59 エッ!?
「ごちそうさまでした」
「おう。じゃあ片付けるからちょっと待っててくれ」
一品とはいえ、随分急いで食べてしまったな。
レーダちゃんのちっちゃなお腹に、負荷をかけてないか心配だぜ。
まあ、だいぶ優しいお味だったから大丈夫だと思うけどね。
「それで、なんだったか」
「うん?」
しばらくお腹をさすっていたら、アーネスが戻ってきた。
なんだってそりゃ、お菓子のことだろうけど。
なんかちょっと、不器用なお父さんみたいで面白いな。
ちょっとからかってやるか。
「はて。なんだったかなぁ」
「……まあ、別にいいけど」
「ごめんごめんちゃんと覚えてるから」
ちょっと調子に乗っただけなんだ。
ちゃんとお菓子あげるから。
だからそんな、本気で悲しそうな顔しないでくれ。
このフリフリフリルの腰部分についた、外出用ポーチに入ってるから。
「はいこれ」
「これは?」
「飴だよ。家族と一緒に作ったんだ」
そうして俺は、レーダちゃん特性薬飴の包み紙を差し出した。
効果は食べてみてからのお楽しみだ。
……いや、そういえば俺、本当にミナから効果聞いてないんだよな。
食べて大丈夫なのかな、これ。
「どうした? じっと飴をみて」
「いや……うーん。いや……」
流石に毒味したほうがいいか?
いやでも、ミナが包んでくれたのは1個だけだからな。
残りは家においてあるけど、今から帰って取りに帰るのもな……
「もったいぶるなよ。そら」
「あっちょっと!」
俺がもたもたしていたら、アーネスが包みを解いてしまった。
そのままひょいと飴玉を拾い上げて一口。
まだ安全かどうかわからないのに!
……いやまあ、ミナも子供に変な薬持たせたりしないと思うけどさ。
「うん?」
ていうかなんだ?
包み紙の裏に、何か書いてあるな。
これが説明なんだろうか。
多分これは、ミナの字だとは思うけれど……
『レーダへ。間違ってもアーネスくん以外に食べさせないでね。お母さんより』
なんだこりゃ。説明になってないぞ。
アーネス以外に食べさせちゃだめなものを、アーネスには食べさせて良い理由がわからない。
アーネスにだけは効かない、なんかの毒でも入ってるんだろうか。
なわけないか。
「アーネス。何か変なことになってない?」
「ンー?」
当のアーネスはといえば、目を細めながら飴玉を転がしているようだ。
時々頬が、飴玉の形に膨れるからわかりやすい。
今のところ、変化はない。
「トクニナントモ……エッ!?」
「えっ!?」
なんてことだ。
アーネスの声が、個人情報に配慮した加工音声みたいになってしまっている。
緩い雰囲気のマスコットが主役のアニメで、唯一喋るやつみたいな声になっている。
わかりやすく言えば、めちゃくちゃ高くなっている。
「ナンダヨコレ! フザケンナ!」
「ぶっ……ふふちょっと……ちょっとまって」
やばい。めちゃくちゃ面白い。
全身で癇癪を表現しているのに、声が高すぎて面白い。
「ナニワラッテンダ!」
「うふふっ……ちょ、ちょっとしゃべんないで」
まずいぞ、ツボに入った。
腹筋が痛い。口のはたが攣りそうだ。
ちょっと面白すぎる。
「コッチハシンケンナンダゾ!」
「うははははっ!」
「コノヤロー!」
かくして俺は、唐突に訪れた地獄にしばらく苦しまされるようになった。
あとからミナに聞いてみたら、あの飴には変声剤という特殊な薬を練りこんでいたらしい。
本来の用途とはかけ離れているけど、笑えたでしょ?
とはミナ本人の言葉である。
なかなか笑いに本気を出すタイプの方らしいね。
ちなみにアーネスの声は3分くらいで元に戻った。
効果時間一日とかじゃなくてよかったね。アーネス。




