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拒否反応


 当たり前といえば当たり前だが、俺の関知しないところでいつの間にか変わりゆく物事は森川の家だけで起こるのではなかった。夏休み中のバイトで一度だけ会った六堂は、理由はよく分からないが変に愛想が良かった。休み中で何かから開放された気分だったのか、今後の事を考えて態度を変えてきたのか。この二択なら迷わず後者だ。まだ解ったような事を言える程には知らないが、恐らく六堂は気分で行動するようなタイプではない。それにしても受ける此方のことなど完全に無視した暴投みたいなものである。一方的な変化で怖いくらいだ。変化といえば、こだわりがあると言う髪の色を前よりも明るい茶色に変えていた。俺の想像などまるで外れていて、思い通りの髪色にして貰えて機嫌が良かったとか、そういう可愛いだけのキャラなら平和なんだけど、どうだろう…。

実は元々染めていたらしいのだが俺は全く気が付かなかった。高校に入学してから髪色を変えたと本人から聞いたので改めて中学校の頃の記憶を辿ったものの、六堂の地毛の色など正確に覚えているわけもない。確かにちょっと赤っぽいなとは思っていた。それでもそういう髪質なのだろうと勝手に判断して疑わなかった。普通にありそうな焦げ茶色だったのだ。不自然でなければ意外と記憶なんて簡単に上塗りされてしまうものなのかもしれない。そう考えると自分のいい加減さが少し怖い、というか不味い様な気がしてきた。連盟関係の出来事でもそうだったが、高校に入ってから、自分はもっとしっかりしないといけないのかなと思う機会が確実に増えてきた。真面目に考えんとアカンのか…と、変化の必要性を感じたところで目が醒めて我に返った。

 思い切り息を吸い込んで吐くと、身体を起こしてソファに座り直す。しかしまた頭が傾いてきたので肘掛けに置いた右腕で支えた。居間の広い窓から見えるのは既に真っ暗になった外の景色だ。ガラスに反射して映る顔色の悪い自分の背景に目を凝らせば薄闇と庭の黒い木々が見える。照明で明るい部屋の中は外からは丸見えになるが、カーテンを閉めるのも面倒臭い。どうせ此処には自分しかいないし、居間にはソファとテーブルとテレビしか置かれていない。庭があるから道路から家の中はよく見えない。

 …ああ…最悪…。

髪色なんかはどうでもいいけれど、どうでも良くない事に、ついに神寄せ信仰集団から集会への招待を受けてしまった。ウチの祖母ちゃんが所属するオバちゃんネットワークを経由して引き受けた話らしいのだが、祖母ちゃんは一応これは勧誘ではないと説明していて何故か神寄せ信仰に同情的だ。本当に何考えてるんだか解らない。

集団の名前は正しくは"神々の真名(かみがみのまな)"という。文吾町民ならば一度は聞いたことがあるであろう名称なのだが、正直あまり口にしたく無い名前だ。神寄せの信仰自体は特に何とも思わないけれど、それを信じる人達が集団を成して画一的な思想を元に行動しているとなると、いかにもアレな方向に傾いた宗教団体という感じがしてゾッとする。統一感のある人格や思想に拒否反応が起こるのだ。其れが不自然だからというのと、其れが上意下達の結果なのかと勘繰ってしまうからである。文吾町の住人は大なり小なり、ソフトな形でそういう社会を知っている。そしてその社会に埋もれた人間性には痛ましいというか、何とも言えない気持ちになるのだ。

勿論自ら信者になることを選んだ人達も居るのだろうけれど、六堂の様な二世三世が多いのはどうやら本当だ。宗教団体としての名前が表す様に、また六堂が神寄せそのものに敬意も何も払わない様子からも、その中心は神寄せではなく別の何者かに成り代わった集団のようである。逆に言うと神寄せは…例えるなら人形みたいな飾り物なのではないかと想像している。CMに出ているタレントとか看板背負ってるイメージキャラクターとか、そういう感じに近いからこそ特に何も絡んでこないのではないだろうか。むしろ俺が本物の神寄せであることは面倒なのかもしれない。曾祖父ちゃんとは考え方が合っていたようだけれど、俺は祖父ちゃん曰く"俺(祖父ちゃん)の側"の人間という認識の筈だ。だとすれば面倒臭いのは此方も同じ、というか此方には面倒でしかないので無理に呼ぼうとしなくてもいいんじゃないかと思う。俺の方から提案したら、もういいですと断わられたりはしないだろうか。それがいい。何とかして断わられよう。

 神寄せ信仰を元にしているということで、一応は日本古来の文化を推しているらしく、秋の収穫祭と新年行事、そして節分が大きな集まりであるという。その三回だけは顔を出して欲しいと祖母ちゃんを通して伝えてきた。よく考えたら不思議でも何でも無く、ウチの祖母ちゃんのノリが軽くて人が良すぎるだけかもしれない。相手は宗教団体なのだから何も考えていないのなら正直たちが悪いとしか思えない。俺個人で勝手に動いて良いものかも解らなくて一応母さんにも相談したのだが、祖母ちゃんが俺に直接話をした事にまた静かにキレていた。これぞ我が松尾家一族。周りがどれだけ変化しようとも相変わらずだ。

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