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飼い猫


 週の始めの月曜には週末にうっかり買い忘れた物があったことに学校で気が付いて嫌になる日が偶にある。忘れ物は厳しい現実を教えてくれる代りに自分を凹ませる。大体は何時ものコンビニで間に合う物ばかりだから、今度こそ忘れないうちにと下校途中に買いに行くのだけど、昨日来たばかりの俺としてはどうしてあの時に思い出さなかったのかと今更ながらにかなり悔しい。

もうすぐ午後の六時になるこの時間帯には部活を終えた学生達も帰路につき、就業時間を終えた社会人も入り混じってコンビニの周りは人の動きが忙しくなる。薄く夕暮れの色を纏った空も建物も人も、明るい日射しを浴びている時より不思議と繊細に静かに感じられて絵画と現実の境目に立っているかのようだ。生身の安定を欠いた気分と大した用でもないのに再びここに来る羽目になった残念な状況に辟易しつつ口を一文字に結んで溜め息をついた。買わなければいけない物が消しゴム一個であることが面倒臭さを倍加させる。わざわざ忙しない時間にそれだけの為に店に入るのがまず面倒だ。

駐車場には自分よりも先に二台の自転車が停めてあった。ガラスで仕切られた店内には、商品棚に向かって横並びで話をしている女子達の後ろ姿が見える。そのうちの一人に見覚えがあった。

毎日のように見る顔でも場所が変わると意味も違う。堀井京(ほりいみやこ)を学校の敷地の外で見かけたのは実は相当久しぶりの事だ。同じ学校に通っていても、朝の登校時にさえ見ることは殆ど無かった。これは単に堀井が所属していているブラスバンド部の朝練がバトミントン部より二十分も早く開始されるから確率が大きく落ちるのだが、途中で自由に動き回れる帰宅時の方が鉢合わせる可能性は低いように思う。寄り道が重なるのは珍しい偶然だ。


「お〜、松尾じゃん。

 今丁度話してたとこ。凄い偶然!」


「へぇ〜。」

店内に入るなり気付かれた。見慣れた坂島西校の女子の制服は紺色のセーラー服だ。坂島市の東西南北の高校では南と西がセーラー服を採用している。大雑把に、色が濃いのが西校。濃紺であるか藍色であるかが分かりやすい違いだ。二人の女子の共通項はセーラー服であることと、制服のスカート丈を長めにしていることだった。

後ろ姿では分からなかった堀井の隣に居た女子は、南高の制服を着た水池だ。高校の制服は初めて見る。とはいえ文吾中学校も女子の制服は黒のセーラー服だったので、服の色が薄くなったなと思うだけで特段変わった印象も無い。


「あはは。ごめんな、土曜日。」


「や、別に…。」

済まなそうに笑う水池を見ながら、頭の中にはまた留奈さんの影がチラつく。あり得るものなのか、こんな偶然。てかなんで何時もこのコンビニなんだ。やっぱり田端んちを贔屓してるのか、あの御狐様…。


「買い物?」


「そらそうやろ。消しゴム買いに来た。」

堀井が明るく気軽に話す感じが少し懐かしい。妙にテンションも高くて、普段の俺との会話がいかにテンションの上がらないものであるかがハッキリと分かる。分かりやすい奴だ。

「話してたって、何の?」


「松尾んちの近くまで行ったら、

 飼ってる猫がめっちゃ大人しくなったって。」


「本当に。元気が無いのかと思ったけど、

 かまうと凄く遊ぶし…。

 なんか前は神経質やったんやけど…。」


水池が堀井の話を補足した。

「なにそれ…。」

飼い猫ということは、あのトラ猫だろうか。家に取り憑いている蛇の存在にピリピリしていたということか?

「…光ってるものを見たって言っとったやろ?

 あれ結局どうなったんやっけ?」


「あ、あの光?消えた…かな。」


「消えた?」


「前からそうなんやけど、急に見えんくなる。

 でも、変な消え方した。最後だけ明るくなって。

 …何か気になった?」


「いや。…森川は何か言ってた?」


「え?別に話してない。こんな事…。

 あ、そうか!ごめん。適当なこと言って。

 本当はもっと前の、小学生の時の事でさ。

 その…森川がオカルト好きやから、

 私もって言ったら、おばさんが…、

 あ、髪のカットしてもらった時に、

 森川に話したら聞きたがるって言うから、

 話してみたことあって…その時に言ってたこと。」


「あ〜〜、分かった。理解した。

 森川のおばさんは私も知ってる。

 押しが強い。確かに。」


水池の独特な語りに堀井が合わせる。余計なお世話だろうけど、この二人は何時もこんな感じなのだろう。

「……そっか…。」

水池の話を聞けたことで取り敢えず俺の疑問は解消したことになる。…いや、何一つ解消はしていない気もするな。結局、光は何だったんだ?蛇で良かったのか?水池は俺の見る限り以前と何も変わらない。もしかしたらただ一匹、飼い猫だけが何かを知っているのかもしれない。

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