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待ちぼうけ


 道路を渡った先で直角に折れると後ろに居る留奈さんの不思議な温かさが、より一層奇妙なものになった。重さが無い。揺れもしない。まるで荷台に貼り付いた幽霊だ。気になりつつも、危ないので前を向いたまま乗せて進んだ。こっちに来いと手招きしている大門の姿が見える。留奈さんは何も喋り出す様子は無い。

店の入り口近くに寄せてから俺も自転車を降りた。なんとなくそうなるのが解っているので思い切って自分の脚を回すと荷台に座る留奈さんをすり抜ける。一応、表情を確認してみたが静かな余裕のある笑みを浮かべ何処を見ているのか解らない。既視感があった。あの時も見たやつだ。

もう声が届くくらいに大門は近くに居る。それでも一つだけ、聞いておきたいと思った。

「…待ってた?」


「うん。分かってきたね。重くんも。」


まともに聞き取れるとは思えない微かな声で尋ねると留奈さんは自然に答えた。すぐ其処に居る大門の存在に遠慮することなくクスクスと笑う。俺の声も留奈さんの声も恐らく大門には届いていない。




「見ろってコレ。めっちゃ運よくね!?」


菓子袋を誇らしげに見せて来るのかと思ったら、大門は一枚のカードを見せびらかしてきた。

「あ〜〜、成程。

 まぁ…そんなとこやろと思った。」


「!?お前も好きやったやろ!?」


わざわざコンビニで買うか?と思うが、大門が持っていたのはプロ野球選手のカードがおまけに付いた菓子袋だ。応援している球団のスター選手を引き当てて興奮気味なところに丁度俺が通りかかったというわけだ。俺と大門の好きな球団が同じなのは本当なのだが、だからといって羨ましいかというと集めてはいないので良かったなとしか思わない。くれるならそりゃ欲しいけど。


「少ししか入ってないしな…。此処で食お。」


カードは別の袋に入っていたらしく、大門は菓子袋を開けようと力を込めている。

「それ買いに来たんか?」


「や、部活の練習試合見てきて、帰り。

 腹減って。…全然足らんコレ。」


「凄いな、日曜に。…勝った?」


「おう。…あ、コーラいいな…。」


俺の自転車のカゴに入っているペットボトルを見つけた大門の手が止まる。

「やってもいいけど、めっちゃ振られてるから、

 今開けるの止めといた方が良い。」


「…飲みたくなってきた。買ってくる。

 てかお前こそ買い物するんやないんか?」


「いや、用はない。お前が呼ぶから来ただけ。」


「あ…ならちょっと待っとけよ。半分やるわ。」


「?菓子?」


「少ないけど。一人で食うなよ?」


「は。ああ…分かった。」

菓子袋を手渡し、俺の返事を確かめると大門は踵を返して小走りで店内に戻って行った。

別に菓子が食いたい訳では無い。やると言われると何となく嬉しいから、流れのままに用もないコンビニの駐車場で待ちぼうけすることになっただけである。

 なんでコレ買ったんだ、腹減ってるのに…。

まぁガチャの誘惑に負けたとかだろう。部活の試合と言う割にパーカーとジーンズを着ているから、運動部の新入生はまだ部員の扱いではないらしい。(そういえばユニフォームが間に合わないという話も聞いた。)個人的に見学したければ来いとでも言われたのではないかと思う。何の部活かは聞くまでもない。少しでも大門の周りにいた事があれば、アイツの野球バカは知りたくなくても知ってしまう。


 我が西高野球部は前年度のチームが夏の大会で強豪校である私立大附属を相手に9回まで一点も与えず延長戦に持ち込んだ末に惜しくも敗れ、甲子園出場を逃したという。春の選抜でも健闘し、長年にわたり恒例となっていた商業と私立大附属の二強の争いに割って入れるのは西高ではないかなどと噂されている。巷では一昨年から監督が変わったのが大きいという説や、他校で野球離れが進んだのだとかいう説が飛び交っているようだが、一般の生徒にとって大事なのはそこじゃない。なんと言っても去年の接戦でピッチャーを務め上げた先輩はその時まだ二年生で、今年も現役なのである。更なる期待がかかるというものだ。

大門は家業の為にも大学に進学するつもりでいるのだろう。そうなると商業は微妙だし、附属は遠方だから入れても寮生活になる。アイツが進学先に西高を選んだ理由は、まず間違いなく野球部に入る為だ。本人がどのレベルを目指しているのかは知らないが、実現可能な範囲でベストを選んだ結果だと思う。

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