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蝉の声


 神様の為の祭事と読み解くのならば文吾町の祭りは秋が本番だ。この場合の神様とは氏神様のことである。

夏休み中に訪れた氏神様の神社は周りの樹木林が蝉の巣窟と化して耳を劈くレベルで喧しく、自分が発している言葉さえもよく聴き取れない有様だった。勿論、物語を話せという御要望に応える為に訪れた時の事だ。そうでもなければ夏場には特に神社に用は無い。地域の子供会や集会に集まった古くからの住人が清掃作業を手伝う事はあるけれど、せいぜいそれくらいだ。文吾町の夏祭りが行われる場所は神社ではなく町民センター前の広場であり、夏祭りに神社は全く関係していない。そもそもお盆は仏教の考え方だ。故にアレは外向きには夏祭りと説明してはいるものの、やはり文吾町民には"祭り"でなく、あくまでも"盆踊り大会"なのである。

蝉の声に邪魔されながら俺が話したぶち猫と"蛇"にまつわる話の顛末は、俺自身が理解しきれていない部分もあったから事実が正確に表現されていたのかは怪しいけれど、出来る限り解りやすく纏めたつもりの物語だった。ノートの一ページを破って予め書いておいた粗筋を読むだけの作業だったが、雑音を通り越して圧力すら感じる蝉達の声に呑み込まれないように丁寧に読んだつもりだ。"先ずは挨拶代わりの御参りをして、後は適当に話しておいたらいい。"という留奈さんのアドバイスに従って、本当に適当に済ませてしまった。神様の御使いだと言い張っているヒトなのだから、信じる者は救われるはずだ。結局何者の声も聴こえないまま、あの恐ろしい存在を感じる事も無く、終始自分の声が相手に届いているのかも半信半後の状態で"お勤め"は終了した。確かお稲荷さんの社で聞いた声は御使いの人?だと留奈さんが言っていたから、アレでも神力とやらは本人?よりも弱いのだろう。そう思うと更に恐ろしい存在が自身の頭の中では想像される。そのくせ現実の光景は灼熱の昼下がりに蝉の声の渦の中で独り言の様に紙っペラ一枚を読み上げる男子高校生という頭のおかしな様子でしかない。冷静になると一人で何をやっているのだろうと困惑してしまうから、ある意味自分との闘いでもあった。特に神職さんに断ったわけでもなく、勝手に入って勝手にやったことも気になっている。それも総ては留奈さんを信じた結果なので俺に罪はない筈だ。アレで良かったのかは実は今も解らないのだけど、一応は神寄せの義務?を果たした事になると思う。そのはずだ。そうとしか言えない。頼むから正しかったということにして欲しい。

正直その後暫くの間は、神様からダメ出しを喰らって天罰が下るのではないかと内心では落ち着かなかった。こういうところが気が小さいと言われる由縁なのだろう。そうは言っても怖いものは怖い。神様を畏れて何が悪いんだという話だ。…多分そういう事でもある。俺の性格がどうこうというだけではなく。


 夏休み明けの始業式には野々原がマッシュルールカットから短髪にイメージチェンジを遂げていた。そんな気はしていたが、素直にバスケ熱が再燃したと言う。邪魔だから切ったと笑っていた。ツーブロック程には短くないがイメージとしてはそれに近い。よく似合っているし、良いことだ。頭の回転が速い上に世間に慣れているから、何かあった時に機転を利かせるのは俺よりも野々原の方が上手い。世話になっている身としては応援したいところだ。高校生活をバスケ中心にしていくと言うのなら、邪魔をしない程度に話し掛けた方が良さそうだと少し考えた。まぁ大抵の場合は野々原から話し掛けてくるので、そんなに俺が気にする事でもないとは思う。話し好きなところも実は有り難い。

よくあるパターンと言えばそうなのだろうが、高校生になって初めての夏休みには変わろうとする人間が多いのは本当らしい。他にも堀井京(ほりいみやこ)が髪の毛の一部に白っぽくメッシュを入れていた。コンタクトも作ったそうだ。とはいえ堀井が眼鏡を掛けているのは授業中くらいしか知らない。この話をしていた時も別に何時もと変わらなかったから何と言ったらいいものか分からず、"へぇ。"と言っておいた。意外ではある。頭が良い割に感覚は庶民的というか、俗っぽい奴だったらしい。わざわざ自慢しに見せに来たのかと怪訝に思ったら、そうではなかった。まぁそうだろう。堀井の方から話し掛けてくる内容の殆どは周囲で話題になっている物事や注目すべき新情報に限られる。大した用も無いのにアイツが無駄な労力を払うはずがない。

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