視覚観測者
「改めて自己紹介した方がいいよね。
蓬莱愛弓です。
神衆連盟という団体…と言うよりは、
有志組合みたいなものに所属しています。」
玄関で立ち話するくらいだから長くなる予定は無いのだろう。顔は似ているが体型は留奈さんよりも大分ぽっちゃりしているので座って貰う方が良いのではと迷っているうちに話が始まってしまい口を挟むタイミングを失った。人と話すとよくあることだ。なんでだろう。……単に優柔不断か。
いつも通りのハキハキした話し方で蓬莱さんは弾丸の様に話し始め、途中から肩に掛けたビジネスバッグから三枚のプリントを渡して説明してくれた。それを見て俺はようやく自分の身に何が起きているのかを知る事が出来たのだ。
神衆連盟というのは、六堂の話していたような幾つもの団体や個人事業者の中から活動に協力する意思のある人達を集めて結成された組合の様な会社だということだ。なんと普通に会社だった。そして俺が良い返事をした場合の扱いはバイトの研修生になるらしい。兼業になる人が多いから副業NGの団体に所属する人は、どれだけ有能でもスカウトは出来ないと嘆いていた。つまり俺は幼児期からスカウトマンに目を付けられていたようなものなのだ。多分。自分に良いような言い方をすれば。
用語として"浮遊生命"、"観測能力者"、"体現技能者"という言葉が出て来た。浮遊生命とは、父さんの言っていた"浮遊する生命原物質"のことだ。それを見たり聞いたり感じたりすることが可能な能力の持ち主が観測能力者。それらに何らかの方法で働きかけ、影響や作用を起こすことが出来るのが体現技能者だそうだ。観測能力者は体現技能者に成れるが、体現技能者は必ずしも観測能力者には成れないと言う。よく解らないけど何となく伝えたいことは解る気がする。
自治体と連携してこれら特殊能力者の救済と浮遊生命(生命の概念が特殊なせいで外国語訳が無いらしい。無理やり英訳すると「Floating Seimeigen」となり、FSと略される。)の研究の為の人材獲得を目指す事も神衆連盟の様な業態の会社の目的だそうだ。ふ〜〜〜ん…。
手渡されたプリントには浮遊生命と呼ばれる現象が丁寧にイラスト付きで解説されていた。どうやら新しい物質というわけではなく複合的な反応を指すとのこと。観測や測定が能力者にしか出来ないので、物質的に感じられるという当人達の証言を元に名付けられ、そのまま物質として説明されている。つまり"浮遊する生命原物質"とは一般に説明しやすくする為の呼称であって実際は物質ではない。紛らわしいな。その痕跡や反応による変化に能力者は感応していると考えられる。それらは循環または連鎖すると推測される。その終点は未確認である。反応を繰り返し様々に変質し続ける。…様々にとか言われても知らんし、イラストを見てもよく分からない。
蓬莱さんが話している途中だというのに無意識に遠くを見てしまった。何のことやらサッパリ解らないから頭に入らないのだ。用語だけでも情報として拾っておこうと頑張ってみたが、結局は言葉のイメージが出来ない。最低限の知性が足りていないと気付いてからは、もうお手上げだ。
とりあえず理解できたのは、連盟のような会社が幾つも存在するのは、扱うものが地域特性の深く関わる現象であり個人の能力も千差万別である為、だとか。…そんな独自性の強い研究にに国の支援なんかあるんだろうか。いや実際あるから保健衛生局が関わるのか。凄いな。
改めて蓬莱さんを赤の他人だと思って見ると、素性を聞きかじったせいで変なところが気になってくる。偏見は良くないとはいえ無理も良くない。昔からどこかぼんやりしているところがある蓬莱さんは、話の合間に何だか全てがどうでもよさそうなボーッとした顔をして此方の話も禄に聞いていなかったりする。そういう変な癖がある。俺と同じでサッパリ解らない事があるだけかもしれないが、見ようによっては自分を休ませているようにも思える。
「………。名前は本名だったんですね。」
「本名!偽名やなりすましじゃないから安心して。」
「…まだ全然よく解ってないんですけど…。」
「そりゃそう。そんなに急に解る人いない。」
「あ〜……そんなもんか。」
「そんなもん!…あ、そうだ。
さっきの話で、次郎右衛門さんのお宅に、
ウチの人間がお邪魔させて貰える事になって。」
蓬莱さんは再びバッグの中に手を入れるとスマホを取り出し、画面を見て指で操作しながら何かを探し始めた。
「祖父ちゃん祖母ちゃんとの話で?」
「そうそう。許可は貰えたから、
よければ重紀君も一緒に来てくれないかな。
視覚観測者はまだ入ってないから。是非。」
「…事件現場みたい…。」
留奈さんの言っていた事が頭にチラつく。
「あ〜、でも言えてる。
こういうのが大半で。実際の仕事はね。
…集合日時と場所、これでいい?」
どうやらスケジュールを確認していたようだ。まだ返事はしていないのだけど、すっ飛ばして話が進んでいる。気にはなるから覗いて見ると、自分のスケジュールアプリの用件をそのま見せてくれた。




