表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/147

可能性


 学校帰りに待ち合わせをするような友達はいない。居てくれたら俺も少しはマシな人間になっていただろうか。いや逆か。もう少しマシな人間だったら顔を見ればホッとするような親友なんかが居て、気負わなくとも普通に青春を満喫出来ていたのだろうか。現実は理想とはほど遠い。イジメには遭いたくないと怖がりながら、強気な考えでプライドを保とうとする。意志表示もしっかりとは出来ないのに、優柔不断な自分にではなく周囲に責任を求める。矛盾しているのを何とも思わず、平気な顔して開き直る。甘えていると言われればその通りだ。この先の見えない不安や安定を欠いたメンタルも、他人と密接した繋がりの無いままに生きてきたツケみたいなものかもしれない。信じられる確かなものが無くて俺という人間の地盤はグラグラだ。周りから浮いていると言われてショックだったこともある。早く何とかしないと集団に馴染めない駄目な人間だと決められてしまう。…なんてことを考えはするものの自己嫌悪で落ち込むほど自分の心は清廉ではない。本当に嫌なのは不安が頭から離れないと集中力が削がれること。その時間が勿体ない。そして多分これからも結局同じ事を繰り返すのだから、損して取り返せる目処も立たないマイナスのスパイラルに陥るわけだ。気持ちの問題と言えばそれまでだが、常に眉毛の上辺りに薄暗い雲が垂れ込めて見える。

身から出た錆だと謙虚な人間に諭されたとしても受け入れるつもりでいるのに言ってくれる奴もいない。生憎と頭脳明晰な良い奴でも粋がって生きる強い奴でもないので、このままでは俺は足掻く術もなく誰にも知られずとことん地味に錆びついて朽ちてゆくことになるのだろう。

せめて人並みの青春と呼べる日常を。俺個人の人生と適度に充実した学校生活を両立する為には学校での目標を低くして趣味と遊びの中で学びを得る期間に充てるのがいい。必要十分な条件の最低限を狙うつもりだった。進路は専門学校で十分だと思っている。大学を目指す程には幅広い学問に高い関心が無いからだ。今のところは。


 曾祖父ちゃんが亡くなって以来、なんとなく周りが騒がしいのは俺くらいしか地域に残って真っ当に後を継ぎそうな人間がいないからだと思っていた。一人っ子だから、自分がそんな風に認識されるのも仕方ないことだと。まさかあんな突拍子もない話を本人の意志と無関係に進めているとは思わない。流石に無いだろ。人の人生を何だと思っているんだ。

まぁそうは言っても我が家には今更だ。俺は小さな頃からそうだった。祖母ちゃんが何かと要望が多い人で、色々な習い事を体験だ経験だと言ってやらされた。俺も何かを望み諦めなければ叶うのだと言い聞かせては踏ん張ってみたが結局は何も掴めなかった。所詮その程度の凡夫であることは分かりきっているのだ。我が家の人間も。ならば既定路線で定石通りに生きろという発想だろう。連盟の仕事?とか"神寄せ"とやらはこの地域特有の職業?だろうけど、稀有な能力を持っていたとして、華麗に活躍できる訳でもないだろう。そもそも形通りの完璧を要求する人間が完璧とは限らない。自身が経験者でも何でもない以上、その策謀は単にアイデアでしかないはずだ。最悪、思いつきや行き当たりばったりで生じた都合の可能性すらある。

昨日知ったばかりの変な能力のせいで家族(特に父さんと祖父ちゃん)は怪しさが増して俺の中で信用はほぼゼロだ。逆に事実を知らされた事で何かが変わりそうな、そのヒントを与えられたような気はしている。自分が周りとは違うと解ると、今迄は何を考えて、どうして周りと同じ選択肢を選んでいたのだろうと不思議になる。俺は選ばれた人間ではないけれど、そう錯覚してもおかしくない状況に在って、自分にしか出来ないかもしれない仕事と既出の人生設計の間で迷っている。連盟に協力しながら今迄通りというのは可能なのだろうか。

 …まずはそこから…か。

情報が第一だ。知らないままでは勘違いすることしか出来ない。正確な情報を掴むのが先決。考えるのは後回しで正解だ、と思う。



 学生としての活動を最低限しかやらないことを情けない、なんて言う先生もいるけれど、そんなのは勝手な侮蔑だ。俺には俺の目指すところがちゃんとある。限りある大事な高校生という期間に、そんな他人の価値観と我儘に付き合って神経を擦り減らすのは御免だ。こっちは今迄も大人にこき使われ散々に付き合わされてきた。結局それで有利な事など大して無かったのだから時間の方が勿体ない。更になんかよく分からんままに始まった連盟の関係者の話が加わって、とにかく今は面倒臭い事情を抱えているのだ。

広い交友関係や無二の親友は手に入らないにしても、矛盾を無視してまで守ってきた自分の誇りと信念を簡単に失うのは惜しい。というか、悔しい。

新しく始まる世界の選択肢が見えていることが、未来の無い解答を許せないと思わせる。母さんの心配事と大門の父親が神社の関係者だったことが繋がっているのではないかと気にしている俺は馬鹿な陰謀論者なのかもしれないし、考え過ぎの域を越えて連盟を中傷しているのかもしれない。

 …ん?…神職さん、大門さんじゃないかな…??

勘違いしていた。婿に来た父親の兄弟は子供と同じ姓とは限らない。大門の家には大門の表札が出ているから神社の隣に住んでいるのは大門家だ。家系を継いだのは母親の大門さんで、神社に直接関係しているのは本来母親の方だ。婿に来たからには父親も関係者にはなったのだろうが、俺が聞いたのは、その前から氏神様にお仕えしていたというようなニュアンスの話だ。神職さんから聞いたのだったか?家族からだったか?とにかく、その父親が早くに亡くなっている。大門の父親は神職さんの兄である。つまり父親の家系は氏神神社に関係する仕事やボランティアをしているお家柄(或いは一族)である可能性が高い。

 …凄く狭い世界で結婚したのかな…面倒臭い…。

こんなド田舎で近くに居るもの同士がずっと一緒に居るなんて、考えれば考えるほど面倒臭くなる。価値観はそれぞれ違うものだから大門の両親が何を考えようがどうでもいいのだが、連盟というのがどういうところなのかを知るのは大事な事だ。

つまり俺は、大門の父親が連盟の人間だったのではないか、"何か事件"に遭ってしまったのではないかと疑っている。何故なら昔、その葬儀に出席していたと言うウチの祖父ちゃんが、葬式には遺体が無かったと言っていたからだ。確かまだ今の家に引っ越す前で、遊びに来たとか何かのついでに大門は父親を亡くしている子だと改めて教えて貰った時だ。(保育園では既に本人から聞いていた。)葬儀や法事は家で行う事が多い田舎では葬式でご遺体の顔を見せて貰うのは割と当たり前で、遺体が無いのは珍しい。幼かった俺にはその特異なところは解らなかったが、祖父ちゃんが話しながら匂わせる不穏な空気が怖くてよく覚えていた。ただの匂わせ詐欺である事を祈る。今なら、それくらい祖父ちゃんならやりかねないからな、と流せるものが、当時の俺には無理だったのだ。

変な信仰はおかしな空気を造る。あの気持ち悪さは恐らくその類のものだと思うけれど、事実は変わらない。阿呆なチビだった俺は興味津々で大門本人にも話を振ったと思う。多分。しかしそれは大して記憶にも残っていない。確か本人は気にもしていないようだった。…と、思う。……今更聞きづらいのに、やっぱり確認したくなってしまう…どうしよう…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ