たかお)の方がたち悪い。」


「お前は所構わず寝るから駄目って言われんの。」


ウメムラさんがからかって笑う。どうやらよく笑う人みたいだ。気が良さそうで安心する反面、森川みたいに周りに気を遣うタイプではないかと、あれ以来ちょっと慎重になる。

アカザワさんは長いウェーブ髪と黒縁眼鏡が印象的な女性だ。グラマラスな体型にジーパンと白のロゴTシャツという活動的なスタイルで現れたのだけど、もう帰るらしい。残念だ。キネさんとはプライベートの付き合いがありそうな感じである。…彼女連れて来たってこと?

キネさんも縁無しの眼鏡を掛けていた。全体に黒を基調とした洋装がやや異質で、夏も近づくこの季節には少し不似合いに思える。毛先の曲がった長い前髪を真ん中で分けていて、全体を茶色に染めていた。

前の二人も十分に目立つ外見をしているのだが、自分としては断然に目を引くのはウメムラさんだった。服装がどうとかよりも、スタイルが良くてカッコいい。短髪をオールバックに纏めた個性的な髪型をしているのに小綺麗で落ち着いた大人に見える。前髪を後ろに上げただけで俺とそんなに変わらない髪型のはずなのに顔の造形が整っていると全く印象が違う。こんな田舎では珍しい、所謂イケメンである。

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