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今世の俺は長女だから  作者: ビーデシオン
「それぞれのプロローグ」
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99 ノエル・ハイマン


 部屋の中にアーネスとアクシーを迎えて、気まずい雰囲気の中私たちはテーブルを囲む。

 私個人としてはそこまで、この妖精さんに悪い印象は無いんだけど、お姉ちゃんたちはきっと違うだろう。


「いやあ、みんな元気そうで何よりだ」


 協力してもらった立場の私が言うのもなんだけど、こいつはとても嫌なヤツだ。

 それなりに性根のねじ曲がっている私が言うんだから間違いない。

 話を聞く限りお姉ちゃんのコイツに対する敵対心はマックスだし、アーネスだって良い感情は持っていないだろう。


「で、お前はなんでここに来たんだよ」


 ほらね。

 思った通り、アーネスはとても不機嫌そうにアクシーを詰めている。


「……なにさ! 君たちが今こうして顔を合わせて居られるのだって、言ってみれば僕のおかげだろう!?」


 言ってること自体は間違ってないんだけどね。

 アクシーの発言を受けた二人は、とても嫌そうな表情を浮かべつつ、黙り込んでいる。

 どうするのアクシーくん。

 君、日頃の行いというか、今までやってきた事が最悪過ぎて二人にめちゃくちゃ嫌われてそうだよ?


「なんだよぉ。僕はただ君たちみたいな子供たちの関係性が深まるのを後押ししただけじゃないかぁ」


 ずいぶんとわざとらしい、ねっとりした喋り方だなぁ。

 今にして思えば、あの治療院の壁の中で、なんとしてもお姉ちゃんに会いたいと思っていた私の前に現れたのだって、私たちの関係性を引っかけ回すためだったのかもしれない。

 そう思うと本当に悪い奴だなお前は。

 二次創作界隈の深部に生息する闇の関係性オタクみたいなことしやがって。


「ま、冗談はさておき」

「冗談だったんだ」


 人を不快にする冗談は嫌われるよって言いたいところだけど、コイツの場合むしろそれが目的な可能性すらあるから言わないでおく。

 関わりの薄い私が何か言うより、他のお三方に話してもらったほうがまだ有意義だろうし……


 なんて思っていたら突然、空中浮遊する妖精の右手が、私のことを真っ直ぐ指差した。


「今日は君に用があるんだ」


 え、私? それは困ったな。

 私はあなたみたいな性根が重度の捻転骨折を引き起こしているようなやつより、お姉ちゃんみたいな素直な子が好みなんだけど。


「そう。君だよノエル・ハイマン」

「は、はい」

「君のご両親が、君と直接話したいらしくてね」

「え……?」


 私のご両親……というと、もちろんミナとダイアーのことだろうけど。

 彼らはココット村にいるはずじゃ?

 なんて疑問を抱いていた私に、彼は即座に答えてきた。


「僕とリーラントの力を使えば、夢の世界で君たちを引き合わせることができるけど……君はどうしたい?」


◆◇◆◇◆



 この世界における妖精というものは、なかなかややこしい存在であるようで。

 夏の妖精や春の妖精といった区分けはされているものの、彼らの力にはところどころ被る部分もあるらしい。

 そのうちの一つが、生きとし生けるものに幻想を見せる力。

 もっと踏み込んで言えば、夢を見せる力なのだそうだ。


「ここが……」


 目を開くと、私たちは真っ白な空間にいた。

 目の前には大きなダイニングテーブルがあって、椅子はこちら側に3つ。

 向こう型には2つ用意されており、それぞれの席に腰掛ける人物が一人ずつ。

 そしてもう一度言うが、椅子は合計で5つあるのだ。


「なあ俺、本当にここに居ていいのか?」

「……俺とアーネスも連れてこないと、二人に合わせないって言うんだから、しょうがないんじゃないかな」


 困惑するアーネス。珍しく自分のことを「俺」というお姉ちゃん。

 それを見て目を丸くする対面のダイアー。何かを察したような表情のミナ。

 そう、アクシーはなんと憎たらしいことに彼ら二人を同席させることを条件に、私と両親の対談を許可したのだ。


「アクシーめ……なんてことを」


 もちろん、彼の意図することが分からないなんてことはない。

 彼らが同席する以上、私たちはある致命的な問題に直面することになってしまうのだ。


「えっと……ノエル。でいいのかしら」

「……はい。お母さん」


 対面のミナも気付いたようだ。


「あなたのことを……話しても大丈夫?」


 そう、それは前世の存在。

 私の存在について、腹を割って話すためには、前世のことに触れざるを得ない。

 私の前世については話しても問題はないはずだが、前世の私と強い関わりを持っていた、お姉ちゃんは違う。


 私の知る限り、お姉ちゃんは自分の前世について、アーネスには明かしていないはず。

 アーネスは、お姉ちゃんの前世が男であることを知らないはずなのだ。


「……ええ。だけど、私のことだけにしておきましょう」


 あの妖精は、私たちの関係性を致命的に変えかねないリスクを背負わせた上で、私たちの対談を許可した。

 つまり私たちは、出来るだけお姉ちゃんの存在に触れないよう、話し合わなければならないわけだ。


「……闇の関係性オタクめ」


 思いを心に秘められず、私はぼそりと呟いてしまう。

 私が新たな人生の一歩を踏み出すためには、両親と話し合うことが必須である。

 そのはずなのに。

 思いの丈をさらけ出すことが、必須であるはずなのに。

 お姉ちゃんのことを思うと、うまく話せそうにない。

 彼についての全てを伏せて、うまく話せる自信がない。

 

「その前にアーネス。一つ聞いてくれ」


 ……そのはずだったのに。

 私が黙り込んでいる間に、お姉ちゃんが動いた。



「俺には前世の記憶がある。そして、前世の俺は男だったんだ」



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