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リアクション


 体育祭の後には文化祭が控えている。近隣に住む一部の人間の間では高校や大学の文化祭の事が既に夏から話題になる。学校内に外部の人間が入れる限られた機会だからだ。この辺りの高校では一般公開を実施しているのは私立だけで、公立は家族のみ入場可の所が多い。卒業生も入れるが当時の学生証の提示が必要になるという所もある。当然私立高校の方が規模も大きく華やかだ。夏に知り合い、その縁を活かして文化祭にいい思い出を作ろうと考える積極派が動き始めるらしい。

文吾町の夏祭りでの、ちょっとした出来事を堀井から聞いたのは体育祭についての連絡事項を確認していた時だった。昼休み中の教室で、"そういえばさぁ…"と、ふと思い出した様に堀井は話を切り出した。俺は自分の席の椅子に座って会議の内容をメモしたノートを引っ張り出そうと机の中を覗いていて、その横に立っていた堀井に邪魔だから下がるように手で合図した。少しだけ後ろに下がった後でまた続きを話し始める。


(かど)のん君の妹、盆踊りの時、

 テレビ局の取材受けてた。地方局の。見た?」


「や、見てない。テレビ殆ど見ないからな…。」


「なんか、良くないのにも声掛けられててさ。」


「え!?何ともなかった?」

予想外の不穏な展開に驚いてノートを引き出す手を止めた。夏はとうに過ぎた後だ。今更の話ではあるが俺は初耳だ。


「大丈夫。マヨが見つけて気にしてたんだけど、

 兄貴に追い払って貰った。」


「おぉ、良かった。

 兄ちゃんと一緒やったんや?」


「うん。女子二人じゃ心配だって言うから。」


「…フゥン…。」

水池(みずち)は良い顔をしなさそうだけどな…。

「浴衣着て行ったの?」


「や、普通の服。…浴衣か。そういうもん?」


「いや、別にいいんじゃない。普通で。」


「妹さんは着てた。浴衣。」


"そっか。"と答えながら、開いたノートに書かれた文字を辿った。

「此処から。」

横から覗き込んだ堀井は俺の指さすところに目をやると、ノートを借りていいかと聞いてきた。手渡して暫く待とうかと息をついたら、あっという間にノートは閉じられ、やけに機嫌の良さそうな堀井による他愛ない雑談が始まった。読むの速いな…。


「文化祭、妹さんも来るって。」


「フゥン…。」


「松尾の事知ってるって言ってた。

 妹…アマネさん?」


「あ〜…、全然会ってないけど、知ってはいる。」


「会うの楽しみだって。」


「へえ〜…。」


「え〜?女子に会うの楽しみって言われて、

 そのリアクションはないやろ!」


「えぇ??や、社交辞令でしょ?」

唐突なツッコミにペースが狂う。急に話す声が大きくなった堀井のせいで周りの数人が此方を振り向き注目した。キョロキョロする俺に対して堀井は落ち着いたものだ。取り澄まして視線を流し、悪戯っぽくニヤリと笑った。

 …久々に見たな、この顔。

そして思い出した。コイツが蓬莱さんと似たような種類の人間だということを。昔の諺か何かで「女三人寄ればかしましい」というのを聞いた事がある。夏祭りで実際に何があって何を話したのか知らないけれど、何年かぶりに会う人間に楽しみだなんて言われても大抵それは変貌を見るのが楽しみという意味であって、変に言葉を返すとややこしい。妙に浮かれた堀井が期待するような意味である可能性などほぼゼロだ。

 何考えてんだ…?

人様の事でイジったり囃し立てたりするのが好きなタイプは自己中で信用ならない。正直、堀井は高校に入ってから羽目を外した言動が目立つと思っていた。昔馴染みといえどイラつきもする。お前は体育祭実行委員の事でも今まさに俺に迷惑かけている身だろうが、と。


「社交辞令だから返すんでしょ。

 "俺も楽しみ〜。"くらい言えよ。」


「……。言ったらどうなの?」


「良い関係だな、上手くいかんかな〜くらいに、

 なるやん。」


「ならんわ。てかなんなのその発想。

 全部お前の為やんか。」


「!?ならない!?

 …松尾、誰か好きな子いるんだ?」


「??なんで??」


「いるから、そうならないんじゃない?

 返事速かったし。…いるんだ…。」


「??いや、別にそんな深い意味ないしさ。

 てかなにお前勝手に決めつけてんの?」


「…怪しい。」


「……。居たとして、別にいいだろ。」


「認めたな。」


「どう転んでもそうなるしかないやんか…。」

お前…本当…程々にしとけよ…?


「お〜、いい話聞いたわ、松尾。

 文化祭に女子来るの?誰かの妹?姉ちゃん?」


近くに居た野々原と(つつみ)が正面から参入してきた。お前等…。いや、男子高校生としては健全なのだろうけど、コミュニケーション強者はやはり行動力が違う。悪い奴等ではない筈だとは思うものの、大門天音(おおかどあまね)はまだ中学生だ。

「かどの…じゃねぇわ、大門の妹。止めとけよ。」


「野球部の?マジか。じゃあ駄目か。」


堤葵(つつみあおい)は一見すると何処を見ているのか分からない不思議な雰囲気を醸している。フワッと軽いショートカットに大きな瞳と薄い唇が人形みたいな印象を与える。中性的な名前のイメージ通りに線の細い男子だ。野々原よりも純粋なのだが、この見た目で実はかなり見境の無いタイプである。確かに、お前は駄目だ。分かっているじゃないか。


「マヨも呼びたかったなぁ。」


「来れなくて良かったわ。」

ホイホイ口を滑らせる堀井に思わず真面目なツッコミを入れてしまった。途端に堀井は気が抜けた様に黙り、物珍しげに横目で此方を伺っている。なんだろうと思ったら、慎重に表情を作って俺の目をじっと見据えてきた。


「……マヨ?」


「……???」

何が?と言おうとして言葉に詰まった。時が止まったように身動きが取れなくて続きがなかなか出てこない。

「…や、そういうんじゃなくて、普通に。」

正直な気持ちだ。水池はそういうのじゃない。ただ対人関係が、特に男子が苦手らしいのは見てきているから、ごく普通の意見を言っただけだ。

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