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今世の俺は長女だから  作者: ビーデシオン
第四章「妖精神の傘の下」
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72 妖精神の傘の下


 波打ち際から聞こえていた歌……リーラントは晩歌と言っていたっけ。とにかくそんな歌声は、前に比べればずいぶん小さくなっている気がする。少なくとも、人の声が聞こえないほどじゃない。


「リーラント、避難誘導は終わったかい?」


 門をくぐり抜ける直前になって、白フードの人物が突然、そんなことを呟いた。

 目の前にリーラントの姿はないが、おそらく何らかの手段で連絡をとっているのだろう。


「そうか。では、直ぐに向かう」


 城壁の下、半開きになった門の先には無数の人影が見える。ほとんどは黒い靄を帯びたナニカではあるが、まばらに教師らしき人物が残っているようだ。見たところ、恐慌して逃げ惑っているような人影は見えない。入学式に訪れていたような人々は、避難できたということなのだろうか。


 リーラントを始めとした十数人ほどの教師陣は、波打ち際へ向けて向かい合うように隊列を組み、人によって様々な攻撃を放っている。驚異的な速度で無数のナイフを投げつけ続けるロングスカートの麗人に、自身の周囲に4,5冊の本を滞空させ、無数の輝く文字のようなものを放ち続ける白衣の男性。何やら雄々しく叫び声を上げながら、両手で火炎放射を放つ貴族服の男等々……なんだかみんなキャラの濃い攻撃方法で攻撃を続けている。


 そんな中でもリーラントは地面から3メートルほど上空に滞空しつつ、ジェスチャーを重ねながら何かを叫んでいる。おそらくは、教師陣の指揮を取っているのだろう。波打ち際から現れた黒い影たちは成すすべもなく蹂躙されているようにも見えるが、一向に数が衰える気配はない。


「さて、そろそろ私も加勢しないとね」

「うおっ? 急に降ろすなよ!」


 白フードの男性はそう言って俺たちを肩からおろすと、アーネスの文句に何も答えないまま、大きく息を吸い込んだ。澄み切った呼吸音を響かせながら、深呼吸を一つ、二つ、三つ。そうこうしているうちに、彼の両足が、地面から離れていく。胸を開くように両手を広げた肉体が、みるみると宙に浮いていく。


「……なんだよ、コイツ」

「まあまあ、ちょっと見てようよ」


 アーネスは不機嫌そうに呟いているが、俺は何となく、この人の正体に見当が付いていた。おそらくは、リーラントと同じような立場の方なのだろう。そのことを証明するように、彼の背中には、いつの間にか半透明の翼が生えている。


「聞け! 幻想に囚われ苦しみ続ける、哀れな人の子らよ!」


 口ぶりからして、間違いはないだろう。

 当たり前の用に飛んでいるのは、それが彼にとっての当たり前だから。

 そもそも妖精の力を借りる必要がないから、歌を歌う必要もない。


「この妖精神の傘の下に、君たちを受け入れることはできない!」


 おそらくこの人はリーラントと同じ。

 彼女が春の大妖精であるなら、この人は……


「せめて、この妖精神王自らの手で、君たちに安らぎを与えよう」


 何らかの季節の大妖精……

 ん? え? なんだって?

 妖精神が、王で、……なんだって?


「我が名はネルレイラ・ハイマン! この国の王だ!」


 ネルレイラが……なんだって? 

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