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今世の俺は長女だから  作者: ビーデシオン
第五章「焼き付く記憶の真っ最中」
82/105

82 焼き付く記憶の真っ最中

2025/02/23

最後に加筆したため、タイトルを変えて再投稿しました。



 ひとまず俺たちは身支度を終え、ココット村へ向かう馬車に載せてもらうことができた。

 ミシュガン商会として、いくらか護衛の人を雇えているらしく、随分と物々しい武具を身につけた人々の姿が、馬車の窓から見える。


「この馬車……王都に来るのに使ったやつだな」

「え……あ、本当だ」


 そういえば、周りの幌馬車と違って、この馬車には窓がある。

 内装だって、行きの時と一緒だ。

 考えごとをしていたせいか、それとも辺りが薄暗かったせいか、外から見れば信じられないほど豪華な馬車だっていうのに、全く気が付いていなかった。


「馬車酔いは大丈夫か?」

「うん……」


 これからどうなるかは分からないが、今のところは大丈夫そうだ。

 相変わらず、アーネスは細かい気遣いができるやつだな。

 隣にに彼がいるだけで寂しさは随分とマシになる。

 それでも……やっぱり思ってしまうのは。


「行きに比べて、随分広く感じるね」

「そりゃあ、向かいに誰も乗ってないからな」


 言われて見れば、行きの時は向かいの席に両親の姿があったんだよな。

 確か、あの時も馬車が苦手だったねとか、酔い止めの薬飴があるとか、そんな話題を振られて居た気がする。

 傍から見て、そんなに心配に見えるかな。俺。


 ……見えるんだろうな。

 俺の周りの人たちは優しいから、俺を危険な目に合わせないよう、随分と配慮してくれている気がする。

 そりゃ、まだ幼い女の子だからっていうのもあるだろうけど……多分それだけじゃないんだろう。


 俺だって、傍から自分を見たら、弱そうなやつだと思うもんな。

 吹いたら飛びそうって言うか、つらいことがあったら、一人じゃ立ち直れなさそうって思うもんな。


 ……足手まとい、という言葉が頭に浮かんだ。


「なあ、レーダ」


 瞬間、隣から声をかけられた。


「ついてきてくれて、ありがとう」

「え」


 なんだ? いきなりどうしたんだ。

 まさかお前、また気を遣ってくれているのか?

 いや、いくら気遣いができるって言っても、心の中を覗くなんてこと……


「不安だったんだ。よるがみ……ってやつが、俺を探してるって聞いた時」

「……そうなの?」

「当たり前だ。だって、吸血鬼たちの……神様だぞ?」


 あれ、アーネスが吸血衝動に襲われてるのって、夜神が関わってるんだっけ。

 詳しく聞いたことは、なかったはずだけど。


「初めて会った時、妖精神様の聖印を怖がってただろ、俺」

「あの、輪っかの集まったようなやつ?」

「そう。今はもう大丈夫だけど、怖がってたころの俺は、夜神に目を付けられてたらしい」

「そう……なの?」


 そっか。村で一緒に過ごしてたって言っても、いつもべったりじゃなかったもんな。

 俺の知らないところで、いろいろあってもおかしくないか。

 アーネスは、自分の身体のことを抱えながら、それでも乗り越えて生きてるんだよな。


「すごいね。アーネスは」

「すごくないだろ。夜神の祝福とかいうのを乗り越えられたのだって、リーラントのおかげだし、俺とリーラントとの関わりをくれたのは、紛れもなく、レーダだろ」

「そう……なのかな」


 俺は、リーラントがどう対処して、アーネスがどうなったのかわかっていないし、アーネスの身体について、真剣に考えていたわけでもない。

 そりゃあ、吸血衝動は満たしてあげられていただろうけど、それだって、友達で居てくれる交換条件みたいなもので……


「あのな、レーダ」

「むぅ」


 アーネスが突然、俺のほっぺたに手を添えてきた。

 俯いていた視界が無理やり持ち上げられて、否応なしに彼と目が合う。

 随分と……真っ直ぐな目で、アーネスは俺を見てくれている。


「自分に向けられた感謝くらい、素直に受け取れ」


 それは、少しの厳しさを含んだ声色。

 あるいは、怒りともまた違う、仕方のないやつを見るような目。

 俺に、真正面から向き合ってくれている目だった。


「俺も、リーラントも、ダイアーさんも、ミナさんも、ノエルは……知らないけど、きっと商会の人たちだって、お前といて楽しかったはずだ」

「そこまでのことは……」

「あるんだよ。なんでそんなに疑う? お前を見たミモレさんとか、おじいちゃんおばあちゃんの反応はどうだった? 商会に入った時の歓声は何だ? それ以前に、村の人たちはお前のことを嫌っていたか?」

「…………」

「俺は嫌われてた。そこにいるだけで、生きているだけでみんなを不幸な気持ちにした。でも、お前はそうじゃない」


 それは、俺が周りに恵まれてるだけじゃないのか。周りが、俺を好きで居てくれるから、気分を良くしていられただけじゃないのか。


 そんな言葉を吐きそうになって、ふと、一つ思った。


 いったい何の理由があって、俺は彼の言葉を否定しているのだろうかと。こんなにも真っ直ぐに俺を見てくれる相手を、貶めようとしているのだろうかと。


「お前が関わってくれるまで、俺は不幸のド真ん中にいた。もちろん、俺自身も巻き込んで。でも、お前が会いに来てくれたおかげで、俺は幸せに生きられてる。お前がそこにいるだけで、俺は強く生きられる」

「…………アーネスは、今、幸せなの?」


 もはや、聞きたいことは、それだけだった。

 ココット村が燃えて、真実を知って、今から死地に向かうような真似をしている中で、それでも君はいいのかと。


 半ば、誘導尋問のようになってしまっても、どうしても。

 今、聞きたい言葉があった。

 面倒くさいかもしれないけれど、彼に言ってほしかった。


「おかげで、幸せだ。お前が居れば、俺は何も怖くない」

「……ああ」


 ああ。アーネス。

 本当に、本当に、お前は……俺の……


「全隊、馬車を止めろーっ!!」


 必死に堪えていた涙の粒が、突然訪れた衝撃でこぼれ落ちる。

 先ほどまで床だと思っていた場所が横を向いて、幌の中に身体が飛び込む。

 馬車が横転したんだ。

 そう理解した直後、目の前に明るい何かが飛び込んでくる。


 ――火の粉だ。


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