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今世の俺は長女だから  作者: ビーデシオン
第一章「春歌の狩人」
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5 アマチュア作家 ダイアー・ハイマン

 ミナによれば、なんでも、昔のダイアーは冒険家だったらしい。


 ただ、はっきり職業と呼んで良いようなことはしていなかったのだそうで、基本的には、ミナの住む街を拠点に、近場の未開拓地をウロウロしながら、何でも屋のようなことをやっていたのだとか。

 ミナとはその過程で出会ったのだそうだ。


「そしたらあの人、私に一目惚れしちゃったらしくて、必死にアプローチしてくるようになったのよねぇ」


 ミナは頬を抑えながら、父親としての威厳が削がれるような秘密を暴露していく。

 ドラゴンの鱗を手に入れたと自慢してきたけど、それがマーケットで仕入れただけの品だったとか、宝石付きのアクセサリーをプレゼントしてくれたけど、それが呪いの品で、大慌てで解呪しにいったとか。


 哀れダイアー。もう少しかっこいいところもあっただろうに、ミナが語ってくれるのはダイアーの抜けているところだけである。

 まあ、そういうところは例の本を読んで知れってことなんだろうな。まあ、中身が自伝なのかはまだわからないけど。

 なんにせよ、俺にとっては家の外の世界を知るための良いフックになりそうだ。


「まあ、私はもう読んじゃったから、読みたいならダイアーに頼みなさい」


 なるほどね。

 というわけで。


「ぱぱ。このほんよんで」


 著者本人にインタビューだ。執筆の意図から製作の裏話まで包み隠さず教えてもらうぞ。

 と思ったんだが……なんか固まってないか?

 どうしたパパ。まさか今更見せるつもりはないとか言わないよな。

 二歳児は暇なんだ。現状この家に存在する一番面白そうなものをお預けなんて許さないぞ?


「レーダ! 読んでくれるのかい!」


 読めねぇから読んでって言ってるんだけどな。

 いやまあ読みたいのは確かだし、ダイアーがその気なら俺としてもうれしいけど。

 ミナの過去も気になるけど、それはまたの機会だな。


***


 そんなこんなで、ダイアーに本を読み聞かせてもらえるようになってから、一月ほど経った。

 ミナの容態は安定している。たまに家を訪れる、産婆さんみたいな人の話を聞く限り、このまま行けば、問題なく出産できるだろうという話だ。

 それで、本の方がどうだったかというと……


「パパ、続きはできた?」

「ああ! 一話分だけだけどね」

「やった!」


 簡単に言うと、ダイアーが書いていたのは冒険譚だった。

 それも、自伝ではなくフィクションの。

 架空の英雄が、架空の地に出向き、架空の怪物を討伐する話を書いていたのだ。しかも、そこそこに上手い挿絵付きで。


 それだけでもかなり凄いのだが、ダイアーの文章には、何か光るものがある気がする。

 リアリティが伴っているとでも言えばいいのだろうか。

 文章表現が巧いかと言われれば分からないが、とにかく展開に引き込まれるのだ。


 俺のお気に入りは、森で遭難してしまった主人公が、湖の畔で人影を見つけ、歓喜して近づいたばかりに、罠にかかってしまうシーンだ。

 湖の人影はおろか、湖自体が巨大なゲル状の魔物の擬態だったのだ……! って感じの展開には、かなりのファンタジー的ロマンを感じた。


 ちなみに、このエピソードはほぼ実話らしい。ダイアーは人影につられたんじゃなくて、湖の綺麗さにつられたらしいけど。

 ダイアーらしいな。


「しかし、レーダもかなり話すのが上手くなってきたね」

「ほんと?」


 そうだ、この本のいいところはもう一つある。

 基本的には平易な文章で書かれているから、言葉を覚えるのにも良いのだ。


 実際、ダイアーが夜寝る前に読み聞かせをしてくれたのもあり、最近の俺は、読み書きも少しだけならできるようになってきた。

 もしかすると、その影響で喋りも流暢になり始めているのかもしれないな。


「今なら、春の妖精にも認めてもらえる?」


 そういえば、と思い出して言ってみる。

 もし、春の妖精には春しか会えないとかあるなら、早めに一度会っておきたい。

 今住んでいるここには四季があるようだし、一月経ってしまったこともあって、最近は随分日差しが強くなってきてるからな。


「ああ! そういえばそんな話もしていたね。試してみるかい?」

「試せるの?」

「夏になったらダメだけど、今呼べば来てくれるはずだよ」

「向こうから来てくれるんだ」


 随分親切だな。こちらから出向くのが礼義とか、そう言うのはないんだろうか。


「ま、子供限定で、だけどね」


 ……やっぱりちょっと不安になって来た。

 何か変なことして来たりしないよな?

 もしそうなったら守ってくれよ? パパン。

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