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今世の俺は長女だから  作者: ビーデシオン
第四章「妖精神の傘の下」
74/105

74 沈んで眠れ


 とりあえず見える範囲に黒い影の姿は無くなったし、例の晩歌も聞こえなくなったわけだけど、正直まだ何が起こっていたのか理解できていないのも事実で。とりあえず誰か説明してほしいんだけど……


「よお王様! 今日は景気が良いな!」

「ど派手な連撃だったわ、妖精王。何かいいことでもあったの?」

「王よ。分体とはいえ、あなたが出てくることはもなかったでしょうに……」


 快活に走り寄ってきた火炎放射の人に、ゆったりと続いてきたナイフ投げの人、それに続いて眼鏡をクイっと整えながら歩いてきたのは、本を浮かべて文字を飛ばしてた人。


 とにかくまあそんな感じに、教師陣がバラバラににじり寄ってきたせいで、俺たちは蚊帳の外になってしまった。空中から降りてきたネルレイラ王も、いちいち同時に応対を始めてしまっている。


「もう、リーラントに聞いた方が早そうだな」

「私もそう思う」


 まあ、立場的にしょうがないのかもしれないが、ちょっと説明不足が過ぎるよな。対応こそ一瞬だったし、三連撃で心配の種を蹴散らしてくれたのは感謝してるけどさ。


 ともあれ、そんなことを口に出してもしょうがないし、俺に人の心をえぐるような趣味はない。説明が無いなら無いで、別の人を当たればいいだけだ。というわけで解説のリーラントさんは……あ、こっちに走ってきてる。


「レーダにアーネス! 無事でよかった……!」

「お、おう」

「どうしたの? そんなに焦って」


 俺たちがそんな風に意外そうな顔をすると、リーラントは一瞬、あっけにとられたような表情を浮かべた。おそらく彼女もネルレイラ王から説明されていると思っていたのだろうか。ともあれそれも一瞬だけで、リーラントはすぐに状況を理解したらしい。


「……ただおぬしらが心配だっただけじゃ。大役を任せて、心配をかけて……すまぬことをした」


 リーラントはそう言って俺たちを抱きしめてくれた。ずいぶんと優しい声色だな。どうやらうちの大妖精さんは、ずいぶんと心配性らしい。結果的に何の被害も出なかったわけだけど、ずっと心配してくれていたのだろう。


「ともあれ、今日はせわしく動きすぎて疲れたじゃろう。今夜はわしの家に泊っていくとよい」


 リーラントの家か。そういえば彼女も王都で暮らしているわけだし、そりゃあ家くらい持ってるよな。身にまとっているドレスからして、結構裕福な暮らしもしていそうだ。となると晩御飯とかにも、期待していいのかな?


「今はもう、ゆっくりと休むのじゃ……」


 腕の中で優しい声を聞いていたら、なんだかあくびが出てきてしまった。そうだな、今日はもう歩き疲れた。街の中も走り回ったし、城壁を駆け下りもしたわけだし。そろそろ休んでもいいよな。眠いし……。


「まどろみ纏い、沈んで眠れ。続けて綴る筆渡せ」


 優しく子守唄のような声色で続けられる言葉には、聞き覚えがあった。おそらくこれは、リーラントの得意技、春昼落としだろう。別に、そこまでしなくていいのに、なんだかすごく大げさだな。


「リーラント?」


 アーネスは不安そうにしているが、別にここで眠りに落ちてしまっても、誰かが運んでくれるだろう。無理して抵抗する必要もない。そう思って、俺はゆっくりと目を閉じた。


「春昼落とし」





 そして、俺は眠りに落ちた。


 結局今まで、何が起こっていたのかということ、

 リーラントが説明らしい説明をしなかったこと、

 目を覚ました後に何が起こりかねないかということ、

 それらすべてに疑問を抱かず、何もかも深く考えず、


 ただ安心感に身を任せて、夢の中へ落ちていった。


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