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今世の俺は長女だから  作者: ビーデシオン
終章「          」
93/105

93 死んでもあなたを連れ戻す


 その日から私、必死に探し始めたんだよ?


 あなたが居なくなってすぐに、マンションには警察が詰めかけたんだ。

 理由は「女子高生が一人、行方不明になった」から。

 あなたを探して来たわけじゃなかったけど、私が証言したらあなたのことも一緒に探してくれることになったんだ。


 行方不明になった女子高生は上の階の住民だったみたいで、その子の父親と一緒に聞き込みして回った。

 数日の間にマンションの住民全員に当たったし、会社のプリンターでビラを刷って駅前で配って回った。

 警察の人たちには煙たがられたけど、そのうち協力してくれるようになったよ。


 その結果得られたのは、どうやらあの雷雨の日、あなたがベランダから身を乗り出して、女子高生を助けようとしてたらしいってこと。


 もちろん、警察の方で対策本部が組まれてからは私たち、あまり大きな動きはできなくなったけど。

 その時だけは、私も大きな意義のために動けてる気がして、少しだけ楽しかったな。


 それでも。

 あなたが消えてから三年経っても、事件の真相は掴めなかった。


 別に、警察の人たちを貶す気はないけどさ。

 そのうち、あなたが例の女子高生を誘拐したんじゃないかなんて言われたら、私だって我慢できなくなったんだよ。

 こっちはできる限り協力してきたのに、どうしてそんなこと言うんだって思った。

 思うだけじゃなく、思いの丈をぶちまけた。

 暴力には訴えなかったけど、できるだけ強い言葉で糾弾して……

 それで……


 協力してくれてた女子高生のお父さんとも仲違いして、私はまた一人になった。


 諦めるって選択肢が、頭に浮かばなかったわけじゃないけど。

 残念ながら私には、あなたを探せるだけの気力がまだ残ってた。

 あなたを養っていくために、無駄に良いところに就職したせいで、お金だってあった。

 なにより一人でだってあなたを探せる、確信があった。


 だから私はまた駅前での声掛けからやり直してやるつもりだったんだ。

 会社の人たちも流石に事情を察してくれて、またビラを刷り直すことを許可してくれたし。

 皮肉なことだけど、私があなたを探し始めたおかげで……

 入社直後は最悪に思えた職場が、嘘みたいに居心地良くなったんだ。


 そんな、ある日のこと。

 私は職場の事務員さんから、ある重要な証言を手に入れた。


「あなたと一緒に動いてた例のお父さん、こないだ別部署で見かけたわよ」


 そこで初めて私はあの人と同じ会社で働いて居たことを知った。

 事務員さんに名簿を見せてもらったら、確かにあの人の名前があった。

 だとすれば、明らかにおかしなことが一つあったんだ。


 あなたが消えたあの雷雨の日。

 うちの職場は休業日で、会社ごと閉まっているはずだったから。

 あの雷雨の中、どこかに出かけたりしていない限り、あの人は自宅に居たはずなんだ。


 そう確信した瞬間、私はあの人について徹底的に調べた。

 いわゆるシングルファーザーで、女子高生の娘が一人。

 数年前に自分の妻に蒸発されている。

 そこまでは今までの調査で知っていた。


 でも、詳しく調べて見れば、分かったんだ。

 あの人の妻は、実家に帰ったり、夜逃げをしたわけじゃない。

 彼女もまた行方不明になっていたんだ。


 あなたが消えたあの日みたいな、酷い雷雨の白昼に。

 女子高生の母親は、忽然と姿を消していた。


 確か、その日も酷い雷雨だった。 

 対策本部が解消され、私のマンションに警察の姿はなかった。

 有休も使わずに会社を休んで、私は一つ上の階を尋ねた。

 その日は会社の営業日だったはずだけど、何故かあの人が……


 ソイツ(・・・)がそこにいると確信していたから。

 私は袖の中に包丁を握りしめて、インターホンを鳴らした。


 当然のようにドアが開いて、私を見たソイツは気持ち悪いくらい親しげに私を招き入れてきたから。

 下の階と全く同じ構造の、ベランダ前。

 居間の中心で、私は仕掛けた。


「あなたが知っていることを全部話して。さもないとあなたを殺すから」


 ねえ。

 もしあなたがまだ元の世界に居たら、私のことを止めてくれたかな。

 自分の感情を抑え込めず、短絡的な手段に出た私を止めてくれたかな。


「――――♪♬」


 私に包丁を向けられたソイツが、突然鼻歌を歌い始めたのを見て。

 危ないって叫んでくれたかな。


 私はね。

 目の前のソイツが何をしてきても、全てを吐かせるつもりでいた。

 例えソイツを殺すことになっても、あなたを連れ戻すつもりでいた。

 例え私は死ぬことになっても、あなただけは助けるつもりでいた。


 それでもやっぱり、私は……

 事を急ぎ過ぎて、しまったんだろうね。


 奴が何かを歌い終えた瞬間、目の前が強い光で満たされて――

 私の意識は光に飲み込まれてしまった。



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