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今世の俺は長女だから  作者: ビーデシオン
第四章「妖精神の傘の下」
66/105

66 入学式に行こう!


「やっぱりすごいな……」


 いつか来た、大通りの突き当り。

 落ち込んでいる時ですらすごいと思った光景は、初見でなくとも心動かされるもので。

 俺は思わず立ち止まって、四色のレンガで彩られた校舎に目を奪われていた。


「レーダもアーネスくんも、はぐれないように気を付けて」

「二人とも手をつないでおくといいんじゃない?」


 両親の呟きで思い出した。

 そういえば、前に来た時もそんなことをしていたな。

 あの時も人通りはすごかったけれど、今日は特にすごい。


「やっぱり、入学式だからか、人が多いね」

「そうだな……」

「手、つなぐ?」

「そうだな……」


 おっと、聞こえてないなこりゃ。

 アーネスは半分放心状態になってしまっているようだ。

 村の方で、これだけの人が集まることなんてないから、彼にとって居心地の良い空間ではないかもしれないな。


 よし、ここはひとつ、このレーダちゃんが君を鼓舞して差し上げよう。


「えいやっ!」

「ぐえっ!」


 小さな平手で背中をそぉい!

 いつまでも俯いているんじゃあないよ!


「何すんだよ!」

「お、良い声」


 少々古典的ではあるけれど、気合い注入というやつだ。

 こうでもしないと、こっちをむいてくれないだろう?

 ずっとうわの空でいられるより、こちらを向いて文句を言ってくれるほうが、こちらとしては居心地がいいのだ。


「いい声って……もう少しやり方ってものが」

「だって呼びかけてもまともな返事しないんだもん」

「え、マジか。気付いてなかった」


 おうおう、随分緊張していらっしゃるね。

 こりゃ気合いを入れておいて正解だったか?

 今日は沢山の人と初対面になるはずだからな。

 俺とタッグを組みたいなら、そこのところちゃんとしてもらわないと困るぜ。


「なんだか、すっかり身内ね」

「ああ、僕はもとより、そのつもりだけど」


 あ、やべ。そういえば、この場にはミナもダイアーもいるんだった。

 実の両親にあんまり乱暴なところみせるもんじゃないな。

 反省反省……


「隙あり!」

「ぎゃあ!」


 側頭部を人差し指でポリポリ掻いて俯いた瞬間、背中に衝撃。

 犯人は誰? なんて考える必要はない。

 そのあからさまに手加減の効いた平手打ちはお前だな、アーネス!


「やりやがったな!」

「なんだ? 先にやったのはお前だろ」

「せっかく人が幼馴染の美少女を演じてやったのに!」

「演じなくても事実そうだろ!」

「え? 照れるな」

「照れてんじゃねぇ!」


 ふふふ。なかなか楽しいな。

 やっぱりアーネスとのやり取りはこうでないとね。

 こういうわちゃわちゃしたやりとりが、貴重な子供時代の思い出になるんだろう。

 何目線だって話だけど、とにかく俺は、今この瞬間を精一杯楽しむのだ!


***


 正門をくぐり、四色レンガの本校舎らしき建物の前に行くと、各種案内板が見えた。

 俺はダイアーのおかげで大丈夫だけれど、みんながみんな文字を読めるわけじゃないからか、案内板には直感で理解できるような記号やちょっとしたイラストも施されている。


 元日本人の目から見ても結構なクオリティだ。

 デフォルメ加減がちょうどいいというか、妖精みたいな格好をしたミニキャラが誘導してくれようとしている様子は、何というか微笑ましい。


 入学手続きは完全に両親に任せてしまったから知らないけれど、ひょっとすると、美術学科みたいなのもあるのかもしれないな。

 この学園も小学校や高校みたいな区切り方をされてるわけじゃなさそうだし、専攻が多岐にわたっていてもおかしくはない。

 もうちょっと予習しておけば、その辺りもわかったんだろうか。


「じゃあ僕らはこれで」

「二人とも、頑張ってね」


 あっそうか、ここからは俺たちだけで行かないといけないのか。

 見てみると、職員らしき方々が親御さん方は別の場所に行くように促している。

 親と離れたくないのか、ごねている子供も何人か見えるな。

 俺とアーネスみたいな幼年期に入学するのは珍しいことかと思っていたが、案外そうでもないのかな?


「ここまでありがとう。式は見ていくの?」

「いや、申し訳ないけど、今日は一旦帰らせてもらうよ。そろそろ帰らないとノエルが心配するからね」


 そういえば、そりゃそうか。今日は知り合いの家に預けられているって話だったけど、帰るだけでも数時間かかるからな。

 今から帰れば、村に着くのはちょうど夕方くらいか。

 ノエルも随分落ち着いてきたとはいえ、まだまだ手のかかる年齢だからな。

 手のかからないレーダちゃんとちがって、彼女は普通の子供なわけだし。


「あの……ありがとうございました」

「いえいえ。あなたもしっかりね」

「うちのレーダをしっかり守ってあげて欲しいな」

「……! はい!」


 別に村にはいつでも帰れるはずなんだけどな。

 アーネスは何やら、決意に満ち溢れたような表情をしてしまっている。

 まあ、学校入学となると、明確な門出であるわけだし、あんまり茶化すのも無粋ってものか。


「よし、じゃあ行こうかアーネス」

「おう。俺からあまり離れんなよ!」


 あら男らしい。

 なかなかいい顔をするようになったね。

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