表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/116

ポンコツ


 中学校での日々は自分の中では充分に楽しかった。部活動はイマイチな成果だったし、森川の件ではムカついたりもしたけれど、馬鹿な真似をして笑い合った記憶も沢山ある。

放課後の自転車置き場の空気が好きだった。用もないのに自転車に跨って友達とダラダラ喋っていたりもした。親友と呼べる人間は居ないのだろうと思う。それでも仲良くしていてくれた期間があるなら俺は勝手に友人だと思っている。眠いだけで怖いから睨むなと言われてしまう顔と結構な身長差がある身体を持った人間に、声を掛けようとか一緒に遊ぼうとか考えてくれたのが単純に嬉しかった。

俺は昔から気が弱い、というか厳しい規律のある体育会系が苦手だった。身体がデカくても苦手なものは苦手なのだ。体格を活かした格闘系のスポーツも、応援団の様な集団をリードする役割も。基本的に引っ込み思案だから精神面でちょっと無理がかかる。よほど簡易でない限り、その手の勧めは断った。自分が混ざっても上手くいく自信が無い。一人なら大して気にしない事も、誰かが一緒だと自分の失敗で迷惑をかける。せっかく混ぜてくれた奴等に傷が付く。しかも俺の失敗は目立つのだ。仕方ないけどやっぱり厳しい。そういう事を気にする性格をしているのだから、ちゃんと慎重に考えたい。俺は武勇伝なんか別に要らない。

地元で跡継ぎをやらなきゃいけない人間だ。それは望みでもある。ウチの祖父ちゃん祖母ちゃんにはモヤモヤすることもあるけれど、文吾町は決して悪い所じゃない。町内の人間同士は大体の事情が解るし共有出来るものも多い。家業を継ぐと言う同級生もいる。長く続けられる仕事と、興味の尽きないテーマと、考え続けても飽きない深いジャンルがある方が良い。一人でも、僻地でも、誰かに許されなくても勝手に出来る。

 …なんだか変な感じだな…。

さっきからどうも情緒がおかしい。フワフワしているのに冴えているような…妙にリアルに昔を思い出すのだけど、何だろう。これが恋愛によるセンチメンタルな気分というやつなのか??



 坂島西高校の自転車置き場はハッキリ言ってボロい。錆びたトタンの屋根は台風が来る度に一枚ずつ捲れて剥がされ新しく修理されていく。校舎の二階から見るとツギハギになったその屋根は見ようによっては味があるとも言えるかもしれないが個人的にはそういうのは求めていない。何が言いたいかというと、いつ見てもコレ一回全部作り直すべきだよなぁと思う、所々穴も空いてるから雨の日は場所を選ばないと自転車が濡れて嫌だ、予算出して欲しい、ということだ。脳内で意見したところで県政に通せる訳ではないけれど。

堀井を待っている間にぼんやりと考え事をしていたら、いつの間にか置かれた自転車の大半が消えていた。部活動の最終時刻は六時までと決められている。帰りは大体同じになるはずなのだが、ブラスバンドは後片付けに時間がかかるらしい。それも勿論厳しく制限されていて、六時を過ぎて部室に残ると先生と部長にかなり怒られると聞いている。逆に野球部なんかは近くの市営グラウンドを使っているので下校時刻すら関係ない。九時まで練習、更にそこから片付けだという。凄い。バイタリティの塊だ。

バト部はというと運動部の中でも片付けは楽な方である。持ち回りでやっているポールとネットを仕舞う係でなければ、ラケットとシャトルをケースに入れてそのまま帰れる。学校指定の緑ジャージで電車に乗りたくない電車通学組は着替えの時間だけは必要になるけれど、今日は気温が上がらなかったからそれほど汗もかいていない。俺はジャージで帰るつもりでいる。ジャージ下校は坂島西高校ではよくある光景だ。

 …一緒に帰るって訳じゃないよな?

部活動の活動最終時刻は最終下校時刻の二十分前だ。このまま自転車置き場でのんびりしていたら見回りに来た当番の先生に追い出されてしまう。チラリと笹山の顔が頭に浮かび、話の重要度を鑑みて静かに目を閉じる。既に帰っている筈だ。見られる事はあるまい。ダブルスの相棒と変に拗れるとか、絶対に嫌だ。万が一の時は堀井本人に否定してもらおう。

 …待てよ?いっそその方が、

 それがいい機会になるかも知れないぞ?

気が付けば他人に対しては妙に押し付けがましく考える自分がいた。堀井の事は言えない。

眼鏡を掛けた誠実なプラモ好きである笹山は、優しいし人当たりも良い。見ている此方も安心出来る穏健派だ。普通なら、このままの感じで幸せに生きていって欲しいと素直に思うところだが、今回は相手が相手だ。一度直接話してみてからだろうな…と考えてしまう。堀井も澄ましていれば美人に見えなくはないし、目だけは割と綺麗だから知らない奴は騙されるのだろう。とはいえ人の恋路を邪魔してはいけないので俺から出来ることは無い。沈黙は金と言うしな。



 遠くに見えた制服姿の女子が堀井だと判別出来るまで近くに寄ってきたなと思ったら、よく見ると酷く冷淡な顔をしている。俺が見ている事に気付くと左右にゆっくりと首を動かした。誰も居ない事を確認しているようだ。自分の自転車の鍵を外して此方に押して来ると目前で止まり、何故かポカンと口を開けてそのままハァーッと大袈裟に溜め息をついた。


「何年片想いしてたんだよ!?」


開口一番コレである。笑った。あれだけ自由な校風の文吾中学校で、ずっと水池のことが好きだったならお前にバレないのが難しいだろ。俺めちゃくちゃ名役者じゃんか…!

「ハハハ……や、そうじゃなくて。」

流石難攻不落の城、堀井。恋愛関係には想像力が皆無。心の機微もクソもない。ロマンどころか作法すら無視だ。解る。俺もそんなの良く知らない。俺は動けないけど、動けるだけ偉いよお前は。

本当に、よく俺の気持ちを当てられたなと思う。いやでもよかった。俺だけじゃなかった。ポンコツ仲間がこんなにも身近に居た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ