57 クッキング・ドーター
こんにちは。金髪美幼女のレーダです。
今日は凄腕シェフのミナ・ハイマンさんをお招きして、簡単レシピをご紹介します。
ミナさん。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
「……どうしたの? 私の顔に何かついてる?」
「いや、なんでもないよ」
流石に、心の中のおふざけを、声に出す事は無い。
今日は台所で、ミナと一緒に料理のお勉強だ。
もうしばらくしたら、王都の方に下宿することになるわけだしな。
自分のご飯くらい、作れるようになっておいた方がいいだろうというわけで、家庭的なレーダちゃん目指して特訓中というわけである。
「ところで」
「何かしら」
いや、突っ込むべきかはずっと悩んでいたんだ。
俺は簡単で、作り方を知っておくと便利なお料理を教えて欲しいと言ったはずなんだけど……
「なんで材料にスライムがあるの?」
「そりゃ、料理に使うからよ」
そっか……料理に使うのか……
いや、こないだのボール遊びの時点で、おかしいとは思ってたんだけどね?
なんでスライムがキッチンにあるんだとは思ってたけどね?
だとして、本当に料理用品だとは思わないじゃないか。
ギリ譲歩して食器用洗剤くらいだと思うじゃないか。
「つなぎとして優秀なのよね」
「そうなんだ……」
いやあ、こんな青々しいものが卵感覚で使われているとは。
緑色だったらまだ許せたかもしれないけど、ガッツリ食欲減退色なんだよな。
今まで、たまに出てきたハンバーグもこれで繋がれたのかな。
だとしたらちょっと正気度失っちゃうかな。
成功で0、失敗で1d4くらい失っちゃうかな。
「心配しなくても、普段の食事には入ってないわよ」
「あー、よかった……」
いや、本当によかった。
これで、昨日も食べたじゃないとか言われたらどうしようかと思った。
流石に、一般的な料理には含まれてないんですね。
まあでも、何かしらこれを使って作れるものがあるわけなんだろう?
「今日は何を作るの?」
「薬飴よ」
あー! なるほど。
どっちかっていうと錬金術的な材料なのか。
前の世界でも、漢方薬に骨とか樹皮とか使うらしいもんな。
「これの作り方を知っているかどうかで、出費が結構変わるんだから」
そういうことなら納得だ。
ここは、ママのご厚意に預かって、薬品系アイテムの作り方を教えていただこう。
◆
ぐーるぐるー。ぐーるぐるー。
木製スプーンぐーるぐるー。
お鍋の上で、ぐーるぐる……
「ねえ……これいつまで混ぜればいいの……?」
「もうちょっとよ。粉っぽさがなくなったら、そこでやめて大丈夫」
そんなホットケーキみたいな感じなのか。
なんでも乾燥させた各種素材を粉末にするだけでは、苦くて飲めたものではないらしい。
かと言って、水を加えれば効果が消えてしまう。
そんな時に、人類が編み出した手段が、薬飴なのだとか。
この世界のスライムは、熱を加えたあと冷やすと、飴のように固まってしまうらしい。
それで、水に浸すと再び溶け出すから、薬を混ぜるには最適な素材なんだそうだ。
もちろん、野生のスライムから毒抜きをする必要はあるらしいけど。
それさえ済ませてしまえば、無味無臭で人体に無害な素材になるらしい。
まるでこんにゃく芋だな。
案外、この世界のスライムはこんにゃくの魔物なのかもしれない。
「よし、もういいわよ」
バカなことを考えていたら、ミナからOKサインがきた。
俺もサムズアップで答えてやる。
「これで完成?」
「いいえ、最後に……」
そう続けながら、ミナは台所の隅にあった、小さな壺を手に取った。
小さなスプーンが、フタの切れ目から覗いているタイプのやつだ。
彼女が蓋を開けて、スプーンを手に取ったタイミングで、内容物の匂いが香ってくる。
「甘い匂い……」
「特性シロップよ。これを入れれば、大体味が整うの」
ほう、なるほど。
そんな秘密の甘味料を、子供に教えちゃっていいのかい?
いやまあ、俺もさすがに中身をつまみ食いしたりはしないけどさ。
「それ、ノエルにはばれないようにしないとね」
ノエルの方は、正真正銘ただの幼女だからな。
おねえちゃんと違って、自制心はこれから付けていくわけだし。
もしもそれの存在が割れてしまったら、壺の底まで完飲されてしまうかもしれない。
「……ふふ、そうね」
うん? なんだろう。
ミナの反応に、何か違和感を覚えてしまった。
ノエルとなにかあったのだろうか?
いやでも、あのくらい幼い子との間に、後ろめたいトラブルもないだろうしな。
「さて、あとは暗い場所で冷やせば完成。出来上がったら、アーネスくんにでもあげるといいわよ」
「う、うん。わかった。ありがとう」
うーん。気のせいだとは思うけれど、何か引っかかるんだよな。
ま、いいか。今日はもう疲れたし、また今度聞いちゃおう。
回数にして二回目の手料理、アーネスにふるまうのが楽しみだな。




