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神寄せ


「お参りの仕方は分かるかな?」


「あ、はい。二拝二拍手一拝…と聞いてます。」


「おお、偉いね。

 二礼二拍手一礼とも言うけどね。

 まぁ、どっちでも良いんよ。…こう。

 二拝二拍手の後に願掛けして貰って、一拝。」


「…わかりました。」

神職さんは拍手のやり方を実演してくれた。思ったよりも大きく腕を開いて、重ねる手を少しずらしていたように見える。"細かいことは気にせんで"と特に強制されることはなく、機嫌よく教えてくれた。それは有り難いことなのだけど、何か変な気がする。どこか不自然だ。

一言で表すと神職さんは明るくて元気のいい眼鏡のおじさんである。中肉中背…よりは少しだけ厚みのあるがっしりした体格に、グレーのスウェットを上下共に揃えていた。まるで部屋着だ。よく見たら足元は白のスニーカーを履いていたので散歩かランニング中だったのかと不思議に思った。まだ辺りは明るい時間だ。仕事は休みなのだろうか。

白髪混じりの硬そうな癖毛は大門よりも短く整えられている。この癖毛は血縁の確かな共通項のように思えた。目の周りや皮膚の感じを見る限り、やはりお爺さんと呼ぶような歳ではない。

 …願掛けか…。何をお願いしたらいいかな…。

挨拶をするという用事で来ているものだから忘れていた。神社は普通なら願掛けをする人が来る所だ。


「…君が松尾くん、やろう?」


「へ?」

変な反応になってしまった。やっぱりという直感と連盟や能力について話してもいい相手かどうか解らないという迷いが重なって、瞬時に整理が出来なかった。


「蓬莱さんから聞いて、

 いつ来るか解らないって言うから、

 見てて貰ったんやけど、早かったな。

 御使いの御方は待たれてるかもしれんよ。」


「?御使い?」

良かった。どうやら大丈夫な人だ。


「ええとね…。

 この神社は土地神様が祀られてます。

 神寄せの方は入口と出口を造って、

 御使いの方々を呼ぶ事が出来るやろう?

 力ある神様は神様の国におわします。

 そして御使いを遣わす事がある。

 けど、そこまで強大な力の無い御神体は、

 人知れず、人の目には見えないままで、

 この世界を漂うようにいらっしゃる。

 ウチみたいな小さな神社には、

 そうやって自由に漂ってらっしゃる神様と、

 その御使いをお祀りしてる所もあるんです。

 律儀に人間を相手にしてくれるのは、

 大抵は御使いの方々になります。」


神職さんは初心者に対する説明を丁寧にしてくれた。そしてその中で凄く大切な事を教えてくれた。

"出来るやろう?"と知っているのが当然の口調で言われた神寄せの能力について、実は俺は初耳である。全く知らなかった。思想も作法も知らないままで、神寄せというのは神様と通信する儀式みたいなものだとぼんやり考えていた。お祭りのように皆で参加するイベントではないのだ。だから、神寄せと呼ばれる人は何処かの神社の神主さんとか、神様に対する信仰心と奉仕の精神の強い人、或いは地域住民の代表、くらいのものだと思っていたのだ。

というか、そう考えるのが当たり前だ。土着の宗教的儀式なのだから。

 ……あれ?

改めて神職さんの眼鏡の奥の瞳を伺う。蓬莱さんを知っているから連盟の関係者なのだろう。でも、神様が見えるのは珍しいらしい。神寄せは大昔から神事として定期的に行われているらしい…。

この人は、神事の話をしているのか、俺や曾祖父ちゃんの能力の話をしているのか、どっちだ?

「待ってるって、何処で…?」


「…先ずはお参りしようか。」


「あ、はい。」


「?どうかした?」


気遣わしげに笑顔で話しかけてくる。俺は神職さんをよく知っている。大門の友人は多いのかもしれないが、度々神社に勝手に侵入していた悪ガキを忘れてしまったのだろうか。

「…俺を見ている人が、居るんですか?」


「ああ、説明してなかったな…。

 蓬莱さんが置いていかれた使い魔がいてね。

 勿論この神社の外に…気付いてないよね?」


「え!?」


「人間の使い魔は見えへんとは知らんかったから、

 僕の所に連れてきて貰おうと思って。」


「あ…。」

先に神職さんを訪ねるべきだったのか。確かにその方がお参りの作法もしっかり教えて貰えた。


「いやいや、僕が何処に居るかなんて、

 解らないでしょう。それよりも、

 君に見えないのなら、見てたのは謝らないと。」


「?見てたって…。」


「ぴったりくっついてたわけじゃないけど、

 ここに入るところは見させて貰ったわけだから。」


「はぁ…。」

 使い魔、って…留奈さんが言ってたヤツか?

 じゃあやっぱりこの人は相当詳しい…?

 …繋がったような気もするけど…、

 …勘違いなのかもしれないしな…。

よくわからないまま、綿毛の様な無自覚で、吹いてくる風に乗って良いものだろうか。揺らぎながらも少しずつ世界は確実に開いてゆく。

そんな感覚があった。

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