ちょっとだけ紡績機について知ってみないか?
異世界で現代知識を使って無双しちゃうぞ!
という作品はたくさんあるが、紡織を扱う作品は少ない。
機織り機の再現がせいぜいである。
あまり登場しない理由はわからないことが多いからだろうと思われる。
そこで今回、紡織の紡の方、紡績について少しだけ解説してみよう。
紡績というのは動物の毛や植物などの繊維から糸を紡ぐ事である。
産業革命で紡績が自動化されるまでは人力で行われ、それはそれは地道で大変な作業だった。
異世界作品で服が高価というのは布や糸の供給が追いつかないのが主な理由だ。
紡績機というのは繊維をねじって撚りをかけて糸にし、作った糸を巻きとる機械である。
機械と呼べる最初のものは手回し糸車だ。
大きな滑車を手で回し、糸巻きがついた小さな滑車に動力を伝えて高速回転させる。
糸に撚りをかける時は糸巻き棒に対して斜めに、巻き取る時は垂直にする。
斜めだと糸が滑って巻き取られないので糸に対してねじり回転が与えられるわけだ。
この糸巻き棒を斜めにしたり垂直にしたりするのを自動化したのが有名なミュール紡績機。
糸を撚る工程と巻き取る工程を別々にしたものだ。
これとは別の紡績機もある。
撚りをかけながら巻き取ればよくね?という発想で生まれたのが足踏み式の糸車だ。
足踏み式の糸車はボビンと呼ばれる糸巻きの周りをU字型のフライヤーが同軸上でぐるぐる回る。
フライヤーがぐるぐる回ることで糸に撚りをかけている。
しかしフライヤーとボビンが同じ速度で回っていると撚りはかかるが巻き取られないわけで、フライヤーとボビンに回転差をつけることで撚りをかけながら糸を巻き取ることを可能にした。
回転差の付け方は滑車に抵抗をつける、動力を伝える滑車の大きさに差をつける、あるいは糸にかかるテンションが抜けるとボビンだけ回転が遅くなり糸が巻き取られるなどいろいろな工夫が見られる。
人類賢い。
この回転差で糸を撚りながら巻き取っていくという考え方は現代の紡績機であるリング紡績機まで繋がっていく。
足踏み式の糸車の長所は両手がフリーになるので、手回し式よりも繊維の調整がやりやすく、品質も速度も足踏み式に軍配が上がる。
しかし、手回し糸車も足踏み糸車も糸の材料の繊維を「人の手でいい感じに送り出す」というアナログな手段をとっており、ここが機械化にはネックだった。
繊維の塊をいい感じに出していくという事は機械には難しいからだ。
明治の日本で開発されたガラ紡という重力を利用して繊維を引き出し撚りをかける自動紡績機はあるのだが、糸の品質にはムラがあった。(それでも画期的だった)
そこで結局、「撚りをかける前の段階(粗糸)の品質を一定にしよう」という事になった。
これがカーディング(梳綿)工程である。
繊維からゴミを取り除き、向きを整え、同じぐらいの密度の細長い塊にする。
あとは撚りをかけて糸にして巻き取るだけ、という状態にしたのだ。
この工程を経ることで、紡績の自動化が達成されることになったわけだ。
注意点として、現代のカード機は棘がいっぱい生えた大小のローラーを並べたようなものであり、
繊維の短いものと長いものでは同じ機械でカーディングを行うことはできない事は覚えておいてほしい。
繊維の短い木綿・獣毛と、繊維の長い亜麻・麻・苧麻を同じ機械で処理することはできないということだ。
これが紡績という産業の概要である。
基本的な流れは
繊維の収穫
↓
カーディング
↓
撚糸
という感じ。
それぞれの工程で機械化あるいは効率化を行うことで生産性が格段に上がる。
構造と原理がわかっていれば再現しやすい技術なので異世界で産業革命を起こしてもらいたい。
なお、動物性の繊維の場合は不織布にするという方向もあるが、今回は割愛する。
いかがだっただろうか。
私の説明が足りていない部分はYoutubeなどで動画を参照してほしいと思う。
カーディング機と足踏み糸車がキーになるが、ネジや歯車がなくても作れるものなので工業技術的影響はそこまで大きくないというのもポイントだ。一方で模倣しやすいという面もある。
そして、衣食住の一端を担う部分であり社会的影響と利益の額はまさにぶっ壊れなので、扱いは丁寧であるべきだと思われる。
個人でやるならコンパクトに、でっかくやるなら領地単位で、というのがオススメだ。
皆さんのネタの一助になることがあれば幸いです。