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スケジュール


「……大丈夫です。」

丁度よく日曜日だった。…ん?日曜日?

「え、あの、日曜日も仕事なんですか?」


「土日の方が都合が良いの。副業だと。

 平日は不在のお家も多いしね。」


「じゃあ僕も、やるなら土日で?」

大人と話す時は"僕"で通すことにしている。その方が態度に五月蝿い人がいても面倒がない。


「それは…そうだね。

 重紀くんの場合は学校を休ませない条件で、

 親御さんに納得して貰ってるから。

 …どうだろ。来てくれる?」


また何か勝手に親との間で取決められていた。ほぼ俺に不参加の選択肢は無い状況に思えて嫌な感じだが、断固断ると言い切りたいものでもない。気持ちとしては面白くないけれど凄く気になるのは本当だ。自分の能力に興味や関心が無いわけがないし、参加して続けるにも文句無くうってつけの条件。恐らく母さんの注文が多分に含まれている。

「とりあえず見てみるだけでも良いですか?」


「勿論、勿論。」


「………。曾祖父ちゃんの家入るの、

 初めてかもしれないです…。」


「!…そうか。そうだわ…変だよね。

 ごめんなさい。説明は此方からしないと。」


「?」

突然慌てて髪の毛を整えると蓬莱さんは頭を下げた。


「長い間、嘘をついていてごめんなさい。

 親御さんのご意思だったものだから。

 能力者は見守るのも少し難しくて、

 こういうやり方も本当は駄目なんだけど、

 なかなか理解が進まないのが現状で…。」


「……あ、いえ…。」

見守る。見守られていた。つまり、俺も知らない自分の力と未来を何かから守る為に嘘をついた、と言っている。

「でもそこまでして、なんで…?」


「はっきり言うと、特殊なケースだから。

 重紀くん、氏神様が見えるんでしょう?」


「え?違います。お稲荷さんの御使いだけです。」


「でも御挨拶されたって…。」


昨日の恐怖が蘇る。なんだか変な感じだ。普通に人間と話していると、あれはまるで相手が違ったことが今頃になってよく解る。音楽か何かで殴られた様な衝撃だった。圧倒的な芸術作品が現世から切り離された世界を作るのに似た体験だ。

「氏神様は見てません…。

 見えるのかもしれないけど、話しただけです。

 蓬莱さんの使い魔?も見えないみたいで、

 …変わってるのは、留奈さんからも聞きました。」

神職さんも似たようなことを言っていた。


「そうだった!それも謝らないと。

 色々と至らなくてごめんなさい。

 神社に来たのは電話で聞いて、呼び戻したの。」


「いや、別にそんなのは…。」


「大事なこと!……けど……。

 ……ちょっと待ってね…。」


蓬莱さんは制止するように右手の平を此方に見せた後でスマホのスケジュールを確認した。何度か頷きながら顔を上げて、また話始めた時にはいくらか慎重な話し方になっていた。

 

(かけい)さんとは、お話したんだよね?」


 かけい?誰?

その名前に聞き覚えは無いが(この辺りでは珍しい。)思い当たる人物は一人しかいない。

「神職の…仕事されてるオジサンですか?」


「そうそう。ちょっと強面の。」


「あ…わかります。話しました。」


「あはは。見慣れてれば何ともないよね。

 あの人、大昔は金髪で派手好きだったんだよ。」


旧知の仲なのか可笑しそうに笑っている。いや、あの顔で金髪で派手な格好してたら何処からどう見ても神社に粗相をしに来た方の人間に見えるんじゃないのそれ。…俺も人の事言えないのかもしれんけど。

驚いている俺を全く無視して蓬莱さんはまた黙り込み口に手を当てて考え込んでいる。


「使い魔はまた見てもらう機会もあると思う。

 私は陰陽師の先生の所で勉強中だから、

 あまり自由に使えなくて。

 先ずは…氏神様と何を話したか、

 また今度でいいから、聞いても良い?」


「ああ…はい。」


「日曜日に来てくれるなら、その時にでも。

 …それじゃ、また。お待ちしてますから。

 今日はありがとう御座いました。」

 

帰りの挨拶をして玄関の敷居を跨ぐと、軽く御辞儀をした蓬莱さんは留奈さんそっくりの笑顔で薄く橙色に色付いてきた風景の中に消えて行った。

そう遠くない所で電子音が聞こえ、バタンという車のドアを閉める音にエンジン音が続く。車にさえ乗ってしまえば余程の事がない限り大丈夫。これが何かあった時に助けられる人も逃げ込める建物もほとんど無い田舎の防犯意識である。見届けたつもりで開けたままになっていた戸を滑らせた。

 日曜日かぁ…。

玄関の床には通学用のリュックサックと水筒が置きっ放しになっている。水筒と弁当箱は自分で洗うのが決まりだ。もうじき母さんも帰って来るだろうから、それまでには済ませておこう。

 …使い魔…陰陽師……本物…??

現実感が無くてサラッと流してしまった事すら現実感が無い。本当に俺はそのような言葉を聞いたんだろうか。蓬莱さんのことは昔から知っているはずなのに、さっきまで会っていた人は本当に今迄見てきた蓬莱さんと同じ人物なのだろうか。そんな虚ろで混乱した世界に迷い込んでしまった。

 浮遊生命…視覚観測者……俺が。

リュックと水筒を持ってボーッと考え事をしたまま自分ち側に続く廊下を進んでいたら、キッチンの入口にある鴨居で頭を打ちそうになった。危ね…。

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