37 神様の力
「いやあ、なんだかんだ、こうやって二人きりっていうのも久しぶりだねぇ」
「う、うん……」
「大丈夫だよレーダ。何かあったら絶対に守るし、リーラントの方にも伝えられるから……」
「うん。それはいいんだけど……」
実際のところ、心配はしていない。
ダイアーは頼りになるし、彼がいれば滅多なことは起こらないって信じてもいる。
久々に一対一で話せるのが、ちょっと嬉しいのも事実だ。
でも、そんなことより気になることが……一つある。
「パパ、なんでそんなに光ってるの?」
今のダイアーは全身が発光しているのだ。
淡い光なんてものじゃない。
ダイアーを中心とした半径20メートル程度が照らされるくらいビカビカである。
不思議なことに、眩しくはないんだけど、死ぬほど気になる。
いや、確かにいつか見たヤツではあるんだけどさ……
「ああ、これかい? これは日神ハイロウの力だよ」
「ニッシンハイロウ?」
初めて耳にする言葉だ。
新作のカップ麺とかではないだろう。
文脈的に、神様の名前かなにかだろうか?
「黎明神より分断されし日神ハイロウ……なんて言っても、分かりづらいと思うけど、まあ簡単に言ったら、神様の力を借りたのさ」
俺がなにそれって感じの顔をしていたら、ダイアー先生の解説が入った。
そう言えば、アーネスたちと別れたあと、ダイアーは何かを呟いていた気がする。
なるほどなるほど、これがいつかリーラントが言っていた、妖精歌じゃない精霊歌ってやつか。
ただ、神様の力を借りるって、大層な言い方だな。
ファンタジーものならお約束だけど、ダイアーもそういうのできるのか?
「ひょっとして、パパってそのハイロウって神様の神官だったの?」
「間違ってはいないけど……少し違うかな」
気になって質問してみたら、絶妙な答えをもらってしまった。
まあ、見るからに本業は狩人だし、敬虔に何かに祈っているところなんてみたことないけどさ。
とりあえず、黙って続きの言葉を待とう。
「パパが信仰しているのは、日神じゃなくて黎明神さまさ。今はもう、いなかったことにされているけどね」
「……」
うーん……また知らない単語。
アーネスのおかげで、このあたりの地理には詳しくなれたけど、信仰についてはまだまだ全然なんだよな。
いつかは調べようと思っていたけど、早めに知っておいたほうがいいのか?
でもあれ、固有名詞が多くて大変なんだよな……
「また今度、詳しく聞かせて」
「もちろん。なんだったら、まだ本にしてない冒険譚を語ってあげよう」
それは頼もしいな。
勉強の始まりは、人から聞いてしまうのが一番だ。
俺もダイアーの冒険小説は全巻追っているから、あれに絡めてもらえれば覚えやすいだろう。
「そして……目的地についたみたいだね」
「え? もう?」
「ああ、海の中だ。手早く僕が何とかすることもできるけど、どうする?」
海の中だって……すぐそこにガーディアンとやらがいるのか。
の割には随分余裕だな。
いやまあ、うちのパパなら余裕なんだろうってことはわかるんだけどさ。
こういうのってもっと緊張感持ってやった方がいいんじゃないか?
そんなんだからリーラントから苦言を呈されるんだぞ。
ま、そういう安心感あるところが好感持てる部分でもあるんだけどさ。
「リーラントに連絡はとれるんだっけ」
「うん。流石にアーネスくんごと呼び寄せることはできないけどね」
そう言えば、リーラントは一応呼ぶだけでワープできるんだよな。
流石にアーネスごとは無理か。
でも、あっちもあっちで何かあるかもしれないし、連絡だけでも十分だろう。
「じゃあ、とりあえず連絡をお願い」
「わかった」
俺がそういうと、ダイアーは虚空を見つめて何かを呟き始めた。
精霊歌を使っているんだろうけど、傍から見るとシュールだな。
ひょっとして、本当にテレパシー的な何かも使えちゃうのか?
うちのパパ、本当に底が知れないから判断着かないんだよな……
「あらあら、随分慎重だねぇ」
ふと、ダイアーから目線を外していたら、背後からそんな声がした。
咄嗟に振り返ると、少し離れた位置に、何かが浮いているのが見える。
それは……人の形をしていた。
「あなたは……さっきの」
スーツ姿の小さな男の子。夏の妖精。
姿が見えないとは思っていたけど、ついてきてたのか。
「慎重なのはいいことさ。致命的な事態は、大体そうやって回避することができる」
妖精は口元に笑みを浮かべ、こちらに近づいて来ながらそう言う。
不気味なやつめ。
何に浸ってるのか知らないけど、気持ちの悪い男は嫌われるぞ。
金髪美少女レーダちゃんが思うのだから、間違いない。
「でも、こういうのは想定できてたかい?」
「え?」
こういうのって……どういう?
そう思って、咄嗟に周囲を見渡して、気付いた。
「パパ……?」
いつの間にか俺の周囲には、とんでもない濃霧が立ち込めている。
少なくとも見える範囲に、ダイアーの姿は見当たらない。
「妖精に不用意に近づくなって、さっき教わったばかりなのにね」
そっちから近づいて来たくせに、よく言うな。
だけど……認めよう。確かに今のは俺の迂闊だ。
コイツが近寄ってきた時点で、距離をとるべきだった。




