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今世の俺は長女だから  作者: ビーデシオン
第四章「妖精神の傘の下」
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68 お姫様だっこ

前回がちょっと長かったので、今回は短めです。

『レーダにアーネス、聞こえるか!?』



 全てが歌に支配された空間で、脳裏に直接響いた声には、聞き覚えがあった。

 間違いない、リーラントだ。妖精歌を使ったのだろう。

 彼女は混乱する人々の中から、いち早く抜け出して走っていた。

 皆々が駆け寄る王都の城壁の方向ではなく、まさに今正体不明の集団が上陸しようとしている浜辺に向けて。



『ここはわしら教師陣が引き受ける! おぬしらはいち早く王都に戻り、この事態を王城に伝えてくれ!』



 王城に伝える? 俺たちが? どうやって?

 そもそも俺は城の位置すら知らないし、王族とのコネクションがあるわけでもない。

 ましてや俺たちはまだまだ幼い。

 7歳児と9歳児が何か言ったところで、聞き届けてもらえるとは思えないが。



「ダイアーの名前を出せば、それができるはずじゃ!」


 返事をすることはできないが、理解した。

 そうなのか? と疑問が浮かばなかったわけではないが、リーラントが言うのであれば間違いはないのだろう。

 俺たちは今、重大な役回りを任されたのだと。

 恐慌の叫び声すら聞こえなくなった、この異様の空間の中で、それを成せるのは俺たちしかいない。

 アーネスもそのことをよく理解しているのか、繋いだ手を強く握り返してくれた。



 だから、走る。



 同年代の子供たちを押しのけて、困惑する親たちの間を縫って。

 未だに事態を把握出来ていない、多くの人々を置いて。

 例え彼らを見捨てることになっても、最悪の事態を避けるために。

 何としても俺たちは、城壁の中に滑り込まなければならない。



 視界の端に、城壁の上で角笛を吹く衛兵らしき人影が目に入った。



 嫌な予感がして、脚の運びを早めていく。

 予感は当たってしまったようで、両開きの城門が、ゆっくりと閉じられていくのがわかった。

 まさか、入学式に出席した面々を締め出すつもりか?



『急げ二人とも! 奴らの晩歌は恐慌を呼ぶ。城門が閉じられれば、手遅れになるやもしれぬぞ!』



 晩歌? また知らない言葉だが、精霊歌の一種だろうか?

 いや、詳しく考える必要はないな。

 今が頑張り時だ、俺たちだって、ただ村の周りでうろうろしていたわけではないんだ!



「―――― ―――― ――――――」



 横を見ると、アーネスが何かを呟いているのがわかった。

 一体何をとは思わない。

 俺だってこの三年間、アーネスがなにをしていたのかってことくらい知っている。



「――――――!!」



 アーネスが顎を大きく開いて何かを叫ぶ。

 瞬間、俺たちの行く先に水色の粒子が集まっていく。

 小さな光はアーネスの足元に集結し、やがて流れを作っていく。

 それはまるで、波打ち際に押し寄せる波のように勢いづいて。

 彼の足を飲み込んで、早馬のような速度で前方に押し出していく。



 アーネスが突然、俺の身体を抱き寄せた。



 抵抗はしない。

 彼のやろうとしていることくらいわかっている。

 例えるなら、今のアーネスは突然最高速の原付に乗り込んだようなものだ。

 このまま俺が、自分の足で走ろうとすれば、どうなるかってことくらいわかっている。

 だったら、このまま彼に抱きかかえたほうが良い。



 うん? でも……これ、ひょっとして……お姫様だっこか?



 ああ! やっぱり!

 アーネスは俺を抱き寄せた瞬間、膝裏に腕を通してきた!

 足払いのように俺を掬い上げて、躊躇なくおれをお姫様だっこしようとしている!


 いや、抵抗しないとは決めたけどさ。

 この状況で羞恥心が出てくる方がおかしいってわかってはいるんだけどさ。

 それでもやっぱり、心の準備ってものがあるじゃん!


 ……いや、よくよく考えたら俺、ずっと前にダイアーにもお姫様だっこされてたな。


 まあ、結局これが一番運びやすいってことなんだろうな……


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