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タイミング


 人のことをあまりジロジロ見るものではないというのは常識だ。それでもついつい気になって見てしまう美人さんの名前は聞き覚えのあるものだった。


「六堂君の班長の、能勢(のぜ)といいます。

 よろしくお願いします。」


「…松尾です。」

 ノゼさん…。神職さんが言ってた人だ。

そういえば小羽田さん、ノゼさんの二人は真っ先に出てきた名前だった。テストみたいなものだというから、神職さんは連盟の関係者?になるまでの流れを教えてくれていたのだ。ようやく少し解ってきた。

ノゼさんはやや硬い表情で必要最低限の情報を名乗り、大きく息を吸うと噛みつくような勢いで蓬莱さんに向かって言いたい事をまくし立てた。


「事前に聞いてはいましたけど、

 電話は寮に掛けるのが原則です。

 こんな穏やかな条件、緊急とは言えません。

 場所が此処じゃないといけないだけですよね?

 私、今日、久しぶりの休みなんです。

 引き受けたからには、やりました。

 でももうこれっきりにして下さい。

 振り替えて貰うのも大変なんですよ!?」


落ち着いた見た目に反して声が大きい。怒鳴っているのではなく、良く響く声質なのだ。加えて腹筋が強靭なのだろう。歌声の様に文句を響かせている。

迫力にちょっと面食らいはしたものの、何となく察せられる事情には十分に共感出来た。それは言いたくもなる。


「小羽田さんも居るし、いいじゃない。」


蓬莱さんはウフフと声が出そうな含みのある笑顔で軽くあしらった。誤魔化そうというのだろうが内容を考えると不味い気がする。初対面の人間の前でそれは恥ずかしいだろう。六堂は承知のネタのようで顔を伏せたまま、また笑っている。いいのかなと心配して見れば、ノゼさんは苦虫を噛み潰したような表情で溜息をついていた。


「…大事な人とは言いましたけど…。

 大事の意味が違います。仕事する上で、です。」


「そうなんだろうけど、あんまりにもさ。

 …なんかそういう話ないの?可愛いのに。」


「何言ってるんですか…セクハラですよ。

 こういうのは男女関係ないですから。」


「変なのに捕まるよりはずっといいよ?ね?」


いきなり此方に話を振られてビビった。こんな話、堂々とするものなのか?親戚の宴会の席であっても、いい気分にはならないと思うけどな。

「…や…セクハラです。」


「本当に?今の子はそうなんだ。面白いのに…。」


「小学生ですか…。」


力無く呟くノゼさんが心から気の毒に思える。どれだけがっかりした顔を見せられても流石に蓬莱さんを擁護は出来ない。どうやら堀井と同種の人間だったようだ。なんだか俺も嫌な予感がしてきた。挨拶代わりのノリで嫌がらせをされて、やられた方は面白いわけがない。真面目に。


「それに、ノーを出したのは小羽田さん。

 私も大丈夫だと思ったわよ、これくらい。」


「………。じゃあ、そちらの松尾さんが、

 何か相当特別なんでしょうね…。」


「え!?」

あくまでも真面目だ。唯の高校生でしかない俺を慎重に観察するような、ちょっと怖い視線を送られて言葉に詰まった。お前は相当特別なのかと問われても自分には何も解らない。


「そういうこと。」


静かに蓬莱さんが答える。…そうなの!?


「はぁ…。もう全部解ってるなら、

 変に格好つけないで下さいよ。最初から。

 言ってくれればやりますから。」


「やってくれないじゃない、いつも。

 今日は休みとか他の仕事とか…。」


「当たり前でしょう、それは!

 そんなタイミングで振るからじゃないですか。」


ああ…、それはそうですね。そう思います。


「じゃあどうしろって言うの。」


「カツカツに詰めすぎなんですよ。そもそも。

 スケジュールを…!」


…成程。


「はい。考えておきます。それは追々。

 ……で、もう本題に入ってもいい?」


「…どうぞ。」


蓬莱さんのまるで何も聞いていない感じが勢いを挫いたらしく、ノゼさんは虚無を見つめたままに返事をした。溜息は浅いようで深い。いつもの、という空気がひしひしと伝わる。


「六堂君の操作性能が影響を受けないか、

 松尾君の視覚が六堂君に影響を受けないか…。

 六堂君を見慣れてる人がいた方がいいし、

 恐いところがある人の場合は、

 分かりやすくて間違いない場所が良いでしょ?」


「小羽田さんが居るならデータで十分ですよ。

 私の当てにならない観測よりも影響の方が…、

 此処まで来て良かったんですか?」


「うん。動くのは直ぐに動くみたい。

 私が多分駄目だった。来た途端に結構動いた。」


「ああ…。いえ、それは仕方ないです。

 ジレンマはありますけど、監督は必要です。」


「……。本当、意見も合うのにね…貴方達…。」


「生意気を言うようですが、

 ちゃんと反発しないと舐められるんです。

 私は"宝塚の男役"だそうですから。」


「誉めてるじゃない。」


「話になりません。

 …子供の頃から知ってるから、

 その延長なんでしょうけど…、

 何も知らない小娘だと決め付けてるんですよ。」


子供に言い聞かせるように優しく、緩い笑みを浮かべながらノゼさんはキレていた。

 あ…もしかして仲が悪いからこそのネタ…?

六堂が笑った意味がようやく解った。

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