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今世の俺は長女だから  作者: ビーデシオン
第四章「妖精神の傘の下」
64/105

64 ご両親

 案外広い建物の中を進んで行くと、階段が見えてきた。

 少し手前に鎮座するポールに、関係者以外立ち入り禁止の札が付いているが、ミモレさんは当然気にせず進んで行く。


 さっきのやり取りがあったのだから、ここにいるメンバーはアーネスまで含めて全員関係者と言っていいだろう。

 アーネスも我らがミシュガン・ファミリーの一員というわけだ。

 いや俺、正直全くミシュガン商会について知らないから、適当言えてるだけなんだけどさ。


「着きましたね。では、私はこれにて失礼」

「あら、ミモレも一緒じゃないの?」


 気が付くと、階段から廊下を進んで、両開きの扉の前に付いていた。

 謁見の間か、はたまた校長室か。

 とにかくいかにも重役が待ち構えていますって感じの部屋に見える。


「私は先ほどの特例を、職員一同に伝えに行って参ります」

「あー悪いわね」

「いえいえ。では」


 ミモレさんはそう言うと、俺たちの横から別の廊下へ進んでいってしまった。

 おそらく今から、オフィスで待つ事務員や会計職員たちに、胃の痛くなるような話をしに行くのだろう。

 俺はまだまともに働いたことはないけれど、ああいう突破イベントの処理が面倒なことくらい、推察できる。


「さて、じゃあ行きましょうか」

「俺、こんな格好で大丈夫か……?」


 見ると、アーネスが自分の胸から腰にかけてを見下ろしながらそんなことをぼやいている。

 全くこいつは、まーたそんなこと言って。

 まあ正直、俺もアーネスがいなかったら似たような不安を抱えていたかもしれないが。

 ここはひとつ、俺がなんとかしてやろう。


「アーネスもフリフリフリル着る?」

「馬鹿言うな」


 馬鹿とはなんだ。

 こっちは大真面目に緊張をほぐしてやろうとしているのに。

 まあその手段が冗談じゃたしかに馬鹿か。

 馬鹿で楽になれるならなんだっていいが。


「ふむ、案外似合うかもしれないね」

「小さい頃のダイアーみたいに?」

「ははは……」


 お、おう? ちょっとふざけてみたら、なんだって?

 しれっと今、とんでもないカミングアウトがあった気がするぞ。


「パパ、昔女装してたの?」

「……その件はまた今度で」


 うん、まあたしかに執務室っぽい場所の直前でする話ではないが。

 まあ、気にせず中に入ってしまったほうがよさそうか。


「じゃあ、行くわよ」


 ミナの合図でダイアーがドアを開ける。

 中は特別明るいとか暗いとかそういうこともなく。

 部屋の奥へ目線を向けると、二つの人影が見えた。


 一つはいかにも社長室って感じのテーブルの先に座る男性。

 もう一つはその横にたたずむ、スタイリッシュな服装の女性。

 二人ともそれなりの貫禄をもった、壮年の男女だ。


「来たか」


 その一声は厳かで、まるで、自分の立場が、彼の下に付くものであるように錯覚されられてしまいそうなほど、カリスマ性に溢れている。

 その迫力は圧倒的で、照明が当たっているわけでもないだろうに、彼の顔に強力な陰影があるかのように見えるほどだ。


「久しぶり、パパにママ」


 心なしか、ミナの声にもいつもよりしたたかさが増しているような気がする。

 やはり、あれほどの商会を取り仕切る立場と話すには、それなりの心構えが必要なのだろう。

 そう思って、俺が年に似合わない、脂汗を流しそうになった瞬間だった。


「ああ~ミナぁ~! 元気だったかぁ~?」

「ミナぁ~! 立派になったわねぇ!!」



「……は?」


 思わず漏れ出てしまったその声は、間違いなく俺の声だった。

 レーダちゃんの未発達な声帯から、本気で困惑の声が漏れてしまった。

 我ながら他人に向けられたら泣きそうになっちゃうくらいの声だった。


 え、だってこれが商会のドンの姿か?

 娘を目の前にして、全身をくねらせながらにじり寄るこれが?


「……ん、なんだいレーダ」


 思わず一瞬ダイアーの方を向いてしまったが、特に深い意味はないぞ。

 だってこの方々は、ミナのご両親のはずだからな。

 特に深い意味はないのだ!

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