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田舎屋敷


 曾祖父ちゃんの顔は知っている。それは一枚の写真を繰り返し見たからで、色の剥げたその一枚以外にはよく知る術も無かった。遠くからこの田舎屋敷を眺めて人の姿を見かけると、あれが曾祖父ちゃんかなと思いを馳せることくらいしか自分に出来る事はなく、それをするだけでも自分は悪い曾孫ではないはずだと考えていた。俺の記憶のある限り、直接会った機会も数える程しかない。

最初は小学校に入学した時。今の家に引っ越した時でもある。曾祖父ちゃんの方から訪ねて来てくれたのだけど、初めて会うと言ったら違うと言われて軽いショックを受けたのを覚えている。その時の俺には全く記憶に無いことだった。幼児の俺が高齢者の人達に興味や関心があるわけもなく、恐らく近所の爺さん達と区別がついていなかったのだと思う。その中の、何処かで会った誰かが実は曾祖父ちゃんだったということだろう。

とにかく此方は初対面だと思っていた。入学祝いにと某猫型ロボットの漫画による解説付きことわざ辞典と英語辞典(小学生)をくれた。これは今でも大事にとってある。誰かに頼んで買ってきて貰ったとか、なんかそんなようなことを話したから、喜んだ俺が"その人、いい人だ。"みたいなことを言うと曾祖父ちゃんは"儂よか、その人の方がいい人か!"とか何とか不貞腐れた台詞を放って馬鹿にしたように鼻で笑った。確か舌打ちもしていた。ちゃんと御礼は言ったはずなのに目が笑っていない気がして怖かったのと不味い事を言った自分のミスに気付いて逃げ出したくなったのとで、直ぐに俺は母親の影に隠れてしまった。

昔のド田舎に生まれ育った人の率直過ぎる言葉や態度は現代を生きる自分(幼児)にはクレイジーに映り、思い出として残ったのはこんな感じの、ちょっとした恐怖体験の記憶となった。いや仕方ないやろ。

会話は殆ど無かった。此方は何を話せばいいのかわからないし、曾祖父ちゃんからも一切話そうとしなかった。突き放すような態度からは、何の理由も持たない関係を感じた。今、きちんと言葉にするならば、価値も由縁も認められないのだと思った。けれど放逐かというとそうでもない。何がどうしてそうなっていたのか子供の俺にはサッパリ解らなかったが、親子の縁を辿っただけの俺と曾祖父ちゃんが無関係なのが不思議だった。単純な繋がりのはずなのに。ウチはちょっと変なんじゃないのかと疑問に思った。本人の意志とは別の何かがそうさせていると考えた。親子の間には特別なものが在ると信じていたし、祖父ちゃんが俺には優しいから、曾祖父ちゃんも本当はそうなのだと無垢な頭で思い込んでいた。実際、曾祖父ちゃんに温かみを感じないわけではなかった。確かに怖いのも本当なのだけど。

親子間のイザコザだと小学校の高学年の時に母さんからそれとなく説明された。どういう事なのかもっと詳しく聞きたいと食い下がった。曾祖母ちゃんの法事にも来ない理由が何なのか納得したかったのだ。

結局、聞いたところで答えは無かった。話してくれた母さんにもよく解っていなかったからだ。




「次郎右衛門さんとお祖父さんの間には、

 余計なものが入ってしまったと思っています。

 神寄せの力が信仰に由来するという考え方は、

 私達の努力で何とか出来たはずのことで、

 …そこは本当に反省しています。」


「…はぁ…。」

蓬莱さんの認識では、やはりと言うべきか我が家は上手くいっていない家族であり、それ故に特殊なケースにならざるを得なかったという前提で俺の立場を考えているらしい。視覚観測者に理解の無い環境にいるから俺が何も知らされずにいたというわけだ。連盟の人達から見れば悲劇であり可哀想な子供なのかもしれない。…なんそれ。

それくらい他人事のようにしか感じられないが、ある一面から見た自分はそういう人間なのだと知っておくのも案外役に立つ気はする。


「特別に仕事をして貰ったわけじゃなくて、

 神寄せの方々というのは、本当に、

 何の因果か分からないけど神様に好かれる。

 …だから本来なら重紀君も、

 居るだけで地域を安定させてくれる、

 有り難い存在のはずなんだけど…。」


「そうなんですか…。」

残念そうに話す蓬莱さんには悪いけれど、自分がそんなに価値ある存在だとは考えた事も無い。それこそ変な宗教の教祖みたいな扱いをされるのは困る。勝手に妙な考え方をしないで欲しい。我が身の不幸を挙げるのなら生い立ちではなく今から此処にやってくる人間の敵意か嫉妬か何かの方が個人的には深刻だ。

「…なんで曾祖父ちゃんは、

 一人だけこの家に住んでたんですか?

 祖父ちゃんと合わなかった理由、知ってますか?」

連盟側の言う事に共感出来そうにないので、一方的に俺個人の聞きたいことを尋ねた。蓬莱さんは意外にも笑顔で答えてくれた。


「このお家には、

 お母様との思い出があるんですって。」


 ………ん?

「それだけ…ですか?」


「私はそう聞いてるんだけど…。

 あとは、妖怪にも好かれるのが、

 御家族に良くないと考えていたみたい。」


これは、感動するところだろうか?子供の自立後に一人で家を出てお母様との思い出を選ぶのは好きにしたら良いけど、曾祖母ちゃんの法事に来ないのは、ちょっとどうなのそれ?……もしかして祖父ちゃんと喧嘩したんじゃなくて、曾祖母ちゃんと喧嘩してたの??

違和感が渦を巻く中で立て続けに聞き捨てならない情報をキャッチしてしまった。

 妖怪に、好かれるって言った???

「……それって、俺もですか?」


「多分無いと思う。別人だから。

 神様と妖怪の違いは、曖昧な方々も居て、

 ちょっと難しい話になる。

 …多くに共通して言えるのは、

 妖怪の方が人間に近いということ。

 ちゃんと個人を区別してる。」


「?神様はそうじゃないんですか?」


「…正直、解らない。だから恐いの神様は。

 けど…区別していたら、

 怒ったからって関係ない人巻き込まないでしょ。

 妖怪は解ってやってるけど、

 たちの悪い神様は全く無頓着でやる。

 けど良い神様のそれは…裏を返せばね、

 関係ない人も恩恵を受けられるって事でもある。」


「…悪い神様と妖怪はどう違うんですか?」


「そうだね…どちらも何かに執着するんだけど、

 手の内に在るものが大きいか小さいか、

 でしかないかもしれないね。」


…それだと一番怖いのは悪い神様だな…。

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