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オカルト


 トラ猫を抱えて道路を渡ったものの、それでも庭には入らずにウチの畑の片隅で水池は再び足元に猫を下ろした。間を車が走ることは無いが距離は殆ど変わっていない。

「…何?」


「森川とは、家近いせいで、話せるから…。」


「ああ…そうやっけ。」

そういえばそうだった。確か森川家の二、三軒隣だったかな…。(ド田舎の"お隣さん"には住居間の距離が数百メートル離れているケースもよくある。)水池がこの道を歩いているのは珍しい光景とはいえ、おかしなことではない。


「…ぶち猫がいたんやろ?

 それが私には光って見えたってこと?」


「え!?…いや……流石に別の何かやろ。」


「だよね。普通に考えれば…。」


「そりゃ…そうやろ。」

あまりに唐突な解答に驚いた。どういう流れで今出来上がったんだソレ。人の話を聞いていないのか信用していないのか、どちらかってことかこの人は。


「………。森川とは、さっき会って話しただけ。」


「さっき?」


「うん。それだけのこと。」


「…なんや…。」

つまり森川が猫を追いかけている水池に声を掛けた。…逆かもしれないが。まぁどちらにせよ其処で水池と森川は同じ様な話をしてきた。それだけか。


「…初めてかな。ちゃんと話したの。」


「何回か話はしてるやん。」


「あ、それはそうやけど。…はは。」


わざとらしく水池は笑った。自嘲というよりは自分の言った事に一人でウケている様な笑い方だ。ちょっと不気味で怖い。なんだか学校で見ていた頃とは違う、油断ならない緊張感があった。…上手く誤魔化せただろうか…。

「オカルトは嫌いじゃない。

 また何か見たら教えて。暇つぶしに。」

そういう事にしておこう。興味はあるし、今日みたいな変わった話が聞けるかもしれない。


「………。分かった。

 ごめん。変に話長くして。」


「別にそんなんいいけど…。」

俺の考えでは水池の出した答えは正解だ。正解だけれども連盟の関係者でもない野生の能力者に迂闊な事は言えない。ここでは惚けるしかない。今の俺は何も知らなかった頃の六堂の立場だ。取り敢えず、馬鹿にしたり下に見た態度をとるのはやめておこう。

 あ、"また"なんて言ったけど学校違うな…。

 てか、水池って何処行ってんだ?

「そういや、進学したんやろ?学校どこ?」


「?聞いてどうすんの?」


「え。や、別に言いたくないなら…。」


「あ、いや…私はどうでもいいか。

 なんか、下心あるのが聞いてくる時あって。

 友達の進学先とか、気軽には言えんから。」


「あ〜。…塾とかで?」


「塾も学校も。…ごめん。警戒し過ぎやな。

 私、南高(なんこう)。」


「ああ…南高か。」

兎に角話題を変えられてホッとした。普段の印象は大人しいのに意外と厳しく追及するタイプのようだ。それは初めて知った。意外といえば通う高校もそうだ。坂島南(さかしまみなみ)高校は手厳しいエリート志向の人達の間では進学校とは名ばかりの明るいヤンキーの巣窟と評される。決して賢いとは言えないが強く生きているだけでOKというポジティブな精神を感じる、良く言えば性格の良い奴等が好みそうなイメージのある学校だ。校風重視で入学する頭のいい人間もいるらしく、学力はピンからキリの格差が酷いとも聞く。何故こんなに詳しいかといえば受験の時に候補にした学校だからであり、今は友人も通っているからだ。西高の方が近いから俺はそっちを選んだ。

「森川とは学校も同じなんやな。」


「そう。やから、顔見ると話し掛けてくれる。

 凄く気ぃ遣うようになってて、びっくりした。」


どうやら水池の中では森川は未だに小学生の時のイメージから変わっていないらしい。

「アイツ上手くやってる?」


「さぁ。でも元気そう。」


「そっか。」


「…それじゃ。」


「ああ…また。」

良かった。変に怪しまれることもなく穏便に済んだ。…と思う。なんだか朝から変に疲れたな。


「………。本当に暇なら、また話していい?」


「??…おう。」

変なのは水池の方だった。特に最後の一言は中学生の頃からは想像も出来ない。あの変わり者の水池が男子と話したがる訳がない。そんな普通な訳がないと今まで思い込んでいたのではないかと、洗濯籠を片付けながら玄関まで引き返した所でふと思い当たった。


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