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ストーカー


 声が聴き取りづらくて俺の方から近寄ると、水池は右手を振って拒否した。その必要は無いと言いたいのだろう。黒のロングパンツを履いた足元には、もう一匹、恐らく本物の猫がいた。白地に茶色のトラ猫は短く鳴くと甘えたように水池の足に擦り寄って離れなかった。


「ごめん。猫が追いかけるから、来ただけで…。

 その………失礼しました!」


張り上げてようやく届く力の無い声は以前と変わらない。本当に恐縮しているらしく、大仰に礼をして引き返そうとするのを呼び止めた。まぁ確かにこの場面だけ見たら人によってはストーカー扱いされる可能性はあるからこの態度は防衛策だろう。それはそれとして、何かの光を追いかけて来たという話は聞き捨てならない。こういう奴は馬鹿にされがちだが言おうとしている事はちゃんとしているケースもある。森川のことで少し話して以来、水池はそのタイプの人間ではないかと思うようになった。

出来る限り正確に話を聞きたいのだけど、拒否されているので近付けない。家の敷地の出入り口にいる自分と、家の横手を通る道路の向かい側にいる水池と、変に距離の空いた会話をしなければいけなくなった。道路の交通量は問題にならないから俺は別にいい。水池の方は大きな声を出したせいか既に肩で息をしていた。大げさに見えて嘘みたいだ。

「さっきの猫、見えた?」


「??見えた??」


「あ、いや。…なんか…猫見んかった?」


「??……この、ウチの猫?」


当然といえば当然、水池は足元のトラ猫を指差した。ウチの、ということは水池家の飼い猫だろう。

「違う。ぶち猫。白と黒の。」


「…ベースが白?黒?」


「ベース?…ああ…白地に黒。」


「白に黒ぶち?…この辺では見たことない…。」


まるでこの辺りの猫を調査して知り尽くしているかのような口ぶりだ。まさかそこまで暇でもないだろうとは思うものの水池ならやりかねない気もする。そして思い出した。そうだった。どうもお互いの言葉が微妙に伝わり辛くてイライラする。水池も変わっているし俺も対話は得意ではないから話のテンポが悪く遅々として進まない。半分は自分のせいなのは解っているけれど何とかならないものかと話をしながら思案していた。

「何が光ってたか、分かる?」


「??…全然。…急に鳴きだして、

 道路の真ん中走るから、危ないと思って…。」


「ああ、あれ、その猫の声か。」


「!ごめん!五月蝿かった…ね。

 …前の方が光って見えたんやけど…、

 …何かで陽の光が反射しただけかも…。」


「………。」

いやそれなら動くのおかしいだろ、と心の中でツッコミを入れた。常識では考え辛い現象を何とか飲み込もうとしているのだと思った。水池にはぶち猫が光に見えたのだ。それにしても何事だろう。能力者なんてこの春までは禄に聞いたことも無かったのに、連盟の関係者になった途端にいきなり普通に現れる。知らなければ気付かないというやつだろうか。


「…猫、探してる?」


「や、…その変な光、俺も見たかったなと…。」


「??…そうなんや。…森川も同じ事言ってた。」


「??森川??…前にも見た?」


「………。」


水池は困ったように微笑んで見せた。足元のトラ猫を持ち上げると、両腕に抱えて赤ん坊の様に可愛がる。


「そっち、…近付いてもいい?」


「え?……あ、どうぞ。」

接近を拒否したのは水池の方なのに何だろうと思ったが、よく考えてみれば自分は自宅の庭に居て住居を晒しているわけだから遠慮されるのは不自然な事ではなかった。

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