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今世の俺は長女だから  作者: ビーデシオン
第五章「焼き付く記憶の真っ最中」
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80 夜神の軍勢

2025/02/25 変更点

第81話「夜神の軍勢」と第82話「神話」を本エピソードに統合しました


 妖精の口から発されたのは、思ったよりもピンと来ないセリフだった。

 夜神っていうと……どこかで聞いたことあるような、ないような。

 とりあえず日神は覚えてるんだよな、カップ麺みたいな名前のやつ。

 あと黎明神と……もちろん妖精神も覚えてる。ひょっとして、夜神っていうのもあのネルレイラ王みたいな個人の名称なのかな?


「夜神……が……」


 なんて、のんきに考えていたら、隣のミモレさんが切羽詰まったような声を上げたのに気が付いた。


「レーダ様。私の代わりに、我が主にご報告願います」

「え?」

「私は彼から、詳しいことを聞き出します。今彼が言った通りの事を、そのまま伝えてくれればそれでいいので」

「わ、わかりました……」


 確かに、俺がここに残るよりも、ミモレさんに見張っておいてもらった方が良さそうだけど、それでいいんだろうか。

 とりあえず、アーネスにも聞いてみるか。


「アーネスは」

「レーダ。ミモレさんの言う通りにしてくれ」

「え、っと、わかった」


 随分と神妙で、淡々とした声色だ。

 何が起こっているのかわからないが、事態は深刻であるらしい。


◆◇◆◇◆


「なるほど、有益な情報です」


 俺の報告を聞いたエルーンおばあちゃんは、妖精からの聞き取りに同行させてほしいと言ってくれた。俺としても断る理由はないので、おばあちゃんを連れて部屋に戻る。


「つまり、アーネスがココット村に現れない限り、村への襲撃は終わらないと?」

「そういうことになるね」


 アーネスが着換えを終え、妖精改め、アクシーから伝えられた話を要約すると、突如として東の海に現れた夜神の一団は、アーネスと特徴の一致する人物を探していたらしい。


「髪が赤くて目も赤い、おそらく10歳以下のスエラ」

「アーネスって今は……」

「九歳だ。で、あの村に赤髪のヤツは……俺以外、居なかったはずだ」


 まず間違いなく夜神とやらが探しているのは、アーネスで間違いないだろう。

 もちろん、アクシーの話が本当なら、っていう前提はあるけどな。


「どうしてそんなピンポイントでアーネスが狙われるんだ?」

「さあ? 僕だって、ダイアーとトライトに無理やり戦わされてただけで、詳しいこと聞いてないもの」


 戦わされてた? それって……


「パパとトライトさんは、今も戦ってるってこと?」

「ああ。もちろん」


 さも当然といったように答えるアクシーを前に、俺は頭を強く打たれたような感覚を覚えていた。

 俺の大切な家族に、危険が迫っている。ココット村が燃えていた時点で、ある程度予想はついていたけれど、改めて断言されるとやはり来るものがある。

 率直に言って、嫌な気分だ。


「アーネスは……どうするの?」

「俺は、ココット村に向かうつもりだ」

「向かって、どうするの」

「さあな。でも、俺を探してるって言うなら、行かないわけにはいかないだろ」

「それは……」


 そうだけど、違うだろ。

 アクシーはわざと断言を避けていたようだけど、アーネスが顔を出して、それでありがとうさよならって帰ってくれるわけがない。

 放っておけば、まず間違いなく、アーネスは夜神とやらに連れ去られてしまう。

 あるいは……殺される可能性だってあるはずだ。


「妖精神様も向かってるんなら、わざわざアーネスが行かなくても……」

「いえ、おそらくそうもいきません。おそらく、妖精神様お一人の力では、どうにもならないかと思います」

「おばあちゃん……?」


 突然、強い声色で口を開いたおばあちゃんに、おれは思わずたじろいでしまう。

 何か理由はあるんだろうけど、言い過ぎじゃないか?

 だって、妖精神様はあれだけ広範囲に攻撃できたりもするんだろう?

 いくら相手側が強大でも、対応できるはずじゃないのか?


「夜神は不死身の軍勢を持っています。それも、ほとんど無限に近い」


 それからおばあちゃんが語り始めてくれたのは、夜神という存在についてのこと。

 あるいはほとんどこの国の……いや、この世界の成り立ちにも近しい「神話」についてのことだった。


「夜神ジャックは、日神ハイロウと対を成す存在です。彼らの神話は至って単純。二つの神は世界の始まりから常に争い続けており、争い続けることで世界の均衡を保ち続けると、そう伝えられて来ていました」


 なんてアバウト。だけど、詳しく教えられるより、この程度の説明である方が分かりやすいのかもしれないな。


「やがて、二神の信徒は、同じ考えを持つようになりました。神々が争いを認めているのなら、我々も互いに争うべきだと。彼らは神話の時代から長きにわたる対立を続け、彼らの名の下に多くの国が興っては、滅んでいきました」


 聞けば、このネルレイラ王国で「神」と呼ばれている存在は3つだけらしい。

 一つ目がネルレイラ王国より北方の大陸で信仰されている日の神、ハイロウ。

 二つ目が東の海の果て、主にはとある島国で信仰されている夜の神、ジャック。

 三つ目がこの国の王にして、妖精神として信仰を集める存在、ネルレイラ。


 現在は比較的安定しているが、少し前までは、妖精神を除く二つの神は常に対立するべきであるというのが、世界の通説だったのだそうだ。


 じゃあネルレイラ王はなんなんだよって言いたくなるところだけど、グッとこらえる。世界の全てを聞いていては、話に収集が付かなくなりそうだ。


「日神ハイロウの信徒たちは【聖歌】と呼ばれる奇跡の技をもって夜の軍勢を蹂躙しましたが、夜神ジャックの信徒たちは【晩歌】と呼ばれる対抗策を携え、日の軍勢に対抗しました。ですが、その本質はどちらも同じ」

「つまり……?」

「聖歌も晩歌も、端的に言えば、死者を操る術だったのですよ。【聖歌】は人の魂を操り、【晩歌】は人の肉体を操るという、明確な違いはありましたが……」


 そこまで言葉をつづけたところで、エルーンおばあちゃんは一息つき、アーネスの方を強く見据えてから言った。


「なんにせよ、度重なる聖歌と晩歌の応酬は、世界に呪いを残しました。それがグールとダイモン、そしてスエラという存在です」

「っ……」


 おばあちゃんの声で、アーネスが息を呑んだのが伝わって、俺は無意識のうちに、彼に寄り添おうと動いていた。

 体をぴたりとくっつけて、その手を握って言ってやる。


「大丈夫」

「……ああ、ありがとう」


 多分だけど、エルーンおばあちゃんは、公平に物事を考えられる人だと思う。前にどこかでちらっと、日神は正教、夜神は邪教なんて話を聞いていたけれど、彼女はあくまでどちらの立場にも立たず、日神と夜神を同等ものとして扱っているような気がする。


 だったら、アーネスにも偏見を持たずに接してくれるはずだ。アーネスの方は、ずっと怖がっていたみたいだけどな。


「……今の世界に生きる人間、あるいはすべての生き物は、適切に弔われないまま死んだ場合、魔物と化してしまいます。魂の離れてしまった肉体は、グールと呼ばれる動く死体に。肉体を失った魂は、ダイモンと呼ばれる霊体に」


 基本的に彼らは生者に対して敵対的であり、危害を加えることができる。そして、それをある程度人為的に操り、戦争に加担させる術こそが【聖歌】と【晩歌】だったのだという。


「先の戦争が終わった際、日神の名の下に戦ったダイモンは、全て弔われたと言われています。ですが、グールはそうではない」

「それこそが、夜神の不死身の軍勢だと」

「その通り」


 なるほど。大体要点はわかったが、そろそろ頭がパンクしそうだ。聞きたいことは山ほどあるが、少し頭を休めてから、詳しく聞いてみることにしよう。


情報まとめ

日神ハイロウ:北の大陸で信仰されている神様

夜神ジャック:東の島国で信仰されている神様


聖歌:漂う死者の霊体、【ダイモン】を操る歌

晩歌:動く死者の肉体、【グール】を操る歌

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