関西弁
流され易いとは思っていないが掌で転がされ易い単純さは持っていると思う。解ってはいても俺にとって純粋な興味と関心は誇りだ。おまけにこれは持って生まれた能力の話なのである。自分の為にもこの崩れそうな曾祖父ちゃんの家には入らなくてはならない。解ってはいても見るからに畳なんか歩いたら痒くなりそうで嫌だ。アレルギーはそこまで酷くは無いとはいえ飛んだり跳ねたりする虫は正直苦手だ。
結局、俺が余り喋らないのは優柔不断で迷っているうちに時が流れてしまうからなのではないだろうか。何でこんなことになったんだか、と思うのも同じ理由の気がしてきた。不味い。これ以上は不味い。きちんとした大人になろうと思うなら、この辺りで気を引き締めねばならない。遊ぶよりも自分を試す良い機会を得たと考えよう。
……てか実際これで十分だろ…。
図らずも一人で道を歩く為に必要だと感じていた様々を、この世界は与えてくれるかもしれない。やる事はよく解らないままだが取り敢えず氏神様との会話なんて、あの緊張を乗り越えるのも結構しんどい。繰り返せばそれだけで度胸もつくのでは…。気は重いけど。
ガタガタガタと玄関の戸が音を立てて揺れているので何だろうと思ったら、少し開いたその隙間から白と黒のぶち猫が躍り出て来た。
「あ〜!…行ってもうたわ。」
一目散に走り去る猫を見送ることしか出来ずに迷っていると、歯切れの良い関西弁の明るい声が聞こえて振り返った。隙間が広がり男の人の顔が見える。俺の存在に気付いた途端に何故か口を開け、片手を上げて会釈をしてきた。状況がよく解らず蓬莱さんの様子を確認したら笑っているので知り合いだろう。此方も軽く会釈を返した。
男の人は声のイメージよりも随分と落ち着いた空気を纏っていた。ワイシャツに黒い薄手のコートを羽織り、動きやすそうな綿パンを履いている。
「なんか今日お揃いみたいになっちゃって。」
蓬莱さんに言われて見れば確かに二人は似たような格好だ。蓬莱さんの方がズボンの色が濃くてキャラメルみたいな色をしていた。
「どうも、初めまして。
小羽田優です。」
「…松尾重紀です。…高一です。
よろしくお願いします。」
対面して話すと女の人みたいな、おっとりした雰囲気があった。全体的に色素が薄く、染めているのか地毛なのかサラサラの髪は所々鶯色に見える。あまり社会人らしくないスタイルだと思った。前髪は目にかかっているし後ろも長めに伸びている。ちょっと表現に躊躇うけれども、何となくサディストっぽい顔だ。顔の造形で言うことではないのだけど、その表現が一番わかり易いと思う。
「後でね、色々聞きたいことあるからよろしく。
まずは自己紹介やな。
…どこまで知ってんの?彼は。」
俺と蓬莱さんをコンクリートの三和土(土足で行けるスペース)に招き入れ、見たことがないくらいに高い玄関の床に腰掛けたコハダさんは、今更に思える内容を蓬莱さんに話しかけた。勧められて俺達も床に腰掛ける。…にしてもあまりに高低差が酷い。やはり不便なのか靴を脱ぐ為の簀の子が近くに置いてあった。
「全部これから。」
「全部?」
「全部。イチから。」
「イチから全部?
え?説明は終わってんのやろ?」
「それは基礎知識の説明。私には出来ない。
小羽田さんがやってること詳しくないから。」
「や、俺も蓬莱さんのやってること知らんけど、
……あ、そうか。その方がええんや。」
「わかったらお願いね。
私、今日は紹介だけだから帰りたいんだけど。」
「子供置いて行ったらアカンでしょ。
この子俺と初対面やん。アシ無いし俺も。」
「電話で迎えに来る。」
スマホを持つ素振りを見せた蓬莱さんに、コハダさんは首を振り納得しない。事情が見えてこないままの俺は置いてけぼりなのだが、まだまだ二人の言い合いは続きそうだ。
「やからアカンやん。保健衛生上。
不味いことになるかも分からん子やろ?」
「これ以上無いくらい安定してるよ。
血族に契約かかってるみたいな子。大丈夫。」
「知らんし。そっちの責任やん。」
「そんな、暴走なんてそうそう無いって。」
「知らん子やしデカいし…。」
「何ビビってんの。」
冷静にツッコまれていた。こんなに厳しい蓬莱さんは俺も初めて見る。




