表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/112

馬鹿正直


 自転車の鍵を外して乗り込んだところで当の大門の姿が遠くに見えた。田舎の道路は抜群に見通しがいい。神社の周りには住宅が建ってはいるのだが、間に入る庭や田畑が広く建築物が少ない為に、視力さえ良ければ数百メートル先も見える。このままいつものコースで帰ると途中で鉢合う事に気付いてどうするか一瞬迷ったものの、此方から見えるということは彼方からも見えている。今このタイミングで会うのは正直面倒だが、避けて帰るのも感じが悪い。神職さんから聞いた話を軽く確認してみようかと考えて何事もない振りを装い話しかけたら、何故か嫌な顔をされてしまった。


「…どうした?お前…。なんか今日、変やで?

 学校ではヤサグレてるし、

 今度は愛想いいしさ…。」


「なんで愛想いいと変なんよ?」


「良くないやん、普段。」


「………。そんな事ないやろ。」

怪しまれるのは演技の才能が皆無、馬鹿正直ということ。自分でもそんな気はする。ただ、大門が他人の言動を覚えているとは意外だった。誰彼構わずノリで話すタイプだと思っていたので覚えているわけが無いと決め付けていたところがある。馬鹿にしたつもりも無かったが、俺との会話まできちんと記憶しているとは思わなかった。


「何しとんの、こんなとこで。」


「願掛け。」


「なんで?」


「…ウチの事情で。」


「ウチの事情?何それ変なの。」


「うん。本当に。」


"なんやそれ"と鼻で笑って一蹴した後で大門は首を傾げた。


「変なんだよ、なんか。最近。

 ウチの親も、いきなり(まつ)の話始めてさ、

 相談にのってやれとか言い出して、

 何の?って言ったら、

 "曾祖父さんが亡くなって、

 シゲくんしかおらんやろうから"って。」


怪訝そうな表情で俺に問い質す。(ついでに"まつ"は俺の呼び名である。)


「お前んち、なんか家業やってたっけ?」


「…親父はサラリーマン。」


「やろ?やよな?…何なんや、ウチの親…。」


「家業あるのはそっちやろ。」


「…俺はもう自動的にそうなるもんやから。

 妹は神主にはなれんからさ。」


大門の妹の名前は天音(あまね)という。産まれて直ぐに亡くなった父親については一切何も覚えていない。大昔はゲームで負かして泣かれたりもしたものだが、そこからどう化けたのか今では私立中学に車で通う、文吾町内に於いては一握りのエリートと呼ばれる才媛となった。元々負けず嫌いなのだろう。しかしどれだけ優秀でも神社の神主は男性に限られる。優劣は問題ではなく、神道である以上そういうものだ。何より、大門から聞くところによると妹には東京の大学に通う夢があるらしいから丁度いい。

「ソレって食っていけるんか?」


「そんなわけないやん。」


「……(かどの)はさ、

 神衆(しんしゅう)連盟って、知ってるか?」


「!」


"かどの"というのは大門のあだ名である。それにしても突然に目を見開いて此方を見たから面食らった。唯でさえ大門は女子みたいな顔で目がパッチリしている。通常より大きくなることに驚いた。ちなみに妹もそっくりだったはずだが、兄の方が眉毛が太い。(実際は一年以上会っていないので妹の現状は分からない。)

「知ってるんや?」


答える前に顔を伏せて笑い出した。…?どうした?


「なっつかし〜。や、俺は才能ないから。

 …!……お前、そういう事か!」


「何?」


「分かった。そうやろ?

 やったら表立って分からんもんな。

 あれ、宗教とは別の話やから気にすんなよ。」


「………。」

言われて初めてハッキリと理解した。確かに俺はそっちと混ぜられるのが怖かったのだ。口に出したらものすごい偏見で見られそうな気がする。自分も六堂に対してそうだった。


「あ〜、やから曾祖父さんか。繋がった。

 俺はもう全然駄目やと思って、忘れてた。」


「駄目って、何が?」


「ウチの父親、その界隈の天才やったんやって。」


「!!…本当か?」


「らしい。俺は小学生ん時に話聞いて、それっきり。

 なんか昔な、父親がやってたから、

 能力はあるはずとか言われて、連盟の人に。

 それならって一応は入りたいって言ったけど、

 親も五月蝿いから禄に話もしとらん。」


「?五月蝿いから話さんて何?」


「あ〜、父親が事故死やったから変に警戒してさ、

 やるつもりも無いのに遠ざけられた。

 俺にしてみれば変な話やけどな。」


本当に本当かよ。お前、想像以上に凄い奴じゃん。

「なら、相談にのるって、どういうことなん?」


「知らん。本当に、全く分からん。

 もう俺に近寄るなって言ったことさえ、

 忘れてる可能性あるな。いい加減やから。」


「あるか?そんな可能性…。」


「有り得る。俺にやる気が無ければいいから、

 他は多分何も気にしてない。

 ウチが詳しいのは本当やからな。

 俺は教えて貰ってないから知らんけど、

 その前提を忘れてる。…腑に落ちた。」


「?何や一人で…。」


「話してみるもんやな。なんか助かったわ。」


喜んでいるのか、明るい顔で話す大門がイマイチ理解出来ずに此方は腑に落ちない。実は家の事で悩んでいたとか、そういう話?

 まぁ、いいか…。

俺には全く分からんとしても、なんか助かったと聞いたら特に気にせず了解し、OKだなと判断することで俺の周りの世界は廻っている。

余程の事でもない限り、ひとんちの事情に深入りするもんじゃないしな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ