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回答者


 神衆連盟には正直不安がある。やっぱり宗教っぽい。名前が。とにかく行動を制限されたり金品を要求されたら逃げよう。「自分は"神様は勝手に人と世界を造って勝手に生命をお与えになるのみ"と聞いていますので。」…とりあえずコレで逃げよう。


 冷えてきた風を感じて急いで自転車を走らせた。今年の春は異様に寒い。直にゴールデンウィークがやってくるというのに、まるで春の初めのような空気だ。

再びお稲荷さんの前を通りかかると竹籔の中に白く薄い靄の様な何かが見える。気付いたのと同時に、時間停止と例えるべきか、頭を固定された感覚の後に目の前で何かが弾けた。動き出すと一瞬崩れそうな虚脱感に襲われてペダルを漕いでいた足を止め地面を踏んだ。貧血か?くらいには思ったが、それよりも形を持った白い靄の姿から目が離せない。ゴチャゴチャ悩んだのが阿呆みたいに吹き飛ぶ。積み重なる疑問の回答者たり得る人が其処に現れた。留奈さんだ。

「待って!」

呼び止めて直ぐに自転車を道路脇に停めた。


「慌てんでもいいよ。待ってたんやし。」


相手がゆっくりと話して落ち着いているものだから、此方も走り寄って上がっている息を何とか飲み込んだ。留奈さんは前と同じ服装で、いつも通りの親戚のお姉さんの顔に戻っている。

「挨拶してきたけど…。」


「うん。ほら、氏神様。」


「!?」

驚いて辺りを見回したが、何もない。


「見えへん?…御神体とは違うから私と同じかな?」 


「御使いの人?」


「…う〜ん…本人の一部みたいな感じやね。

 出て来て下さいって頼まなアカンか…、

 人間やしな、シゲくん…。」


何故か今更当たり前の事を言っている。

「なんで神社やなくてこっち?」


「私がお願いした。格上にお邪魔出来へんし。

 次郎右衛門と違って何も知らんでしょ?

 神様に失礼があったら大変やで?

 罰が当たるの、シゲくんだけで済まんよ。」


「…そうなの?」


「同じではないけどね、似てたら懐かしい。」


「?」


「神様にとって人間てそういうもんみたいやわ。

 あんたら、似ててラッキーやな。」


「…神様に?神様が人を造ったんじゃないの?」


「!よう知ってるやん。…まぁそれも、

 覚えてる人がどれだけおるか分からんけど。」


「?」


「お参りしよっか。

 結局あんたら人間には、それしか方法がないし。」


溜息を付いて達観したように留奈さんは言った。表情は柔らかいのだけど変に落ち着き過ぎている。やっぱりにこにこしていた親戚のお姉さんではない。ようやく俺にも少しずつ、其処に在る者が神様に近い存在に思えてきた。

「留奈さんは、なんで俺に色々教えてくれるの?」


「次郎右衛門との約束やから。」


「約束?」


「あんたくらいの頃、土砂崩れを避けれんかった。

 氏神様に教えて貰ってたのにな。

 止めて欲しいなんて無理を言うから、

 予見も出来ずに崩れてしまって。

 一人死んだの。ものすごく悔いててね。」


「………。」

 曾祖父ちゃんが俺くらいの歳の頃…?

 …もしかしてそれが、曾祖父ちゃんの"仕事"…?

「予見…。」


「自分の造ったものは把握出来るけど、

 自分自身の力の行く先は確定しないから。

 焚き火は雨で消えるし、

 赤ちゃんが裸でいたら風邪ひくのは解るやろ?

 けど、手を加えたら確実ではなくなる。

 良い方にも、悪い方にも。」


「………。」


「後世に同じ能力が出て来たら、

 誰か作法を教えてやってくれって。

 私でないといけない理由はないけど、

 私しかお社を残して貰えんかったからね。」


「そこに、俺がお参りしたから?」


「そういうこと。」


「…作法なんか知らん。」


「?文化的なもんは人間が作ったから知らんけど、

 精一杯の礼儀やおもてなしは通じるもんかもね。」


 ? 何のこと?


「次郎右衛門もシゲくんも目に留まったのは本当。

 …あ、この子見てるなと思ったら、

 次郎右衛門の曾孫やったから可笑しくてな。」


優しく、嬉しそうに笑っている。美しいってこういう姿を言うのだろうなと思ってしまった。なんだか恥ずかしいけど。

「お参りしたらいいんかな。」


「私は一応話したし、決めるのはシゲくんやわ。

 最初に聞いたやろ?心は決まった?」


「…何の?」


「神様と交流し対峙する英雄になるか、ってこと。」


「!え!?ちょっと…それは…。」


「あはは。ええよ。そんなもん名乗らんでも。

 ずっと見てるし。氏神様は。」


「は!?」


「ごめんな。大げさに考えてるのは人間だけ。

 神様から見て人間なんて億千万の中の一種や。

 そんな大層なもんな訳ないやん。」


「…でも、怒らせたら相当不味いんやろ?」


「人間と神様は違う。普段は目にも入らんし。

 そんな取るに足らんもん害する目的なんて無い。

 神様はそもそもあらゆるモノを支えてる。

 "動揺させる事が、崩壊を誘ってしまう。"

 あんたらはそう考える方が正確かな。」


「………。そうなんか…。」

触らぬ神に祟りなし、とか言うやつか。御使いの人が語る"神様"は、神道とはまた別の存在なのかもしれない。宗教とは概念が違うというか…あ、文化的なものってそれかもな…。


「次郎右衛門はな、

 大昔の、そういう災害で生き残った子やの。

 偶然らしいけど、その場でお祈りしてたら、

 ここに来てるみたいな形で氏神様と会って、

 生命も助かって友達みたいになったんやって。」


「…………。」

なんだろう、急に話が嘘くさく感じる。なんか飛躍してないか?流れもトントン拍子だしさ。

「友達って、どういう仲?」


「…直接聞くのがいいと思うけど、簡単に言うと、

 氏神様が、リアクションを楽しめる仲、かな。」


 …何それ。氏神様ってドS?

流石に言いにくい。何て聞いたら良いだろう。

「神様の、一方的な…趣味?」


「さぁ。考えてることが分かったら苦労せんよ。

 自分が造ったものが壊されるのは嫌なんかな。

 人間もその中に入ってるから恩恵があるんやろ。」


「……俺は、予見が出来るの?」


「さぁ。見えへんのやろ?」


「……駄目なんか。」


「さぁ。…逆に、シゲくんは、何が出来ると思う?」


「?」


「神様は力の加減が下っ手くそでな、

 下界では影響が大き過ぎて制御出来へん。

 やから強大な御方は神様の国にいらっしゃる。

 でも人間はある程度出来るよ。

 そういうのは下界のもんならではの才能や。」


「??」


「造られたもの同士で上手くやる才能やね。

 神様同士はようやらんわ、そんなの。

 我儘で、喧嘩ばっっかりしてるしな。」


 …そうなんだ。うわぁ……。

残念な生態を知ってしまった。同じ生き物ではないのだけど、そこまで哀しいモノにはなりたくないなぁと思い、ついつい情けない顔をしてしまう。

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