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一生懸命


 結局、月曜日も森川は学校に来なかった。休み時間に廊下で待ち伏せして捕まえた共通の知り合いに出欠を聞いたが休んでいる理由は知らないと話した。まだ病気か何かだと思われていたらしい。どういうことだと一度この目で確かめたくなって、そのままの勢いで久しぶりに一組まで様子を見に行った。

廊下側の窓から覗いてみると、教室の後ろにある壁一面のロッカーの上に加害者グループのリーダーが座っていた。子分はそれぞれ両脇に座り、手近な机をオットマンの様に使ったり椅子を積み上げて遊んでいた。まるで自分達の城だとでも思っているようだった。どいつも小学校が俺達とは違っていて、中学から合流した奴等だ。リーダー格は入学してすぐに支援学級の生徒を殴って問題を起こした。目撃した人間が多かったせいもあって学年主任から指導されたと聞いていた。相手が障害者というのも、きっちり選んでいる。一年生の頃からずっと感じていた違和感がはっきりとした形になって現れたのだと思った。

森川の不在を確認した後で自分の教室に戻ると、何も知らなかった事が恐ろしく思えてきた。これは他人事ではないとも思った。考えていた事を実行しなければと心に決めてタイミングを計っていた。森川の母さんは担任の先生に電話で訴えたと言っていた。担任は暴力行為を把握していないと言う。担任でさえ知らないと言うことを学年主任やウチの担任が知っているかというと難しい。それでもある程度は教師の間で情報が拡散されているのではないかと考えた。中学校からは教科担当がそれぞれ違う。共有されて然るべき内容のはずだ。

 朝は時間が無かった。昼休みに先生が仲の良い女子生徒達と話しているところに近づいた。ウチのクラス担任は四、五十代くらいの女性教師だった。ややぽっちゃりした体型と白髪混じりのショートカットが特徴で国語を担当している。見るからに優しい雰囲気だから生徒に指導をしても舐められがちだ。この人に期待するわけではなかった。話を学年主任の厳しい男性教師に繋げたいと思ったのだ。

頼み事も無いのに俺から話しに来ると滅多にない来訪者に身構えるような空気があった。いつものことだがデカいせいか目つきが悪いせいか、教師には使われる割に受け入れられない。


「どうしたの?松尾君。」


女子達の話が無限に続くので声を掛けるタイミングが掴めずに立ち尽くしていたら、先生の方から話しかけてくれた。そしてここまできて初めて不味いことに気が付いた。女子達のいる前で言うべきではないのは解るが、何と言ったら追い払えるのかを考えて来なかったのだ。

「…その…他に人がいると…。」


「あ、そう。わかった。…ちょっといい?」


先生が人払いをして、それで直ぐに居なくなるかと思ったらそうではなかった。俺は意図せずあまり見ることのない珍しいシチュエーションを作ってしまい、女子生徒の興味関心を引いてしまったのだ。女子三人は大人しく退いていったものの、分かりやすく近くで様子を伺っている。話など出来たものではなかった。

「や、…また後で…。」


「いいの?」


後にすると言った原因は先生も解っているようだった。思い返してもこの段階で失策なのだ。結局何かあると知られるだけで、いじりやすいネタを探す輩にはマークされる。やっぱり熱量は動かさない方がいいのかと嫌になる。


「…話せばいいのに。

 教室で話して周りに聴こえないわけない。

 どうせ誰か聴いてるじゃない。こんな場所。」


女子の一人が指摘した。苛ついてつい睨んだら、おずおずと態度を変えていた。けれどこの場合は言われたことに反省しない方が悪いと考えて黙った。何より、大事なのは森川の現状を考えて貰うことだ。


「もう、そんなこと言わない。

 いいよ。ここで話しにくいなら、え〜と…。

 放課後にでも、職員室来れる?」


「…いや…。

 一組って今、なんか荒れてるの、なんでですか。」

先生は忙しそうだ。せっかくの機会を逃すのも嫌だから思い切って切り出した。個人に触れない程度に加害者の悪事をクラスメイトに聞かせられるならそれも良いと思った。


「聞いてる。先生達も一生懸命考えてるんだけどね。

 なかなか落ち着いてくれない時もある。」


「暴力で学校来れなくなった奴いるって聞いて…。」


「!…誰から聞いたの?」


「その…そいつの母さんから。」


「あ〜〜。そうか。お母さんがね…。成程。

 松尾君みたいな、子供に言わせるタイプか〜。」


「………。」

あ?と言いたいのを堪えた。

え?は?何寝惚けたこと言ってんだこの人?

それ以外の言葉が浮かんで来ない。

森川は酷いダメージを受けて学校に来られない。森川の母さんはそういう人かもしれない。だからなんだ。この人は一体何処を見ているんだ。同じ学校の教師が一番に目線を合わせないといけないのは被害者の森川だろう。違うのか。森川が今も学校で授業が受けられないことはどう考えているんだ。俺達は三年生だ。最終学年、受験生なんだぞ?担任じゃないから、受け持ちの生徒でないから何とも思わないのか。

平静でいられたなら反応もまた違った。大人の理屈では普通の事なのかもしれないが、この時の俺は最初から冷静ではなかった。正しく沸騰した湯の表面を見る様にボコボコと、怒りだけが沸いてきた。

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