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今世の俺は長女だから  作者: ビーデシオン
第五章「焼き付く記憶の真っ最中」
83/105

83 爆炎のように

今回、最後の部分にショッキングな描写が含まれます。

苦手な方はご注意ください。



「レーダちゃん! アーネスくん!」


 支柱の折れた幌に覆われたところで、進行方向から声が聞こえた。

 中性的ながらも切羽詰まった、ミモレさんの叫び声だ。


「俺は無事です! レーダも、すぐそばに居ます!」


 すぐそばに伏せていたアーネスが、俺の代わりに叫んでくれる。

 俺も、同じように叫んで大人の人を呼ばないと。

 そう思っているのに、声が出ない。


「か……は……」


 ただ、うまく息が吸い込めないんだ。

 灰に空気が入らない。

 何かが、酷くつっかえてしまっているみたいに。


 脇腹に、何かが刺さってしまっているみたいに。


「レーダ? おい、レーダ!!」


 ゴソゴソと音を立てながら、何かが這いずってくる音が聞こえる。

 覆いかぶさった布の中を、アーネスがかき分けて進んできているんだ。


「アー……ネス……」


 でも、ダメだ。

 お前はこっちに来ちゃいけない。

 例え、俺が一人で動けなくても、こっちに来ちゃいけないんだ。


「私は……大丈夫。早く、外に出て、ミモレさんを呼んで」

「どうしたんだ! 何があった! 言え!」


 はは、流石に誤魔化せないか。

 そうだよな。自分で言うのもなんだけど、下手な演技だ。

 背中に燃えるような激痛がある状態じゃ、うまく騙せそうにない。


 いや「燃えるような」という言い方は正しくないな。


「二人とも! 馬車が燃え始めています! 出られるなら早く出てください!」


 実際に、馬車は燃えている。


 火元はおそらく、俺のすぐ後ろの方だ。

 進行方向にミモレさんがいて、その後ろにアーネスがいて、俺を挟んで、さらに後ろ。

 うつ伏せになった俺の、すぐ足元が燃えている。


「言う通りだ! こっちに来るなアーネス……!」

「馬鹿言うな! お前が出てくるのが先だ!」


 ああ、そうだろうな。

 お前ならそう言うと思っていた。


 でも、アーネス。

 お前は知らないだろうけど、俺には隠し玉がある。

 だけど、これで助かるのは俺一人だ。

 お前は、今すぐ出なきゃいけない。

 だから……!


「がああああっ!」


 気合を入れて息を吸い込む!

 一言言えれば、それでいい……!


「私は、一人で出られます! ミモレさんは、アーネスを!!」


 脳の血管が切れそうなほどの力を込めて叫んだせいか、音がうまく聞こえなくなった。

 気のせいでなければ、前から酷い声量で怒鳴られているような気がする。

 そう思って視界を向けたら、背後から照らされているせいか、シルエットが見えた。

 長身の人影に、子ども大の人影が抱えられる様が。


 これで、アーネスは確実に助かる。

 これでいい……あとは……!


「うがあああっ!!」


 気合を入れて、背中に刺さった何かを引き抜く。

 べちゃりと嫌な感触が伝わって、背中と腕がどんどん濡れていく。

 でも、これさえどうにかなればいい。

 感覚がどんどん麻痺してきたおかげで、余計に力を込められる……!


「――――――」


 ずるりという感触を最後に、大きな耳鳴り。

 何も聞こえなくなって、視界が真っ赤に染まり始める。

 端の方は、もはや黒くなり始めている。

 きっと、血もたくさん出ているだろう。

 でも、意識を失う前にやらなきゃいけないことはもう一つある。


――葉は落ち脈打ち地に芽吹き


 もはや、自分の声も聞こえない。

 だから記憶の中のその声を頼りに、口から息を吐き続ける。

 音程が取れているかどうかはわからない。

 抑揚も足りているかわからない。

 それでもきっとうまくいくと、信じてその声をなぞり続ける。


――巡りを経たらもう一度


 それはダイアーの声。

 俺の大切な父親が、俺に刻んでくれた歌。

 彼が俺に刻んだ印。

 ダイアーは、人に使うものじゃないと言っていたけど、きっと許してくれるだろう。

 あの騒動のあと、なんのこともなく、軽い気持ちで残した印が……


 今も残っていることを信じて、俺はその歌を締めくくる。



「萌芽の再演」



 瞬間、鋭く、膨れ上がった痛みが、全身を駆け抜けて――



「あ」



 痛い、熱い、焼けるように痛い。

 いや、耐えなきゃいけない、が。

 ダメだ、無理だ、耐えられそうにない。

 痛い、信じられない、痛い、どうして、熱い。

 知ってたはずだ、いや、だって、ああ、痛い。

 痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い熱い痛い痛い痛い!!


――耐えられない!


 あああ、痛い!!痛い!覚悟して、た、はずなのに痛い!!!!

 信じられないほど熱い!

 全身が、裏返って、ねじ曲がってるみたいに痛い!!!!!

 焼けてるわけじゃないのに熱い!

 今、す、ぐ、に、意識を、失いたい、のに、できない!!!

 脳が焼け付く、焼き付く暇から、治される!


――死にたくない!


 今、俺は、どうなっているんだ!!

 どうして、俺は、こんなに、ああ!!!痛いんだ!!!

 クソッあああ!!! がああ! 死にたくない!!

 がああ、ああ!! どうして、どうして、どうして!!!!

 何が起こってるんだ!!!!


――誰かッ!!!


 アーネス!ミナ!ミモレさん!おばあちゃん!アクシー!リーラント!

 誰でもいい!!!

 俺をどうにか、してくれ!!!

 あああああああああっッ!!!


「助けてくれ! ダイアー(パパ)!!!」

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