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 一通りの言い訳を並べた後がヤバかった。話を有耶無耶にしてやり過ごし、チャイムが鳴ると騒がしかった教室の空気は平静を取り戻し始める。あちこちに集まっていた仲の良いグループも急いで散っていった。一人になって落ち着いたところで五時間目の授業の準備をする。机の中のペンケースを手で探り当て、鞄から取り出した数学Aのノートと教科書の上に重ねると、ふと周りの音が一瞬消えた気がして胸の動悸が驚くほど大きく感じられた。一度気付くと、とてもじゃないが無視出来ない。心臓は筋肉の塊だと思い知る。バクバクと鼓膜と頭が震えるみたいな音が一帯に鳴り響き、全然止まらなくて怖くなってくる。熱さを感じて、赤くなっていたらどうしようかと片耳を手で隠した。

 ………。

何もおかしなことじゃない。違うと言い張るか認めるかだ。難しく考える必要も無い。でもコレはほぼ100%上手くいかない。自分で言った通りだ。相手は決して近くはない。どうこうしようと考えるようなことは全て迷惑にしかならない。

 …認めて、諦める…。

それが一番いい。それしか無い。水池はそういう相手じゃない。そもそも会話も噛み合わない。なのになんでか、どうしてか、なんて考え始めたら逆効果にしかならない。思い返せば結構根が深いのだ。自然に消えて無くなるのを待つしかないのに、本当に堀井は余計な事をしてくれる。

中学時代は恋愛というものや自分について、俺はよく解っていなかった。というか、話に聞く恋愛とかじゃないと今でも思っている。それは欲望や願望を叶えたい相手だ。水池をその対象にしようとしたら、終わる。恋や愛がどんなものかは全然知らなくても、それだけはハッキリしている。俺は近付かないに限る。それ以外にどうしたらいいのか解らないし、恐らくどうしようもない。選択肢は無い。一択だ。

ただでさえ精神的に疲れていた。多分自分で思うより参っているのだ。学校も離れて、高校にも慣れてきて、油断した。幸い五時間目の科目は得意分野だったから集中出来なくてもまるっきり授業がふいになる(無駄になる)ようなことは無かったけれど、やっぱり堀井に気付かれたのは不味い。心配事がまた増えた。俺は別に水池でなければ駄目だと言う訳じゃない。このまま思い出になるはずだった。学校も違うし、割り切って次に進むべきだ。しかし、あの堀井が何を考え、どう動くかは分からない。分からないのが恐ろしい。期待しては馬鹿を見るのだろうけど、逆にスッキリと区切りを付ける機会になるかもしれない。…こうなったらもう運を天に任せるしかない。




 どちらかといえば妹よりはお姉さんを希望していた野々原には悪いが、西高に進学した知り合いに姉のいる奴はいなかった。リアルの恋バナというやつは話題に出ない訳じゃないけれど、話のネタとしては所謂エロコンテンツの方が手っ取り早く盛り上がるわけで、野々原は実は自分に自信のある実直な行動派だ。現実的に恋愛を希望し、出来れば巨乳でスタイルの良い黒髪ロングの美人なお姉さん(露出大好き)を探している。ちょっと欲張り過ぎの気もするが、実際どこまで本気で言っているのか分からない。坂島市もそれほど都会ではないから、妥協を許さないつもりなら長い旅になるだろうと思う。

逆の話もあった。同じバト部の一年生でダブルスを練習している笹山凌平(ささやまりょうへい)からは、堀井と付き合っているのかと聞かれた事がある。大事な相棒にいらん誤解をされたくは無いので即座にきちんと否定した。聞いてくるということは気があるのだろう。完全に便利ツールだと思われているだろうから有り得ない、とは言えなかった。改めて言葉にすると碌でもない人間に取り憑かれているのではないかと現状を顧みて軽く意識が遠くなる。疲れていると考えることも妄想の様になりがちだ。

堀井については、確か中学の頃に"自分に触れようとするなら親父と兄貴と弟を倒してからにしてもらわないと困る。"とか何とか傲慢な台詞を吐いていたのを覚えている。貴族ごっこでもしていたのか、状況は朧げだ。女子が集まって話していたのを近くで聞いていて、頭のおかしな奴が居るなと思ったら堀井だった。当たり前になり過ぎて気にした事が無かったが、あれだけフラフラしていそうな性格の割に異性関係には噂も無ければ近寄りもしない。他人の事は煽るくせに自分は拒絶しているようにも見える。知り合ってから、つまり小学校からずっとだ。

昔から兎に角口が立って、相手が男子だろうが教師だろうが正面きって喧嘩するくらいに気が強かった。同級生に殴られて泣いても譲らず悪態をつくような頑固な意思の持ち主である。頭も回るから相当難しいだろう。一見すると水池の様に怖がったり避けたりする様子はまるで無いし、今となっては近付きやすく話しやすい。しかし攻略するとなると友人としてアドバイス出来ることもあまり浮かばない。色気が無い上に取りつく島もないということは、ちゃんと考えてみると難攻不落の城に等しい。笹山が堀井の本性を知って普通に幻滅するなら笑い話だが、変に嵌まると色んな意味で心配だ。…いや、人の事は言えないか。その時にはバト部の試合に影響しないように、仲良く読経でもして雑念を払うかな…。

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