表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/116

コンプレックス


 学校の通用門を出て大通りに向かう途中の田舎道を自転車を押しながら並んで歩いた。辺りはもう薄暗くなって前輪のセンサーライトが点灯している。いつもならグラグラと揺れる光を追いかけるように走るところだけど、今は横に堀井が居る。自転車を押すと歩調を合わせるのは意外に難しかった。

取り敢えず水池への好意は認めた。それで合っているはずだ。堀井には最近になって気になってきたとだけ説明した。俺が簡潔に話した内容に納得がいかなかったのか、堀井は怪訝な表情で此方を睨むと少し捻って首を傾げた。


「最近て、アレ?猫がどうの言ってたやつ?」


「…まぁ、その関連。」


「あ〜、やけに見てると思った〜。

 コンビニで会った時。けど分かんなかったな〜。

 制服マニアかな、やべぇな、くらいに思ってた。」


「違うわ!なんやそれ!?」

 なんてことを思ってくれてんの!?

 ヤバイのはお前の発想だろ!?

てか今日の事が無かったら、ずっとそう思われてたってこと…??


「いや知らんし、こっちだって。

 マヨのことなんて見慣れてるのに、

 何をニヤついてんだろ、って思うじゃん。」


「!?俺ニヤついてた!?」

衝撃の真実。恥ずかしいなんてもんじゃない。堀井を見て普通に話している様子を確認すると、もう過去の自分は死んだということにしようと画策し始める自分がいる。耳も顔も熱い。絶対赤くなってる。可笑しそうに引き笑いする堀井の声が聴こえる。

 …駄目だ。もう二度と水池に会える気がしない。

 俺どんな顔するか分からんてことやん…。

何も初めて人を好きになった訳じゃない。保育園の頃には担任の先生が好きだった。よく遊んだ田端(たばた)のことも好きだった。小学校では六年の時の担任の先生をかなり好きになって、卒業式は前日から家の布団に包まってメッチャ泣いていた。

中学時代は馬鹿をやって楽しく過ごすばかりで、気になる存在も特にいなかった。水池の記憶は完全に種類が違う。今もあまり好きだという浮かれた気持ちや高揚感は無いし、一緒に居たいとか離れるのが寂しいとかでもない。ただ思い出す度に少しずつ可愛いく思えてくる。それだけだ。本当にそんなもんだった。

 …まさかそんな…顔に出るとは…。


「文吾中より南高の制服の方が可愛いし、

 マヨには明るい色の方が似合うよな〜。

 まぁ可愛い子見てニヤつくオッサンみたいな…、

 そういう自覚は持っといた方がいいよ。

 松尾は歳より上に見られるから。」


「……。キモい…?」

頭が急速冷却される。心まで凍りつきそうな勢いだ。


「久しぶりに会う男子なんか、

 その辺のオッサンと変わんないよ。

 女子だって化粧したら分かんねぇとか、

 言われるでしょ?同じだよ。」


「?成長を止めた男子ならいいの?」


「何それ。更にヤバイやん。

 ずっとバカなガキのままってこと?」


ドン引きしたか怒ったらしい堀井は急に声音が下がった。眉をひそめたまま表情筋が硬直している。

「…まぁ、ヤバイか。」

先程から俺は師事を仰ぐ弟子の気持ちでいる。堀井は所謂恋愛オンチであっても、女子ではある。


「どういう奴ならいいか、って考えるの?

 男子って。ならいい、って何?」


「いや、その方がいいのかな、って…。」


「それ違わない?」


「……違うかもね。」

確かに。言いたいことは解る。


「恍けてんな…。まぁ、私も女子はどうとか、

 分かんないからこんな感じなんだけど。」


「自覚あるんや?」


「真顔で言うなよ。腹立つな。

 恍けるべきじゃない時には恍けるくせにさ…。」


「……。なんか当たりキツくない?」


「………。悪かった。コンプレックス。

 けど充分そっちも失礼だと思うけど?」


空気がピリピリしている。責任を感じたらしい堀井は謝りはしたが顔を背けていた。この際だからさっきのことも含めて、一度言っておこう。

「得意分野じゃないのに他人に茶々入れるの、

 なんで?余計な事って思わんの?」


「あ〜、嫌か…。ごめん、話聞きたいだけ。

 知らなきゃ解んないから。」


「他人の話なんか知ってどうすんの?」


「?知識として蓄える。どうすんのって、

 何も出来るわけないでしょ、他人の恋愛に。」


「じゃなんで口出すのかなってさ。」


「?口出す?私が?口なんか出した??」


「……。あ、それはないか…。」

 ?あれ?…なんで俺そう思った??

 てことは…つまり全部考え直しで……んん??


「解んないから知りたいんじゃん。

 経験者から聞かないと意味ないでしょ。」


「経験者って…。」


「はぁ…。つまんねぇ想像すんなよ。

 真面目に話してんだけど?」


「…悪い…。」

溜め息と一緒に放たれた冷気を浴びて素直に態度を改める。しかも他人に茶々を入れるなと自分で言ったばかりだ。こっちがやらかしている。

 …条件反射…出るタイプだな確かに俺…。

突如として深刻な問題に直面してしまった…。

今考えても仕方がないので取り敢えずそれはそれとして、ちょっと堀井の言いたい事も解ってきた気がする。アレは勉強していたわけだ。考えてみれば、こんな地方じゃ都会とは全然事情が違うし、ネットもメディアも当てにならない。教材になるようなものなんか無い…或いは現実に勝る教材は無いということかな…。それに俺と似てるところもあると思う。混ぜて欲しいんだろう。疎外感があるからこそ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ