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今世の俺は長女だから  作者: ビーデシオン
第四章「妖精神の傘の下」
73/105

73 三連撃


 海から離れた広場の中、晩歌をかき消す勢いの歓声が響く。

 声の元は先ほどまで戦っていたはずの教師陣だ。

 彼らは波打ち際への攻撃を止め、皆々がこちらへ駆け寄ってきている。


 一見すると撤退に見えなくもないが、そういうわけではないだろう。彼らの視線の先にいるのは、先ほど名乗りを上げたばかりの白フードの男性だ。彼の言うことを信じるなら、妖精神王ネルレイラ・ハイマンである。 


「う、うーん?」 


 そういえば、ミナの実家の名前はミシュガンだったわけで。

 じゃあダイアーの実家はどこにあるんだろうなんて、考えて居なかったわけではないんだけど……だけどさ。


 ネルレイラってあれだよな、リーラントが契約の時に言っていたアレ。

 この国と、著名な妖精たちを束ねてるっていう、妖精王的な奴だよな。

 つまりはアレか?

 ダイアーがやけに有名だったのってひょっとして、この国の王子様だったからなのか?


「な、なあレーダ。あの人が妖精神様なのか?」

「……わかんない」


 そうだ。しかもこの人、自分の事を妖精神王とか言ってたな。


 神王っていうのがどういう意味なのか、正確なところはわからないけど、ニュアンス的にはイコール妖精神と言ってしまってもおかしくはなさそうだ。


 つまりはこうか? この人はダイアーのお父さん(?)で、この国の王様で、ついでに教会であがめられてた妖精神様で……ダメだ。またわからなくなってきた。


「イチ、イチ、イチ、ニイ、ニイ、ニイ」


 しかもこの人さっきからなんか呟いてるし。


 微妙に声がしっとりしてリズミカルなせいで、催眠音声か何かに聞こえてくる。いわゆるカウントアップってやつだ。後ろ姿とひらめくマントくらいしか見えないが、きっとその目は細められているに違いない。聞いていて気持ち悪いわけではないが、この状況で心地よくはなれないぞ。


 まあ、冗談はさておき。一体この人は何をしているんだ?

 なんて、軽い思考を巡らせていたところのことだった。


「サン、サン、ゼロ」


 突然、まばらに残っていた雲が寄り集まり始め、空模様が一変する。積乱雲のように密集した巨大な雲が、少しずつ地上に近づいてくる。自然には有り得ない光景、間違いなく、ネルレイラ王が何かをしたのだとわかる。


 やがて、積乱雲は波打ち際に密集した船団の、直上へと移動を終えた。

 今から、何かが起こるのだろう。お手並み拝見といこうじゃないか。


天照す大雷あまてらすおおかみなり


——瞬間、視界から色が消えた。


 そう錯覚させるほどに巨大な雷が、積乱雲から一直線に落ち、黒い靄のかかった船を撃ったのだ。一瞬遅れて、聴覚を破壊せんばかりの爆音が響く、自然の雷の音じゃない。アクション映画で、高層ビルが丸ごと吹き飛んだ時くらいの過剰すぎる爆発音が、波打ち際に響いたのだ。


 キンとなっていた聴覚が戻ってきて、視界に色が戻ってくる。一撃で全てが決まったようにも見えるが、おそらくまだ終わっていない。


「ゼロ、サン、ゼロ。一颯薙ぐ剣風いっさなぐつるぎのかぜ


 大竜巻のように巻かれた風が、直下の黒い船団を巻き込んで、切り裂いていく。船だけではない。波打ち際から上陸しようとしていた黒い影を、まとめて全て巻き上げていく。そんな風の影響だろうか。だだでさえ密集を続けていた雲が、軌跡を描く風に巻かれてただ一点に凝縮されていく。凝縮して、大きな水の塊を形づくっていく。

 

「ゼロ、ゼロ、ゼロ。荒み呑む水塔(すさみのむみずのとう)


 そして、水の塊は勢い良く落ちた。

 自由落下の速度ではない。明らかに叩きつけられるように。黒い靄、破片、人影に残骸。全てを飲み込んで直下へ落ちた。波打ち際に叩きつけられた水の塊は、すぐさま反発して飛び上がる。球体を保てなくなった水の塊が、天を突く塔のように引き延ばされて天へ上る。


「そして、弾けろ」


 周囲一帯の雲。その全てを巻き込んで繰り出された大技は、中空にて水の塔を弾けさせることによって締めくくられた。キラキラと輝く水滴が空を照らし、地上へ向けて降ってくる。透明で、純粋な水の粒には、黒い靄の影も見当たらない。飲み込まれた木片や、船や、人影は、まるきりすべて消えてしまった。


「さて、こんなものかな。どうだった?」

「ど、どうだったといわれても」


 なんとか頭の中で言葉を見つけつつ、状況を理解しようと試みたけど、いざ感想を求められると困ってしまう。正直、目の前のことを目に焼き付けるので精いっぱいで、何も考えていなかった。それでもなんとか、心の底から、捻りだせる言葉があるとするのなら……


「「す、すごすぎる……」」


 奇しくも俺とアーネスは、全く同じタイミングでそんな言葉を呟くことになってしまった。


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