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今世の俺は長女だから  作者: ビーデシオン
間章「なんでもないおはなし」
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56 もりのレーダちゃんのホームランダービー

今回から、新章開始の助走も兼ねて、なんでもないお話を何話か投稿していきます。

よろしければお付き合いください。

 やあ、ぼくレーダちゃんだよ。

 きょうはね、野球ボールを作っていこうと思うんだ。


 いや、これはまた別の人か。

 まあいいや。どうせ誰にも伝わらないんだし。


 今日は思い付きで、野球ボールっぽい何かを作ってみている。

 理由は簡単。むやみやたらに投げ飛ばせる何かが欲しくなったからだ。

 まあそれは冗談で、ただボールが欲しくなったからなんだけど。


 そんなわけで、今日は自分の部屋こもって、工作をするぞ!

 材料は外の物置にあった、何らかの哺乳類の毛っぽい何かだ。

 野球ボールの中身は羊毛だった気がするので、ガチガチに固めてやれば何とかなるだろう。


 問題はその、ガチガチに固める材料の方だ。

 あんまりガチガチ過ぎても危ないと思うし、接着剤とかはなくてもいいかもしれないが。

 羊毛をコーティングする革的な何かは、間違いなく必要だと思う。


 と、いうわけで。


「ねえパパ。ボールを作りたいんだけど、良い材料ってないかな」

「ん、ああ。台所にいくらかスライムが残っているはずだから、それをつかうといいよ」


 ん? スライム?



 聞けば、スライムにミナの作った特殊な薬品を混ぜると、なんかこうゴムとビニールの中間みたいなブヨブヨの塊になるらしい。

 言われた通りに(何故か)台所に置いてあったスライムを拝借して、ブヨブヨを作ってみると、丁度良い大きさのゴムまりのようになった。


「なんか楽しいな」


 いつだったか、ダイアーが弓を見せてくれた時に使った的に向けて、ゴムまりを投げつけ続けているが、なかなか悪くない。

 激突した時の音も軽快でうるさくないし、なにより良く跳ねる。


「そういえば、レーダにはほとんど遊び道具をあげていなかったね」

「うん。私も欲しいって言わなかったからね」


 ダイアーはといえば、腕を組みながら俺が的当てをしているのを眺めてくれている。

 どうやら今日はおやすみの日らしいな。

 せっかくだし、パパにもちょっと協力してもらおうか。


「それっ!」

「うおっ!?」


 俺はダイアーに向けて、スライムまりを投げつけた。

 刹那。ダイアーの右手が物凄い速度で振りぬかれ、常識外れの速度でスライムまりに激突する。

 まるでホームランバッターのアッパースイング。

 打球速度は俺の投擲速度の数倍を越え、森の樹の高さを超え、空の彼方へ。

 丁度森の先遥か彼方の水平線へ向け、その姿を眩ませていったのであった……


「ああ、やっちゃった……ごめんレーダ」


 ダイアーはあからさまに申し訳なさそうな表情をしている。

 だがしかし、俺は少し悪いことを思い付いてしまった。


「ねえパパ。スライムってまだいくらか残ってたよね?」



「13球目!」


 俺は思い切りスライムボールを投げつける。

 対象はダイアー。の、少しだけ横、ちょっと内角低め。


「捉えた!」


 その言葉に違わない手刀が振りぬかれ、スライムボールの真芯を捉える。

 爆発にも近い音を響かせながら、森の上空へスライムボールが消えていく。


「くぅ……やっぱりダメか」

「いまのはなかなか惜しかったよ」


 ありったけのスライムを用意して、ダイアーからストライクを取れないか画策してみたが、結果は惨敗。

 用意した13体のスライムボールは、ことごとく場外ホームランとなってしまった。

 一球くらい抜けると思ったんだけどな。


「いやしかし、レーダもなかなか運動神経がいいんだね」

「いやあ、パパには叶わないよ」


 本当に、ただの思いつきでホームランダービーに付き合わせてしまったけれど、なかなか楽しかったな。

 心なしか、投擲技術が磨かれた気もするし、なによりいい運動になった。

 こういうどうでもいい一幕が、将来役立つ経験になったりするんだろう……なんてな。





 ちなみに。

 後日、波打ち際でいつか見た夏の妖精が我が家にやってきた。

 曰く、浜辺にて瞬間的に大量のスライムが発生。

 処理に追われて大変だったらしい。


「あー。きっと材料になったスライムが上質過ぎたんだな」


 とは、ダイアーの言葉である。

 頼むから、そんなもんホームランダービーに使う許可出さないでくれ。

 というわけで、今後はちゃんと普通のボールを使おうな。うん。


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