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今世の俺は長女だから  作者: ビーデシオン
間章「なんでもないおはなし」
58/105

58 アーネス の カウンター!

 あーねっすくんっ。

 あっそびましょー。

 今日はレーダちゃんが、手作りお菓子を持ってきたのだ。

 早く開けないと帰っちゃうぞー。


「お前……俺だから気付いたけど、無言で家の前にいても普通わからないからな」

「あはは、ごめんごめん」


 呆れたように家の扉を開けるアーネス。

 ノックだけで気付くのだから、彼もなかなかだな。


「家、きれいになったね」

「ああ、暇つぶしに掃除した」


 促されて入った建物の一階部分は、初めて来た時に比べると随分奇麗になっている。

 埃やクモの巣なんてもってのほか。

 乱雑に並んだ雑貨は整理整頓され、窓のカーテンは開かれ、部屋の中には暖かい光が満ちている。

 家具のうちいくつかは光沢をもって、陽の光を反射しているほどだ。

 

「それで、今日は何の用だ?」

「ああ、お菓子を作ったから、よかったらどうかなって」


 俺がそう言ったら、アーネスは意外そうな顔で固まってしまった。

 なんだ? そんなに俺からのプレゼントが嬉しかったのか?


「……何も返せないぞ」

「そんな、お返しなんて……気持ちだけで十分だよ」


 別に、バレンタインとホワイトデーじゃあるまいし。

 俺は人への贈り物に、いちいち見返りを求めたりしない。

 俺のプレゼントは無償の愛なのだ。

 喜んでくれるなら、そのほうが嬉しいんだけどね。


「いや、そうはいかない」

「え、急にどうしたの」


 気付けば、アーネスが俺の方へ手を差し出していた。

 ついてこいってことだろうか?

 まあ、今日は予定ないから別にいいけど……



「待たせたな」

「う、うん」


 アーネス宅のダイニングにて、アーネスを待っていたところ。

 何故かアーネスが木皿を持って、俺の席にそれを置いた。

 大体予想はついていたけど、やっぱり料理でお返しってことなんだろうか。


「これは?」

「ポトフだ。具材は少ないけど、味は調えてある」


 見てみると、具材はニンジンっぽい根菜とセロリっぽい葉物。

 それと、くたくたになったお肉っぽい何かだった。


「いいの? これ高かったんじゃない?」

「すじの方の肉だからな。たいしたことない」


 ほほう。ダイアーがいくらか支援してくれているのは知ってたけど、アーネスもなかなかお買い物上手みたいだな。

 しかしながら、お料理の方はどうかな?

 ミナのお料理をいつも口にしている、俺のおくちは厳しいぞ?


「では早速……」


 前のめりになって鼻を近づけ、匂いを確認する。

 なかなか良い感じだ。

 香っただけで体がポカポカしてくるような、そんな感じがする。

 お皿に立てかけられていた、小さな木製スプーンを手に取り、ニンジンとスープをすくってやる。

 そのまま口に運んで、味を確かめてみる。


「優しい味……」


 流石に、一口で服がはじけ飛ぶほどのインパクトはないが。

 むしろ真逆の、家庭的で暖かな味わいが口元に広がっていく。

 少しだけピリリととしたのは、ニンジン本来の味なのだろうか。

 体だけでなく、心も温まってしまうような味わいを表現するには、こう言ってやるのが適当だろう。


「流石、アーネスが作っただけあるね」

「……そうか? どういうことだ」

「さっき言った通り、優しいってこと」

「な……」


 おっと、なんだ?

 今更照れくさくなったんじゃないだろうな?

 女の子のプレゼントを後回しにしたんだ。

 これくらいのからかいは許していただこう。


「こりゃ、私が作るよりアーネスが作った方がいいかもねー」


 何がとは言わないがな。将来的にはな。

 ふふ、自分で言ってて恥ずかしくなってきたぜ。

 まあ冗談だ冗談。

 あんまり本気で受け取るなよ?


「もちろん。そうできるようにするつもりだ」

「え」

「一人暮らしの期間は、俺の方が長いからな。王都に行っても、大体は任せてくれて構わない」


 あ、そっか。

 まだ詳しくは決めてないけど、王都に行ったら向こうで暮らすことになる。

 つまりは、二人で暮らすことになるかもしれないのか。


「い、いや……流石に寮とかあるだろ! 一緒の部屋で二人暮らしなんてまだ……」

「……? 俺は飯の話をしているだけだぞ?」


 う? あ。そっか。

 別に部屋が違っても、食事は一緒にできるわけだし。

 そうだよな! 別に家事全般の話をしているわけじゃないもんな!

 あーびっくりした!


「まあ、そうなっても別に俺は構わないけど」

「……」


 おう……それ以上俺を刺すのはやめてくれ。

 からかおうとしたの謝るから。

 頭の中お花畑な勘違いをしたのが惨めになってくるだろ。

 そうだ、あんまり会話していると、ポトフだって冷めちゃうだろ。


「……? 顔赤いぞ。大丈夫か?」

「ポトフがあったかいからね!」


 そうだ! 今は飯に集中だ集中!

 食べ終わるまで顔上げないからな!

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