表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今世の俺は長女だから  作者: ビーデシオン
終章「          」
94/105

94 私はもう悪役にしかなれない


 それからのことは酷く曖昧で、ほとんど記憶にないけれど。

 多分、どこか知らない空間に出て、私は死んでしまったんだと思う。

 どれくらいか分からないけれど、私はかなり長い間眠っていたのかな。


 暗い、暗い闇の中で一人。

 あらゆる感覚が曖昧なまま過ごしてたら……

 ふと、目の前に光が差し込んだんだ。


 暖色系っていうのかな。

 キャンプファイヤーの炎みたいな、暖かい光だったのを覚えてる。

 私、ずっと暗闇の中にいたからさ。

 その光を見た瞬間、掴まなきゃって、思ったんだ。

 

 光に向けて思い切り左手を伸ばしたら、何かが私の指先に触れて。

 小さくて細いその何かを、私は思い切り掴んで手繰り寄せた。

 私が強く引いても、それはなかなかこっちに来てくれなくて。

 このままじゃ逃げられちゃうって、そう思った。


 だから私は、右手を使った。


 光るそれをできるだけ引き寄せて、もう片方の手を振り下ろした。

 何回か空振りしたみたいだったけど、そのあと強い手ごたえを感じた。

 同時に、目の前の光が、一層強くなったように思えて。

 これで正解なんだって、そう思った。


 だから私は何度も振り下ろした。

 その度に目の前の光が大きくなって、私の目の前に広がっていった。

 何度も何度も振り下ろしていたら、何かが私の口先に触れて。


 その瞬間、少しだけ意識がはっきりして。


「ノエルッ!!!」



 そんな叫び声が聞こえた直後に、私の中で何かが弾けたんだ。


◆◇◆◇◆



「ずっと会いたかったよ。あなたを探して、異世界にまで来たんだから」


 レーダ・ハイマンがあなたなんだって、確信するのには随分時間がかかったよ。

 何せ、意識を取り戻した直後に私、ノエルじゃないってばれちゃったから。

 異世界語が理解できてしまうことに混乱して、あれこれミナに尋ねたら、彼女はあからさまに絶望した顔をして、私に対して心を閉ざしたんだ。


「憑依って言うのかな。私はノエルでもあるけど、彼女の人格はもう私の中には無いの」


 そりゃあ憑依した直後の頃は、二人分入り混じったような状態だったさ。

 赤坂アオイの方が強すぎて、いつの間にか彼女は姿を現さなくなったけど。

 私だってできるなら、彼女には消えてほしくなかったさ。

 憑依してからしばらくは、ノエルとして振る舞うことも考えたさ。

 それでも私の中の彼女はどんどんどんどん薄れて行って、私だけがハイマン家の家族じゃないって、受け入れなきゃいけない時が来たんだよ。


「あなたは随分馴染んだみたいだけど、私はこっちに馴染めなかった」


 あなたはきっとうまくやったんだろうね。

 実の母親からの信頼も厚ければ、父親からも溺愛されてる。

 7歳で離れた場所に住むって言っても許可が出るくらい、信頼だってされてるんだろう。


「知ってる? 私、あなたが今までどこに行ってたのかも知らなかったんだよ? あなたが王都に住もうとしてたってことも、教えてもらえなかったんだよ?」


 あなたはさっき「王都に連れて行けなかったのは」って言いかけたよね?

 きっとあなたとアーネスは、一緒に王都に住もうとしてたんだよね?

 私はそんなこと、何一つ知らずにいたのに。

 ミナとダイアーは私を治療院に預けて、家族水入らずで王都へ出かけた。

 村が襲撃を受けている間、私は一人で壁の中にいたのに……!


「わかってるよ、私が悪いってことくらい。自業自得だってことくらい……!」


 前世で犯した罪に比べれば、今世での仕打ちなんて大したことないって……

 私があなたにしたことに比べれば、こんな仕打ちも当たり前だって……


「でもさ。私だって頑張ったじゃん! 3年と、こっちに来てからもう5年だよ!? 8年探し続けたんだから、そろそろ報われてもいいじゃん!!」


 道理とか対価とか、贖罪とか恩讐とか、因果応報とかどうでもいいけどさ……

 私はもう悪役にしかなれないってことくらい、本当はわかりきってるけどさ……!


「私だって……!」


 これだけ頑張ったんだから、せめてこれくらい言う権利あるでしょ……!?



「私だって、あなたと幸せになりたかった!!!」








 …………。


 アーネスとあなたのこと、浜辺の外からずっと見てたんだ。

 随分お似合いに見えたさ。

 認めるよ。きっとあなたたちなら幸せになれるだろうって思った。


「……どの口がって、感じかな? 私のこと、責めたいかな? それとも殴り飛ばしたい?」


 息を吐き、あなたを見据える。

 あなたは何も答えてくれない。

 ただ少しだけ俯いて、拳を握りしめて目を合わせてくれない。


「酷いことたくさん言い返したいかな!? それとも酷いことしたいかな!?」


 これだけぶちまけたんだ。

 あなたにはその権利がある。

 私を思い切り殴り飛ばして、言葉でボロボロにする権利がある。


「さあ答えてよ!」


 私は大きく腕を開いて、目を見開いてあなたに問う。

 包丁を向けてちゃ、消極的な答えしか帰って来ないと思ったから。


 拒絶されるならそれでもよかった。

 いっその事、今すぐあなたが逃げ出してくれたら全てを終えられるはずだった。


「答えてよッ!! お姉ちゃん(・・・・・)!!」



 赤坂アオイとノエル・ハイマン。

 この手に握った包丁で、二人の私を終わらせられるはずだった。





「……ぇ?」






 はずだったのに。






「ごめん」






 ……あなたは大きく踏み込んだ。

 あなたがそうしなければ、私は人生を呪えたはずなのに。


「……どうして」


 あなたはどうしてそんなにも強く、私のことを抱きしめるの?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ